31.【sideソフィア】感想

  ◇ ◇ ◇


「今日はすごい一日だったなぁ……」


 教導探索が終わって、私たち新人はすぐに帰らされた。

 でも、仕方ないよね。

 あんなことがあったんだし。


 お姉ちゃんはまだ帰ってきていない。

 多分、今も色んな所を奔走しているんじゃないかな?


 最近のお姉ちゃんはすごく忙しそうにしている。

 体調を崩してしまわないか、すごく心配になっちゃうよ。


 帰ってきてからすぐにお風呂に入って、ご飯を食べて、部屋着に着替えた。


 そして今は、先生に提出するよう言われていた教導探索のレポートを書くために、今日のことを思い出している。


 まずは、オルンさんに色んなことを教えてもらった。

 魔術士としての心得だったり、並列構築だったり。

 今の私には難しいことだらけだけど、少しずつでも身に着けていきたいな。


 次に道中、オルンさんの指示の下で中層の魔獣と戦ったけど、一回も負けることなく探索を終わらせることができた。

 他のパーティは何回も負けていたから、密かに嬉しく思っている。

 でも、これは私たちの実力じゃない。

 オルンさんの指示があったおかげだと思っている。

 だって、オルンさんは未来が見えているんじゃないかと思わされるように、次々と魔獣の次の動きを教えてくれて、それにどう対処すれば良いかまで言ってくれる。

 あんなの誰でも勝って当然だよ。

 私たちは、いつかオルンさんの指示が無くても今日以上の戦いができるようになろうって、三人で決めたんだ!


 そして最後は、やっぱりあの黒いドラゴンの乱入。

 詳しくは知らないけど、お姉ちゃん達でも倒せなかった深層のフロアボスなんだとか。

 あのドラゴンに睨まれたときは、この前オークに囲まれた時よりも恐怖を覚えた。

 今思い出すだけでも、体が震えてくる。

 こんな存在にお姉ちゃん達が負けちゃうのは、仕方のないことだと思った。

 深層が怖いところだと、初めて本当の意味で理解できた気がする。


 でもそれを、オルンさんは一人で倒しちゃった!


「また、助けられちゃったな……」


 オルンさんに助けてもらったのはこれで二回目だ。

 オルンさんには感謝しても、し足りないくらいの恩がある。

 どうやって恩を返していけばいいのか、分からない……。


 もしも、オルンさんに困ったことが起こった時は全力で手伝おう!

 そんなことになる状況が想像できないけど……。


 それにしてもドラゴンと戦っているときのオルンさんの真剣な表情は、すごくカッコよかった……。

 いつもは優しい顔をしているから、余計にそう思うのかもしれない。

 あれがギャップっていうのかな?

 本当にカッコよかった。


 ……なんかオルンさんのこと考えていると、顔が熱くなってきちゃったな……。


 両手で扇いで顔に風を送っていると、部屋の扉が開いた。


「ただいま……」


 お姉ちゃんが帰ってきた。

 こう言っちゃなんだけど、とってもひどい顔をしている。

 すごくお疲れなご様子。


「お姉ちゃん、おかえりー」


 お姉ちゃんはふらふらと自分のベッドの方へ近づくと、そのままベッドにダイブした。


「お姉ちゃん、服がしわになっちゃうよ? あと寝る前にシャワーくらい浴びようよ」


「うーん」


 ここまで疲れているお姉ちゃんを見るのは、一年ぶりかもしれない。

 疲れているというより、悩んでるって感じ?


「何かあったの?」


 私が質問をすると、お姉ちゃんがぴくっと反応した。


「……………………ソフィア、今日のオルンと黒竜の戦いを見て、どう思った?」


 長いがあってから、質問してくる。


「え? すごいなぁ、オルンさん強いなぁって思った」


 私が素直な感想を述べたら、お姉ちゃんが脱力していた。

 私、変なこと言ったかな?


「……隔絶かくぜつされすぎていて、逆に新人たちには理解できなかったってことか」


「ん? 理解できてたよ?」


「……なに?」


 お姉ちゃんが怖い目を向けてきた。

 子どもが見たら泣いちゃうんじゃないかな?

 家族にそんな目を向けないでよぉ……。


「オルンさんの動きはすごく速かったし、空中をぴょんぴょんしていたり、剣から黒い炎を出したり、見たことない魔術を使ってたりしていたけど、それ以外は基本的な立ち回りだったでしょ?」


「基本的な立ち回り?」


「うん、私って新人だから探索管理部で色んな講義を受けてるでしょ? そこで、各ロールの基本的な立ち回りを教えてもらったけど、オルンさんの立ち回りも、教えてもらった時のやつと同じだったよ? 例えば、後衛アタッカーとディフェンダーの立ち回りを同時にしてるとか」


 お姉ちゃんが目を見開いてポカンとしていた。

 今日のお姉ちゃんは百面相だ。

 ちょっと面白い。


「言われてみれば、一人でパーティメンバー全員の立ち回りをこなしていたように見えるな」


「でしょ? だからさ、今日のオルンさんの戦いはすごく参考になったよ! オルンさんが言ってたんだ。魔術士に大切なのは、如何いかにインターバル中もパーティに貢献できるかどうかだって。オルンさんは一つの答えをしめしてくれた気がする。だから私はもっともっと努力して、オルンさんみたいな、強くてカッコいい探索者になりたいなって!」


「一つの答え、か。ははは。ソフィアはすごいな」


 お姉ちゃんはどこかスッキリした顔になっていた。

 どうしてだろ?


「そんなこと無いよ。お姉ちゃんの方が凄いよ!」


 そう、お姉ちゃんの方が凄い。


 お父様やお母様の言いなりになるしか無いと諦めていた私に、別の道を示してくれたお姉ちゃんには感謝している。

 自分の力だけで、色んな人から称賛を受けているお姉ちゃんを尊敬している。


「ソフィアのおかげで覚悟が決まった。ありがとう。さてと、シャワー浴びてくる。今日は一緒に寝るか?」


 どうやら何か吹っ切れたみたい。

 よくわからないけど、お姉ちゃんが元気になってよかった!


「うん! 久しぶりに一緒に寝たい! お姉ちゃんが帰ってくるまでに、レポート終わらせちゃうね!」

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