61.修練
《夜天の銀兎》に加入してから約三週間が経った。
この三週間で何度も下層に潜り、目当ての素材を集めながら連携の強化を図っていた結果、連携はかなり良くなっている。
元々の四人は当然ながら、俺も各人の考えがわかるようになってきた。
それに加えて、セルマさんの異能で常時意思疎通が図れる状態だ。連係ミスはかなり少ない。
もう深層に挑んでもいいんだが、今は俺の剣の完成待ちだ。
剣が完成すればついに深層の探索が始まることになる。
第一部隊での探索が無い日は、セルマさんの事務作業の手伝いや、第十班の教導に勤しんでいる。
それ以外にも総長に連れられてスポンサーと会食をしたり、幹部のところへ挨拶回りに行ったりしたけど、特筆するようなことも起こらなかったから割愛する。
そして今は、第十班の面々が《夜天の銀兎》の敷地内にある室内訓練場で鍛錬をしている。
「つーらーいー! 休みたーい!」
キャロルのキツイのかまだ余裕があるのか判断が難しいような声が、室内に響く。
「ほら! あと五分で休憩だ! 頑張れ!」
「うぇーん。ししょーの鬼ー!」
視線の先には、ある地点を中心に五メートル離れた場所に、等間隔で高さ約二メートルほどの六本の柱が囲うように立っている。
俺はランダムに柱の上に【
そして、キャロルはその光が発せられた柱に、ダッシュしてタッチしている。
キャロルがタッチした直後、また別の場所に【
これでキャロルは絶え間なく、加速、減速、方向転換を繰り返すことになり、結果的に敏捷力を鍛えることができる。
キャロルは将来的に回避型ディフェンダーから前衛アタッカーにコンバートさせるつもりだ。
だけど、コンバートしたとしても敏捷性は必要になってくる。
キャロルの武器はダガーのためリーチが短い。
そのため攻撃するには相手に接近しないといけないし、前衛アタッカーだとしても攻撃が全く来ないわけじゃない。
ヒットアンドアウェイをするにも、相手の攻撃を躱すのにも、敏捷性の向上は必須だ。
【
支援魔術で上昇させている基の能力は、本人の能力に依存する。
であれば、本人の敏捷性を上げることで、支援魔術を受けた際、更に恩恵を受けられることになるから能力が高いに越したことは無い。
「はっ! せいっ! やあっ!」
キャロルから少し離れたところでは、ログが木槍を持ちながら型稽古をしている。
パーティでの話し合いの結果、ログも前衛に参加することに決まり、槍術を教えることになった。
槍にした理由はリーチがある武器の中で比較的扱いやすいから。
魔獣に接近されすぎてバフの更新が間に合わずにやられる、という可能性を減らすためにも、敵から距離を取りながら攻撃ができた方がいい。
槍術を教えてから約二週間。
少しずつさまになっている。
この短期間でここまでできるということは、ログは槍術にも才能があるのかもしれない。
今のログの動きを見る限り、そろそろ実践的な指導に移行してもいいかもな。
とはいえ、俺が教えられるのは槍術の基本だけだ。
そこで、これ以降の指導はウィルに頼もうと思っている。
双刃刀は剣術だけじゃなくて棒術も修めないといけない武器だから、俺よりも槍術に精通している。
これについては、あらかじめ本人にも許可は取っている。
探索が無い日全ては無理だが、一週間に一回くらいは来てくれるみたいだ。
とてもありがたい。
「二九七……二九〇……二八三……ニ七六、あ、左手っ――」
ソフィーは俺の隣で椅子に座りながら、数字を口に出している。
そして、時折左右の手で椅子のひじ掛けを軽く叩いている。
ソフィーにやらせているのは並列構築の練習だ。
並列構築を習得するには、別のことを同時にこなせるようにならないといけない。
そのため、ソフィーには五○○から七ずつ引いた数字を呟かせながら、三回に一回左手で、四回に一回右手で椅子のひじ掛けを叩くように指示している。
これが難なくできるようになれば、並列構築のコツも掴みやすくなるはずだ。
今はまだ苦戦しているようだが、なかなか筋はいいと思う。
これなら俺の想定よりも早く並列構築が習得できるかもしれない。
「よし! いったん休憩にしよう!」
「だぁぁぁ。つーかーれーたー」
俺が休憩と言うと、キャロルはすぐさまその場で大の字に寝転んでいる。
女の子なんだから、大の字はやめた方がいいと思うが……。
ログは息を切らせながら、汗を拭っている。
ソフィーも背もたれに寄りかかりながらぐったりしている。
全員かなりお疲れだ。
「師匠! 僕の槍術はどうですか!?」
ログが俺に近づいてきてから、子犬のような瞳でこちらを見つめてくる。
なんか、本当に小動物に懐かれたような感覚に襲われる……。
「なかなか良くなってきたぞ。そろそろ型だけじゃなくて、実践的な指導に移ってもいいかもな」
「ホントですか!? よしっ!」
ログがガッツポーズして喜んでいる。
ログの第一印象は『生意気なやつ』だったけど、第一印象からこんなにも変化があったのはログが初めてだ。
「それにしても師匠はすごいですね!」
何の脈絡もなくログが俺のことを称賛してくる。
「いきなりなんだ?」
「だって、あれだけ【
ログは事あるごとに俺を持ち上げてくる。
慕ってくれるのは嬉しいけど、俺のことを盲目的に信じていそうで逆に不安になる。
何とか良いバランスで保ってほしいものだが、難しいものだな。
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