第六章
188.新たな標的
《シクラメン教団》幹部の一人である《博士》オズウェル・マクラウドは、サウベル帝国の帝城内にあるとある一室の中で、椅子に腰掛けながら物思いに更けていた。
(ゲイリーが死んだだけでなく、
「《博士》、皇帝がそろそろ我慢の限界みたいよ」
オズウェルと同じ部屋に居た双子の姉――ルエリア・イングロットが、疲れた表情でオズウェルに声を掛ける。
その声を聞いたオズウェルは顔をしかめながら、思考の海から戻ってくる。
「めんどくさいなぁ……。ルエラの方で適当に相手しておいてくれない?」
「それは勘弁して。あのオジサンの無能ぶりを目の当たりにすると、斬り殺したい衝動に駆られるから」
「物騒なこと言うね」
「私をこんな風にした張本人がそれを言う?」
「それを言われると返す言葉が無いんだけどね。はぁ……、俺の方で適当に宥めるか。全く気が乗らないけど」
「――でしたら、貴方が面白がりそうな情報をお渡ししましょうか?」
テンションだだ下がり中のオズウェルが、なけなしのやる気をかき集めて皇帝の元へ向かおうとしたところで、扉を開けて部屋の中に入ってきた男がオズウェルに声を掛ける。
部屋に入ってきたのは、《博士》の助手として
「……よく俺の前に顔を出せたな、スティーグ」
彼を視界に捉えたオズウェルの目が鋭くなり、低い声でスティーグに声を掛ける。
対してスティーグは、オズウェルの変化を気にした様子も無く、いつもの邪気のなさそうな笑みを浮かべていた。
「
「わかっている。ただの八つ当たりだ。それで、何の用だ?」
「改めてご挨拶を、と思いまして」
「……挨拶だと?」
「はい。この度、ベリア様より《羅刹》の名を拝命し、《シクラメン教団》幹部の末席に加わらせて頂くことになりましたので、幹部の皆さんにご挨拶をしていまして」
「ふーん、殊勝なことだな」
「これが、人間関係なるものを構成する第一歩と聞きましたので。それと、不可抗力とはいえ、ゲイリーの処分に
スティーグはそう言うと収納魔導具から紙を出現させる。
それから、その紙に記載されている内容が読めるように、オズウェルの机の上に広げた。
「……新聞?」
スティーグが広げたのは、ツトライルにあるブランカという新聞社が以前発行した新聞だった。
「えぇ、その通りです。これは《博士》が興味惹かれる記事だと思いましたので、購入してきました」
これまでオズウェルの脇で二人の会話を黙って聞いていたルエリアが、新聞の記事に目を通すと、
「――っ!」
目を見開きながら息を飲んだ。
その表情は、驚きよりも戸惑いの方が大きいように見える。
ルエリアのそんな反応を脇目に、オズウェルもざっと記事に目を通す。
「……もしかして、キャロラインが
その新聞の記事は、《夜天の銀兎》の
その中でも《黄昏の月虹》については、元勇者であるルーナやSランク探索者セルマの妹であるソフィアのこと、パーティメンバーの全員が異能者であることなど、他のパーティよりも詳しい内容が書かれていた。
「まさか。アレはもう用済みでしょう。そんなのよりも興味深い人物がいませんか? 異能に詳しい貴方なら気付けると思うのですが」
スティーグの煽るような言葉を受けて、オズウェルが顔を顰めながら今度は注意深く記事を読んでいく。
「……ん? 《黄昏の月虹》の全員が、異能者だと?」
オズウェルの呟きに、スティーグが笑みを深める。
「えぇ、そうです。そして、
オズウェルの頭の中で、暇つぶしとなる新たな実験内容が構築されていく。
異能について、彼は自分の研究結果から一つの結論を導き出している。
それは、『異能と血統には密接な繋がりがある』というもの。
加えていうと、異能が発現するのは数代に一度程度で、異能が発現した場合、その者に近い親等の者が新たな異能を発現することは無い。
「なるほどねぇ。教団が
「そう言っていただけてなによりです。どうですか? この一手は、
「……あぁ、そうだな。もしも、
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