40.定例会議
それからは、各人の報告が始まった。
この会議の参加者である幹部たちは、各部門のトップだ。
定例会議は年に一回、三月末に開催されていて、この一年間の実績なんかを報告することになる。
主な内容は所属している探索者の動向や各部門のカネの流れ、販売部門の売上状況、クラン独自で開発を進めている武器や防具、魔術、魔導具の進捗状況など。
話を聞いていただけで、クランの現状をある程度把握できた。
全部門の報告が終わることには夕方近くになっていたが、この会議に参加できたのはかなり大きかったな。
「これで全部門の報告が終了したな。……私が総長に就任してから一年が経った。ここまでクランを立て直せたのも、この場にいるもの含め、団員全員の力によるものだろう。感謝している。これからも引き続きクランを盛り上げていってほしい。よろしく頼む。――では、今日はこれで終了とする」
最後に総長が締めの挨拶を行って、定例会議は終わりを迎えた。
幹部たちがどんどんと退室していく。
一人ひとりに挨拶しようと思っていたけど、とても忙しそうな雰囲気だったのでやめた。
近いうちに挨拶に行かないとな。
「さて、私たちも行こう」
「――あ! セルマっち、待って~!」
セルマさんに声を掛けられて退室しようとしたところで、セルマさんを呼び止める女性の声が聞こえた。
声が聞こえた方を見ると、茶髪のショートカットの女性がいた。
歳は二十代前半くらいか?
セルマさんと同じく、幹部の中でも若い方だ。
まぁ、俺が言うなって指摘されそうだけど。
この人は確か探索管理部の人だったな。
探索管理部は、探索者の管理やサポートをする部門だ。
新人教育もこの部門の管轄となるため、新人探索者は探索部の所属ではなく探索管理部の所属となる。
先ほどの会議では、探索者の各パーティの評価をしていたり魔石や素材の収集量を報告していたりしていた。
「今ちょっとだけ大丈夫? 新人君に話があるんだけど」
ん? セルマさんじゃなくて俺に用事?
「あぁ、問題ない」
「ありがとん♪ さて、わたしも仕事が溜まっているから単刀直入に言うね。新人君ってさ、自分の知識とか技術を他の人に教えるのは得意?」
「……俺の知っていることであれば、教えることができると思います。どうしてです?」
「さっすが、曙光のマルチタレント!」
『曙光のマルチタレント』って俺のことだよな? 初めて言われたぞ……。
ちなみに『曙光』とは、勇者パーティのことだ。
九十四層に到達してからは勇者パーティと呼ばれるようになったが、これはパーティ名ではない。
《勇者》とは南の大迷宮で一番深い階層に至った者に与えられる称号のようなものだ。
勇者パーティの正式なパーティ名は《黄金の曙光》。
《夜天の銀兎》が『兎』と呼ばれているように、《黄金の曙光》は『曙光』と呼ばれることが多かった。
話が脱線したけど、結局どういうこと?
俺に何かを教えてほしいってこと?
「えっと……」
「エステラ、オルンが困ってるぞ」
この人はエステラさんというらしい。
「あ、ゴメンゴメン。えっとね、新人君には、とある新人パーティの教導をお願いしたいの」
教導?
新人の教育は探索管理部の
それに俺には深層の探索がある。
時間が取れるか分からないから安易に引き受けるべきではないかな。
「私からもお願いする。良ければ、引き受けてくれないか?」
なんとセルマさんから許可、というか依頼された。
深層の探索はどうするんだ?
「えーっと、新人教育をするなら、ある程度まとまった時間が欲しいんですけど、そんな時間あるんですか?」
「ん? あぁ、そうか。勇者パーティはほぼ毎日大迷宮に潜っていたんだったな。うちの場合は、日程を各パーティが自由に組み立てているが、四日連続で大迷宮に潜ることは禁止されている。私たちのパーティは、連日迷宮に潜ることは基本しない予定だ。だから、勇者パーティにいた頃に比べればだいぶ時間には余裕があると思うぞ」
なるほど。
確かにセルマさんは幹部としての事務的な仕事もあるしな。
俺もその手伝いをしないといけないだろうし、勇者パーティのように連日大迷宮に潜ることはしないか。
「そういうことでしたら、引き受けさせていただきます」
「ホント!? ありがと~。あの子たち才能が凄くてさ、早く探索部に行かせてあげたかったんだよね! それに、あの子たちたっての希望でもあったから、引き受けてくれて嬉しいな!」
え、それって……。
「んじゃ、細かいことはまた今度ね! ひとまずお願いするパーティの資料は今日中にまとめて部屋に送るから、目を通しておいてほしいな! それじゃあ、ばいばーい!」
エステラさんは言いたいことをまくし立てるように言うと、会議室を出てしまった。
嵐のような人だったな……。
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