22.引率者 VS. 40層フロアボス

 ソフィアに続いてローガンや他の新人たちと話していたり戦闘をしたりしているうちに四十層のボスエリアに着いた。


 これまでのフロアボスはアンセムさんとバナードさん、それともう一人の引率者である回復術士――名前はキャシーさん――の三人で戦っていた。


 上層のフロアボスに引率者全員で挑んだら一瞬で倒してしまう。

 新人たちにフロアボスと戦っているところを見せるため、これまでは三人だった。


 ただ、四十層からは中層となり、フロアボスの強さも跳ね上がる。

 三人でも問題なく倒せると思うが、アタッカーも付与術士もいないとなると攻撃力が不足気味になる。

 それに今日はボス戦が二回ある。

 そのことから、四十層と五十層のフロアボスは五人で討伐することになっている。


「オルン、よろしく頼むぜ!」


 俺の横に立ったバナードさんが声を掛けてきた。


「はい。とはいえ今回の俺はサポートがメインですけどね。俺の見せ場は五十層なので」


「打ち合わせの時に言っていたやつ、本当にできるのか? 剣士としてのブランクもあるんだろ? つか、ブランクが無かったとしても、できるとは思えねぇんだが……」


「問題ないですよ。それじゃ、とっとと終わらせちゃいましょう!」


 引率者五人がボスエリアに入る。

 新人たちもそれに続く。


 ボスエリアは巨大なホールのような空間になっている。

 新人たちは壁際で固まって待機しながら、引率者の戦闘を見ていることになる。


 ホールの中央には、身長五メートルほどの四本腕の巨人が仁王立ちしていた。

 巨人は全身の筋肉が隆起していて、天然の鎧のように硬いのが特徴だ。


「打ち合せはしたが、このパーティでの戦闘は初だ。各自ロールに準じた動きを心掛けるように! 【力上昇ストレングスアップ】、【生命力上昇バイタリティアップ】、【敏捷力上昇アジリティアップ】」


 セルマさんがメンバーに声を掛けた後、アンセムさんとバナードさんにバフを掛ける。

 俺は自分で状況に応じてバフを掛けたいため、セルマさんのバフは不要であると伝えている。


 バフを受けた二人は、これまでのフロアボスとの戦いのときよりも身軽な動きで、巨人の正面から接近する。


 俺は自身に【力上昇ストレングスアップ】、【技術力上昇テクニカルアップ】、【敏捷力上昇アジリティアップ】のバフを掛けてから、相手の死角に回り込む。


 攻撃をしすぎて巨人の注意が俺に向かないように注意をしながら、関節などの比較的柔らかい部分を斬りつける。


 ディフェンダーの二人は巨人の攻撃を盾で防ぎながら、攻撃ができる余裕もある。


 俺たち前衛が下半身を中心に攻撃し、上半身部分にはセルマさんとキャシーさんが魔術で攻撃する。


 上級探索者五人の前に巨人は手も足も出ずにいた。

 戦闘開始から数分、巨人を難なく討伐した。


 魔獣は死ぬと、肉体を黒い霧のようなものに変えて、体内にあった魔石だけがその場に残る。

 その時に稀に一部が黒い霧に変わらず、その場に残ることがある。

 それは魔獣素材と呼ばれ、武器や防具、魔導具、はたまた探索者には関係のない道具として、職人の手によって生まれ変わる。


 しかしフロアボスの場合は、討伐すると部位はランダムになるが魔獣素材が必ず残る。

 運がいいときは死体がそのまま残ることもある。


 巨人の魔石や魔獣素材の回収をディフェンダーの二人に任せて、俺は新人たちの元へ戻る。


「お疲れ様です、オルンさん……!」


「お兄さん、お疲れ様~!」


 俺がみんなの元に戻ると、みんなが俺を労ってくれた。


「ありがとう」


  ◇ ◇ ◇


「お、おい! アンセム! なんだったんだ今のは!」


 バナードと一緒に討伐した巨人の素材を確認しながら収納していると、バナードから戸惑いの声が発せられた。


 バナードの戸惑いも理解できる。

 今回の戦いは一方的だった・・・・・・

 俺たちはAランクの探索者だ。

 大迷宮の八十七層まで到達している。

 しかし、相手はフロアボス。

 例えセルマさんのバフがあったとしても、こんなにあっけなく倒せるような相手ではなかったはず。


 それを可能にした最大の要因は――オルン・ドゥーラだろう。


 オルンの剣の速さも力も、俺のパーティの前衛アタッカーと比べれば、後者の方が上だ。

 剣士としての実力だけを見れば、オルンはギリギリAランクに届くかどうかといったレベルだろう。


 ――しかし、オルンの動きはそんな低次元の話で済ませて良いものではなかった。

 今回のオルンは本人が言った通り、サポートに徹していた。


 完全に巨人の・・・・・・行動を封じることで・・・・・・・・・


 魔獣も生物だ。必ず予備動作というものが存在する。

 これは推測になるが、オルンはその予備動作から次に相手がどんな攻撃をするかを予測していたように感じた。

 そして、相手の次の攻撃の急所となる部分を先に攻撃することで、そのことごとくを封殺していた。


 その結果、巨人は大した攻撃もできず、あっけなく俺たちに倒された。

 こんな一方的な戦いは初めてだった。 


「本当になんなんだろうな。あれで数年のブランクがあるとか、信じられない」


 オルンは昨日、『身体能力が低くても、それは技術と経験で補うことはできる』と言っていた。今回の戦いはまさにそれを体現しているかのようだった。

 その上で、打ち合わせの時に言っていた例のことが本当にできるのであれば、オルンは彼自身が掲げている理想の剣士像にかなり近づいていることになるだろう。


 また、五十層のボス戦では驚かされることになりそうだな……。

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