254.【sideソフィア】袂を分かつ時②
「んで、オルン。クランを抜けるってのは、マジなのか?」
レインさんが落ち着いたところで、ウィルクスさんが再びオルンさんに質問する。
「……あぁ。こんなこと冗談で言えないさ」
「つーことは、オレたちの敵になるってことか?」
ウィルクスさんの質問に、部屋の空気が張り詰めたものに変わる。
そんな中で、オルンさんはゆっくりと首を横に振る。
「クランを脱退するって言いながら都合が良いと思われるだろうけど、ここを抜けてもみんなとは仲間のままでいたいと思ってる。だけど、《夜天の銀兎》とは敵対することになる」
「それは、どういうことだ。私たちと仲間でいながら、敵対する?」
お姉ちゃんが首をかしげる。
というより、私含めて全員オルンさんの言っていることの意味が分かっていないように思う。
「俺はこれから、《シクラメン教団》を叩き潰すために派手に立ち回る。そんな俺が《夜天の銀兎》に在籍したままだと、団員に迷惑が掛かる。だから、教団に俺と《夜天の銀兎》が袂を分かったと思わせたい」
「ししょーは、教団と戦うの?」
「あぁ。アイツらとは因縁があるからな。俺がこの手でケリを付けたいんだ。そんな我儘にみんなを巻き込むわけにはいかない」
「だったらあたしもししょーと一緒に戦う! あたしだって教団と因縁あるもん!」
「僕も戦います!」
「わ、私も!」
「水臭ぇじゃねぇか、オルン。言ってくれりゃ力はいくらでも貸すぜ!」
「だね! ボクはもう仲間が居なくなるのは嫌なんだよ。一緒に戦わせて」
「オルンは私の――私たちの大切な仲間だ。仲間が戦うって言うなら私たちだって戦うさ!」
キャロルの発言にみんなが続く。
うん、そうだよ。
厳しい戦いになるのかもしれないけど、みんなが一緒ならきっと!
オルンさんは私たちの反応が意外だったのか、驚きの表情をしていた。
その表情が次第に笑みに変わっていく。
「みんな、ありがとう」
オルンさんの言葉を聞いてみんなが安堵する。
良かった。
これで、オルンさんと離れ離れになる必要はないね。
そんなことを思っていると、すぐにオルンさんの表情から笑みが消えて、
「――でも、ダメだ」
拒絶の言葉を発した。
「……何故だ?」
「協力してくれるって言ってくれるのは心強いよ。だけど、協力してくれるなら、教団との直接の戦いとは別の場所で、戦ってくれると嬉しい」
「別の場所だと?」
「うん。その場所は大迷宮。みんなにお願いしたいのは、南の大迷宮の攻略だ」
「大迷宮の攻略って……。それがオルンくんと一緒に戦うことになるの?」
「あぁ。……この先、世界は大きく荒れることになる。これまでの常識が通用しなくなる場面もあるはずだ。それを治めるのに、大迷宮の攻略がカギになる」
「オルン、お前には何が視えているんだ……?」
お姉ちゃんがオルンさんに問いかける。
「少し先の未来、かな。この先に待っているのは、大迷宮の攻略が望まれる世界だと俺は予想している。大迷宮の攻略は、元々このクランの目標だろ?」
「それはそうだが……」
「このクランなら、ひどい嵐に見舞われても、それを追い風にすることができると信じている。だからお願いしたい。《夜天の銀兎》の力で、南の大迷宮の攻略を成し遂げて欲しい」
「……それが、オルンが私たちに望むことなのか?」
お姉ちゃんがオルンさんを真っ直ぐ見据えながら問いかけた。
「うん。遅かれ早かれ、誰かが大迷宮攻略をしなければならない。それなら、俺は《夜天の銀兎》のみんなに攻略してもらいたい」
お姉ちゃんは一瞬寂し気に目を伏せたけど、すぐに力強い視線をオルンさんに向けた。
「そうか。わかった。できることならオルンと一緒に大迷宮を攻略したかった。だけど、オルンの決意は固いんだろ?」
お姉ちゃんの問いかけにオルンさんは力強く頷いた。
「だったら、大迷宮の攻略は私たちに任せろ! 絶対に私たちで成し遂げてみせる! だからオルンもやるべきことをやり遂げてくれ」
「……ありがとう、セルマさん。俺も決して諦めないよ。最後まで全身全霊を尽くすと約束する」
それからオルンさんは、これから起こるであろうこと、オルンさんが何をしようとしているのかを話してくれた。
それは夢にも思っていなかった未来だった。
「……だから俺は、このクランを抜ける。自分勝手で本当にごめん。でも、もう決めたことだから。俺が今言ったことをどう受け取るかはみんなに任せる。みんなが自分らしく笑って過ごせること、それが今の俺の望みだから。――――みんな、元気で」
オルンさんはそう言って話を切り上げると、部屋から出て行ってしまった。
話を聞く前だったら全員でオルンさんを引き留めたと思う。
だけど、あんな話を聞いた後じゃ、そんなことはできない。
だってオルンさんにそんな決断をさせたのは、間違いなく私たちを護るためだってことだもん。
護られるだけの弱い私たちにオルンさんを引き留める権利も資格もない。
悔しいよ……。
何で私は、こんなに弱いの……?
「大迷宮の攻略、か。確かにそれはオレ個人の目標でもあるけど、約束したじゃねぇか。姉御とオルンが帰ってきたら、また五人で一緒に大迷宮攻略をしようって。なのに……、クソっ!」
重苦しい空気の中で、ウィルクスさんが悔しそうに気持ちを吐露する。
「ボクたちは、何にも知らなかったんだね」
「ひとまず、私たちがこれから何をするにしても。今は考える時間が必要だ。オルンの言っていることが本当なら、そんなに時間は無いんだろうが、今ここで感情に任せて決めることではないと思う」
お姉ちゃんが悲しそうに肩を落としながらも、私たち探索者を纏める幹部として、私たちに声を掛ける。
自分も辛いし混乱しているはずなのに、やっぱりお姉ちゃんは凄いな……。
「セルマの言う通りだな。オルンの話は寝耳に水だったはずだ。特にダルアーネから帰ってきた五人は疲れも溜まっているだろうし、今はゆっくりと休んでくれ」
総長がお姉ちゃんの言葉に同意する。
「総長はあんまり驚いているように見えないね。わたしは頭の中がはてなマークでいっぱいだよ。オルっちの話を聞いても、彼が抱え込んでいる物の大きさがどれくらいのものなのか、わたしにはわからなかった。あの選択にどれだけの覚悟が必要なんだろう……」
「私だけは事前にオルンから聞かされていたからな。初めて聞かされた時は私も戸惑ったよ」
「総長はこれからどうするか決めているんですか?」
「私は《夜天の銀兎》の総長だ。私はこのクランと団員を護るために動く。その結果、オルンを切り捨てることになったとしても」
「………………」
みんなが自分のことで精いっぱいだった。
それは私も同じで、周りに目を向ける余裕はほとんどなかった。
だけど、この部屋に入ってから一言も発さずジッと静観していたルゥ姉の姿は、私の知ってるルゥ姉とは違っていて違和感を覚えた。
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