30.【side勇者パーティ:ルーナ】不協和音
この方々はどこまで現実が見えていないのでしょうか……。
もう、我慢の限界です。
どうせペナルティを終えたら、こんなパーティからはすぐに脱退するつもりです。
ですので、言いたいことをぶちまけようと思います。
既に強制送還が終わっているなら、良いですよね?
「まだ理解されていないようなので、ハッキリと言います。現在の私たちはSランクパーティの中で最弱です。そんなパーティが黒竜に勝てるわけがないじゃないですか」
「はぁ!? Sランク最弱だと!? 俺たちは勇者パーティだぞ! 他のパーティに負けるわけねぇだろ!」
デリックさんが、なおも突っかかってきます。
「私たちが勇者パーティでいられたのは、オルンさんが居たからだと言ったじゃないですか! 特に貴方とアネリさんは、オルンさんのサポート無しではAランク相当の実力しかありません! 身の程をわきまえてください!」
「っっっ! 身の程をわきまえるのはお前の方だ‼ あたかも俺よりもお前の方が強いみたいな言い方しやがって‼」
デリックさんが顔を真っ赤にしながら激昂しています。
全く、本当にすぐ熱くなる人ですね。
……流石に今のは言いすぎたかもしれませんけれども。
あ、嘘は言っていませんよ?
デリックさん程度ならやろうと思えば、瞬殺できますし。
デリックさんたちはオルンさんの再加入に反対していますが、私は死にたくありません。
だからオルンさんの再加入は絶対に譲れない。
このまま黒竜に挑んでも全員死ぬだけです。
「そう言ったのですよ。仮に私と貴方が一対一で戦っても、私が勝ちます」
「大した自信だな。後で泣いて謝っても遅ぇぞ!」
デリックさんが剣を取り出してきました。
……ここまで愚かとは。
私のデリックさんへの好感度は、大迷宮すらも突破できそうなほど、下がりまくっています。
「はぁ……。『ピクシー』、お願いします」
「――なっ⁉ 体が動かねぇ……」
私の異能でデリックさんの動きが止まりました。
そのまま私は上級魔術の術式を構築してから魔力をほんの少しだけ流し込み、デリックさんの目の前に魔法陣を出現させてから告げます。
「……勝負ありですね。この至近距離から上級魔術を受けて、タダで済むと思っていますか?」
「ぐっ、これもお前の異能なのか? こんな使い方ができるなんて聞いてねぇぞ」
「私も未だに自分の異能の全容を理解できていませんので。オルンさんはわかるらしいですが――」
「――いい加減にしろ」
これまで静かだったオリヴァーさんがついに口を開きました。
遅すぎますよ。
「まずはオルンを見つけてからその後のことを決める。異論は認めない」
パーティ間の雰囲気は最悪のままですが、オリヴァーさんの言葉に全員が従うようです。
◇
そうして私たちは大迷宮入り口近くの広場へと向かい始めました。
広場が見えて来たところで、私は息を飲みこんでしまいました。
広場の中心には黒い巨大なものがあり、それを多くの人が取り囲んでいます。
その黒いものを見違えるわけがありません。
ですが、これは――。
「なんでここに黒竜が!? くそ!」
オリヴァーさんが咄嗟に剣を取り出し、突撃をしようとしていました。
「待ってください!」
私はオリヴァーさんを咄嗟に止めます。
「なぜ止める!? ここで抑えないと街に甚大な被害が出るぞ!」
オリヴァーさんは冷静ではありませんでした。
普段のこの人であれば、こんな行動はしなかったはずです。
「様子が変です! それに黒竜が現れたにしては周りに人が集まりすぎています。警戒は解かずにこのまま黒竜に近づきましょう」
私たちが広場に着きました。
黒竜を取り囲んでいた人たちが私たちに気づいて道を譲ってくれたおかげで、すんなりと黒竜の居る場所まで行くことができました。
「なっ――!?」
人垣を抜けて目に入ってきた光景に絶句してしまいました。
目の前にいる黒竜は、ウロコが所々砕け、全身から流血していて、首が胴体から離れていました。
更にその黒竜の傍で、見たこともない黒く禍々しい大剣に寄りかかるように立っているオルンさんがいました。
(オルンさんがここにいるということは、《夜天の銀兎》が黒竜を討伐したということですか!?)
「……オルン、さん」
私が無意識に出した言葉にオルンさんが反応しました。
オルンさんが、こちらに振り返りました。
オルンさんに目立った外傷はありませんが、全身が汚れています。
焦点の合っていなさそうな目と鼻血を強引に拭った跡があることから、相当な数の魔術を発動したのでしょう。
ここまで疲弊しているオルンさんを見たことがありません。
「……あぁ、ルーナか。ちょうどいいところに来てくれた」
オルンさんが小さい声を発して大剣から手を離すと、大剣がボロボロと崩れます。
オルンさんが、ふらつきながらも私に近づいてきました。
本来ならすぐに駆け寄ってオルンさんを支えないといけないのですが、頭が混乱している今の私には、そこまで思い至りませんでした。
そして目の前まで来たオルンさんは右手を私の肩に置いてきました。
「後処理、任せた」
「………………へ?」
オルンさんはそれだけ告げると、私を素通りして何処かへと歩いていきます。
私たちパーティメンバーは誰一人として状況が飲み込めていません。
オルンさんに話を聞きたいところですが、後処理を任されてしまいました。
それにこの状況の原因の一端は私たちにあります。
この場を離れることはできないでしょう。
「えっと……黒竜は、もう、倒されたってこと、か?」
オリヴァーさんが声を震わせながらも言葉を発します。
「……みたい、ですね」
この後、事後処理をしていく過程でオルンさんが一人で黒竜を討伐したことを知って全員が衝撃を受けることは、言わなくてもわかりますよね……。
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