41.第一部隊の面々

 会議室を後にした俺たちは現在、探索部の区画に移動している。


「メンバー全員暇を持て余していたらしい。これから全員で顔合わせだ」


 集合場所に向かいながらセルマさんが告げてくる。

 どうやら朝言っていた通り、これからパーティメンバーと顔合わせをすることになるようだ。

 全員で集まること自体は問題無いんだけど、なんでセルマさんはそんなリアルタイムの情報を知っているんだ?

 ずっと一緒に居たのに。


 その疑問をそのままセルマさんに投げかけると、不敵な笑みを浮かべながら「あとで教えてやる」と言われた。

 何か仕掛けがあるらしい。


  ◇


「え、なにこれ……」

 つい口から正直な感想がこぼれた。

 セルマさんに案内されて着いた場所は、図書室のような大量の本が置いてある場所だった。

 蔵書数ぞうしょすうは、ざっと数千冊くらいだろうか?

 収納されている本の背表紙をちらっと見ると、魔獣に関する本や各階層についての本だということがわかる。


「流石のオルンもこれには驚いたか」


「……ここにある本って全部大迷宮に関する書物ですか?」


「あぁ、国内にある迷宮の書物が多いが、大迷宮に関する書物もあるぞ。ギルドで公開されている情報はもちろん、クラン独自で集めた情報も書き記している」


 これが大手クランの力か。勇者パーティではこれだけの情報を集めることができない。

 多くの団員を抱えているクランだからこそできることだろう。


 俺はクランが保有する情報量に圧倒されていた。

 ここにあるのが迷宮に関することだけなら、それ以外にも――例えば魔導具に関することなんかも相当な量の情報があるってことだろ?

 ここは楽園か?

 しばらく籠って《夜天の銀兎》がこれまで集めた独自の情報を読み漁りたい。


「ここの書物は団員なら誰でも読むことができる。建物の外に持ち出すことはできないがな」


 新しい情報に触れられる。

 そう思うだけでわくわくしてくる。


「読み漁ってもいいですか?」


「喜んでくれているところ悪いんだが、顔合わせを優先してくれ……」


 あ、そうだった。ここに来た理由は顔合わせだった。

 仕方ない。

 本は逃げないし、ここは我慢しよう。


 図書室の奥には十個以上の部屋があった。

 セルマさんがその中で一番しっかりした造りの扉を開けて、俺を招き入れる。


「ここが我々第一部隊に与えられた専用の部屋だ。打ち合わせの場合は大抵ここで行う。――全員揃っているようだな」


 どうやら中には既に全員いるようだ。

 セルマさんに続いて部屋の中に入る。


 中は勇者パーティで借りている屋敷の打ち合わせのために使用していた部屋と、あまり変わらなかった。

 中心に大きいテーブルと五つの椅子、壁には大きな黒板、奥には探索時に使用する消耗品の備蓄がある。


 そして朝出会ったウィルクスさんの他に、二人の女の子が椅子に座っていた。

 どちらも先月の共同討伐に参加していたな。


「フリーなのにわざわざ集めてしまって悪かったな。用件は伝えた通りだ。早速だが、改めて全員で自己紹介をしようか」


「えぇ。わかったわ。えっと、久しぶり、でいいのかな? 私はレイン・ハグウェル、二十四歳・・・・! の魔術士よ。これからよろしくね」


 レインさんが歳を強調しながら自己紹介してきた。

 彼女は言っては悪いが、どう見ても十代前半にしか見えない外見をしている。

 新聞で何度も取り上げられている有名な探索者だけど、実年齢と見た目のギャップに衝撃を受けたのを覚えている。


 黒髪を肩と耳のちょうど真ん中あたりで、二つ結びにしておさげのようにしている。

 瞳の色はんだ空色だ。

 黒と青を基調としたローブをだぼっと着ている。

 サイズがやや合っていないような気が……。


 先月の共同討伐で見た限りでは、量よりも質に重きを置いているようで、規模を抑えた特級魔術を連発していた。


「次はボクね! 名前はルクレーシャ・オーティス。ポジションはサポーターの回復術士だよ~。ボクのことはルクレって呼んでね! 歳も近そうだし仲良くしてくれると嬉しいな!」


 この子は第一印象と変わらず元気な子だな。

 金髪を肩にかかる程度のセミロングをハーフアップにしていて、瞳は碧色あおいろ

 黒のブラウスに青色のミニスカートに黒色のタイツを履いている。


 共同討伐の際には回復術士というよりは、魔術士として攻撃に参加していた。

 上級魔術がメインで、発動速度は早くも遅くもないといった印象だ。


「次はオレだな。オレの名前はウィルクス・セヴァリー、二十歳。最近は前衛アタッカーをしていたけど本職はディフェンダーだ。このまま前衛アタッカーとしてやっていくことになると思っていたから、オルンが入ってきてくれて助かった。オレのことはウィルと呼んでくれ。よろしくな!」


 共同討伐で前衛アタッカーのように立ち回っていたのはそのためか。

 確かに教導探索に同行していた引率者はディフェンダーだったな。

 アンセムさんかバナードさんが第一部隊に引き上げられていたら、この人が前衛アタッカーにコンバートすることになっていたのだろう。


 ウィルクスさんの見た目は、やや長めの灰色の髪に琥珀色こはくいろの瞳。

 服装は七分丈のジャケットを羽織っていて全体的にチャラチャラしている印象を受ける。

 だけど、第一部隊に抜擢されている探索者だ。

 実力は確かだろう。


「私はもう自己紹介をするまでもないと思うが、セルマ・クローデルだ。このパーティのリーダーで、サポーター――付与術士をやっている。基本的には迷宮探索中の指示は私が出すことになる。改めてよろしく頼む」


 セルマさんは言わずと知れた大陸最高の付与術士だ。

 一般的な魔術は全て修めていると言われていて、状況に応じた魔術の取捨選択が秀逸しゅういつ

 更に発動速度、効果共に申し分ない。

 まさしくトップ探索者の一人だろう。


「最後は俺ですね。名前はオルン・ドゥーラ、十八歳。ポジションは前衛アタッカーです。早くこのパーティの連携に付いて行けるよう精進します。よろしくお願いします」


「十八歳!? 同い年じゃん!」


 どうやらルクレも十八歳のようだ。

 確かセルマさんは二十一歳だったはずだし、平均年齢低いな。勇者パーティもそうだったけど。


「今日から同じパーティメンバーになったんだから、敬語はいらないぞ。敬語で話していると無駄に会話が長くなって非効率だしな」


「え、でも俺は年下で、ここでは新参者ですし……」


「ボクも年下だし、オルンくんを除けば一番遅く入ったけど、敬語使ってないし問題なーし!」


「お前はもう少し年上をうやまった方がいいと思うけどな」


「なにをー! ウィルなんて、ちゃらんぽらんなだけじゃんか! そんな人をどうやって敬えって言うのさ!」


「ちゃらんぽらんじゃねーよ! 俺は信念に基づいて行動しているんだ!」


「えー、それが女の子をナンパすることなの?」


「ナンパなんてしてねぇよ⁉ 誤解を招くことを言うな!」


「あれ? だってこの前――」


「だあぁぁぁ! それは言うな!」


 いきなり二人の掛け合いが始まった。


 結局俺の言い訳は通じず敬語は抜きとなった。

 敬語抜きで話した方が、早く距離を縮めることができていいかもしれない。

 敬語はやっぱり他人行儀な印象を受けるもんな。

 TPOはわきまえないといけないけどさ。

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