14-A.新人たちの反応
「おはようございます。オルンさん!」
俺が第九班、第十班の面々がいるところへ向かうと、真っ先にソフィアが挨拶をしてくる。
「お兄さん、おはよー!」
ソフィアの挨拶に続いてキャロラインも、続いて挨拶してくる。昨日から思っていたけど、この子は常に笑顔を絶やさないな。
「……おはようございます」
ローガンは渋々といった具合だ。
第九班の面々は「お、おはようございます」と、昨日と打って変わって俺とどう接してよいのかわかっていないようだ。
第十班はともかく第九班の面々の精神状態があまりよろしくない。
正直に言えば、今朝の記事の内容に自分から触れたいとは思わないが、このままズルズル行くと、探索中に大ケガをする恐れもある。
まぁ、そうならないようにフォローするつもりだけどさ。
「みんな、おはよう。全員今朝の記事の内容は把握しているか?」
俺の発言で、第九班の人たちは更に戸惑いの色を強めた。
ソフィアは悲しげな表情をしていて、キャロラインはニコニコと、ローガンは不愉快そうな雰囲気を漂わせているが無表情に取り繕っている。
周知されているのは確定だな。
「記事の内容は、まぁ、ほぼほぼ事実だ。俺は実力不足でパーティを追い出された。だから、お前たちが期待しているような勇者ではない。黙っていて悪かったな」
俺の発言で静まり返った雰囲気に変わる。第九班の面々は残念そうな表情をしている。
ここまでは予定通り。
人は落としてから上げると最終的には好印象になる。全ての人に当てはまるわけではないけど、言い方が悪いが相手は子どもだ。
勇者パーティ時代にスポンサー相手に、これまで何度も折衝してきた俺にとっては、この子たちの思考を誘導させることは容易い。
あまり、こういうことはやりたくないけど。
ここから好印象に持っていくために口を開こうとしたところで、
「で、でも! オルンさんは強かったです! 十数体のオークを一瞬で倒していました!」
ソフィアがフォローしてくれた。
「……ありがとう、ソフィア――」
俺がソフィアにお礼を言うと、「い、いえ」と顔を真っ赤にさせながら俯く。
「――パーティを追い出されたけど、ソフィアが言ってくれた通り、俺はオークが数十体同時に現れても難なく対処できるくらいの実力はある。深層にも何度も行っているし、勇者パーティの指揮は俺が執っていた。もう勇者じゃないけど、安心してくれ、俺がお前たちを絶対に護る。お前たちは昨日と変わらずに、全力で探索に当たってくれ」
第九班のメンバーの表情が明るくなる。俺の発言で、ひとまず不安は無くなったようだ。
全く、新聞社もタイミングの悪いことをしてくれる。
勇者パーティが動き出すのはもう少し先になるだろうし、記事を出すのももっと遅らせても問題なかっただろ。
俺の話が終わったタイミングで、ちょうど時間になったようだ。セルマさんが新人たちに声を掛け、教導探索二日目が始まった。
探索自体は順調に進み三十一層へと到達した。
さて、ここから先の戦闘の指示は俺が出すことになる。改めて気を引き締めないと、な。
早速中層に入って初めての第九班の戦闘だ。
上層の戦闘で把握したメンバーそれぞれの特徴を念頭に、指示を出していく。
指示に対するレスポンスが遅い。それも加味して早めに、
俺の指示に従って戦闘をしてくれた第九班は、難なく中層での戦闘に勝利した。
これ、結構神経使うな……。
第九班の面々が、この結果に大いに喜んでいる。
第九班は、今日初めて中層に来たと聞いている。
俺の指示があったとはいえ、自分たちだけで中層の魔獣を倒せたとなれば、やはり嬉しいよな。
続いて第十班の戦闘が始まった。
敵は前方にゴブリン五体、やや離れたところにオーク一体の構成だ。
まずはセオリー通りに指示を出して、レスポンスと各人の理解度を確認する。
「キャロラインはゴブリンたちを引き付けろ! ローガンはキャロラインへの支援魔術とサポート、ソフィアは後ろのオークを片付けろ!」
