14-B.【sideローガン】実力の差

    ◇  ◇  ◇


 今日の大迷宮探索を終えた僕は、同じパーティメンバーであるソフィアとキャロラインと一緒にクラン本部に向かって歩いていた。


「なぁ、ソフィア、オルンさんと知り合いなんだよな?」


 僕の前で、キャロラインと話をしているソフィアに質問を投げかける。


「え? そうだけど、私も知り合ったばかりだよ? 三日前に迷宮で助けてもらったんだ」


「一人で迷宮に行ったのか?」


「う、うん。野良で探索者を募集していたパーティに参加してね……」


「えー⁉ あたしにも声かけてよー。そしたら一緒に行ったのにー」


「ご、ごめんね。次からは声を掛けるから……」


 ソフィアは消極的な奴だけど、たまにとんでもない行動力を発揮する。

 野良のパーティとか、かなり危ないじゃないか……。


「迷宮で助けてもらったと言ってたけど、その時のオルンさんはどんな魔術を使っていた?」


「オルンさんが使ってた魔術……? うーん……、あ、光がはじける魔術を使ってた」


「光が弾ける……。【閃光フラッシュ】か?」


 ソフィアに確認を取るために、手のひらを上に向け胸のあたりに持ってきてから、その上に光を抑えた【閃光フラッシュ】を発動する。


「そうそう、それ。それ使った後は剣でバシバシ斬ってた」


「……は? 剣? あの人は付与術士だろ?」


「えーと、勇者パーティを抜けてから、前衛アタッカーにコンバート? したらしいよ」


 …………コンバート? ……意味が分からない。

 今日だって第九班がピンチの時は魔術で魔獣を倒してたじゃないか。


 今回の探索に元勇者パーティの探索者が同行してくれると聞いて、僕は内心喜んでいた。

 実力者である探索者の動きを間近で見られれば、何か盗めるものがあると思ったから。

 そう思っていた矢先に今朝の新聞を読んで、あの人が実力不足でパーティを追い出されたことを知った。

 その新聞を読んだときは、がっかりした。

 大したことのない人だったんだと。

 正直、実力不足な人の指示になんか従いたくないけど、これはクランで取り組んでいる作戦。

 癪だけどあの人の指示に従うことにした。


 中層に入って、最初の戦闘におけるあの人の指示は、セオリー通りのつまらないものだった。

 仮にも勇者パーティの指揮を執っていた人が、教科書通りの指示しかしてこなくて、ここでもがっかりした。


 退屈に思っていたところで、急にオークの動きが鈍くなった。

 当然僕は何もやっていないし、キャロラインはゴブリンに集中している。

 震え切っていたソフィアにも、何かできる状況ではなかった。

 そうなると消去法であの人が何かをやったとわかるけど、何をやったのかは結局わからなかった。

 そのため、戦闘が終わった後に何をしたのか聞いてみると、あの人は【敏捷力低下アジリティダウン】を発動していたと、事も無げに言ってきた。


 支援魔術は大きく分けて三つの種類に分類される。

 一つ目が任意の対象の能力や性能を引き上げるもの。いわゆるバフというやつ。

 二つ目が、味方をサポートするもの。【閃光フラッシュ】もこれに含まれる。

 そして三つ目が任意の対象の能力を下げるもの。いわゆるデバフというやつだ。


 付与術士は一つ目と二つ目は良く使うが、三つ目は全くと言って良いほど使っていない。

 それは他の二種類に比べて難易度が高いうえに、大した効果が期待できないためだ。

 デバフはバフ以上に対象の魔力対抗力の影響を受ける魔術のため、対象の正確な魔力対抗力を把握しないといけない。

 その上で術式を調整しないといけないため、戦闘中にこれを使いこなすのは至難の業だ。

 大陸最高の付与術士と呼ばれているセルマさんですら、ほとんど使用しないと聞いている。

 僕も何度かデバフを試してみたけど、使い物にならなかった。


 そんなものをさも当然のように使っているとわかって、やはり深層に行っても生き残れる探索者なのだと、認識を改めた。


 それから何度もあの人の指揮の下で戦闘を繰り返したけど、『凄い』の一言だった。

 最初にセオリー通りの指示をしていたのは、僕たちの能力を正確に図るためだったんだと戦闘を繰り返していくうちに理解できた。

 二度目の戦闘からはセオリーに乗っ取りながらも、僕たちの能力に応じた的確な指示をしてくれたおかげで、大した苦労もなく戦闘を終わらせることができた。

 戦い方を少し変えるだけで、ここまで戦いやすいものになるとは思わなかった。


 僕の指示と比べれば、その差は歴然だ。

 あの人の指示の下で戦闘ができているだけで、学べることが多くあった。


 そんな人が、なんで前衛アタッカーにコンバートしたんだ?

 勇者パーティは追い出されたみたいだけど、あれだけの能力があれば、他のパーティでも付与術士として引っ張りだこだと思うのに。


「お兄さんは前衛アタッカーとしても強いの?」


「強いと思うよ。朝も言ったけど、オーク十数体をあっという間に倒してたし」


「おぉ! それはすごい! あたしだとまだ、あっという間に倒すのは難しいかなー。いつかそれくらい強くなるけどね!」


「うん! 私ももっと強くなるよ!」


「その意気だー! 一緒にがんばろー!」


 ソフィアとキャロラインの会話が盛り上がっている。


 前衛アタッカーとしても優秀なのか……。

 僕はこれまでいろんな人から天才と言われてきたけど、それは嘘だった。

 本物の天才は、ああいう人のことを言うんだな。


 でも、僕は諦めない! 僕は何としても探索者として成功しないといけない!

 あの人から盗めるものを盗んで、もっと強くなって見せる!


「ローガン、怖い顔してるよ? 疲れちゃった?」


「いや、そんなことない。明日の探索のために気合を入れ直してた」


「おぉ! やる気満々だね! あたしも気合入れる!」


「わ、私も!」


 そんなこんなでクランの本部に着いた。


 帰ってきてからは、シャワーで汗を流して夕飯を食べてから、明日に備えて眠りについた。

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