俺の指示が終わる前には、既にキャロラインがゴブリンに迫っていく。
(相変わらずの猪突猛進だな……)
ローガンがキャロラインに各種バフを同時に掛ける。
それに加えてソフィアにも【
(並列構築を既にマスターしているのか……。本当に新人かよ、コイツ。とはいえ、ひとまず俺の指示には従ってくれるようで安心した。暴走する可能性も充分考えられたから)
キャロラインはゴブリン五体を相手に、持ち前の素早さを発揮して、翻弄しながら確実に一体ずつ仕留めていく。
ゴブリンの方はどうにかなりそうだな。――問題はオークの方か。
俺が視線をソフィアの方へ移すと、ガクガクと震えているソフィアの姿がはっきりと映る。
彼女はつい最近オークに襲われたばかりだ。その時のことがフラッシュバックしたんだろう。
俺はオークに対して【
「ソフィア、落ち着いて。大丈夫。今のソフィアは一人じゃない。ソフィアには、仲間が、――キャロラインとローガンがいるんだ」
ソフィアの肩に手を置いて、そう告げる。
「仲間……」
ソフィアが俺の言葉を呟くようにオウム返しする。
「そうだ。それに俺も付いている。失敗しても俺がフォローする。だから思いっきりやってみよう」
「思いっきり……。――はい! やってみます!」
俺の言葉を聞いたソフィアの目に力が宿り、力強い返事がきた。
それから深呼吸をして精神を統一している。
俺は肩から手をどかして、集中を邪魔しないように少し離れる。
キャロラインの方は、ちょうど最後のゴブリンを倒したようだ。
「キャロライン、ストップ!」
そのままオークの方へ向かおうとしているキャロラインを止める。
「えっ、なんで⁉」
いきなり待ったをかけられたキャロラインは驚きつつも、動きを止めた。
ここでキャロラインにオークを倒させたら、ソフィアは更に消極的になると思う。
できればここはソフィアにオークを倒させたい。
オーク一体くらいなら、どんなイレギュラーが起きても俺が対処できる。
「――【
ソフィアが発動した炎の槍は、真っ直ぐオークへ飛んでいき、そのままオークの胸辺りを貫通する。
(オーク相手に上級魔術……。オーバーキルだろ……。というか既に上級魔術が使えるのか)
「おぉ、一撃! ソフィア、すごい!」
キャロラインがソフィアを称賛する。
恐らく素の反応なんだろうけど、今のソフィアに対して贈る言葉としては最高だな。
「えへへ、上手くいってよかった……」
「よくやった。良い攻撃だったぞ」
「あ、ありがとうございます」
第十班の戦闘が終了して、移動を再開する。
「オルンさん、一つ聞いてもいいですか?」
俺も歩き出そうとしたところで、ローガンが俺に声を掛けてきた。
「勿論。何でも聞いてくれ」
「先ほど、急にオークの動きが急に鈍くなりましたけど、何かしたんですか?」
「あぁ。お節介だったかもしれないけど、【
「デバフを……。……そうですか。ありがとうございます」
それだけ言うと、ローガンは新人の集団の中に入っていった。
何だったんだ?
◇
中層に入ってからは、新人たちが戦闘に苦戦し、進行ペースは少し落ちてしまったが、大きな問題も発生することなく今日の最終目的地である三十六層に到達した。
大迷宮から地上へと帰還するとセルマさんが解散の声掛けをし、今日は終了となった。
「よぉオルン、ちょっといいか?」
昨日と同様に、適当に夕食を済ませてとっとと寝ようと考えていると、声をかけられた。
声のあった方を向くと、引率者であるディフェンダーの二人がいた。
「えぇ、大丈夫ですよ。どうしました?」
「これからコイツと夕飯に食べに行くんだけど、オルンも一緒にどうかな、と思ってな。どう? これから飲みに行かないか?」
内容は食事の誘いだった。
「誘ってくれてありがとうございます。ご一緒させてください」
特に予定もないし、この人たちと一緒に食事するのも一興かと考えて、一緒に食事に行くことになった。
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