36.リスタート
《夜天の銀兎》の本部に着いた俺は、ソフィアと別れた後、すぐさまヴィンスさんと面会する。
「どうやら考える時間を与えたのは、英断だったようだ」
俺の顔を見たヴィンスさんが、笑みを浮かべながらそう呟いた。
「ヴィンスさん――いえ、総長。先ほどのお誘い、受けさせていただきます。是非俺を《夜天の銀兎》に入れてください」
総長に頭を下げながらそう告げる。
すると扉が開き、セルマさんが部屋に入ってきた。
セルマさんは畳まれた布を俺に渡してきた。
つい受け取ってしまったが、どうすればいいかわからず困惑していると、セルマさんが口を開く。
「広げてみてくれ」
セルマさんに言われた通り広げる。
「これは……」
広げるとそれは黒と青を基調としたフードの付いたロングコートだった。
形こそ違うが、それは《夜天の銀兎》のメンバーが、探索中に着ている団服と酷似している。
左胸に当たる部分には、《夜天の銀兎》の紋章が刺繍されている。
「オルンが羽織っていたロングコートを参考に作ってみた。袖を通してみろ」
ロングコートを羽織ってみる。当然だけど、サイズなんて教えていない。そのためサイズが合っておらず、ぶかぶかだった。
(折角作ってくれたところ申し訳ないけど、これを迷宮探索に着ていくことはできないな……)
そんなことを考えていると、コートがどんどん縮んでいって、ちょうどいいサイズになった。
(え、なにこれ……)
見たことも聞いたこともない現象に戸惑いを隠せない。
「ふっ、キミでもこれは知らなかっただろう? これは我がクランの秘匿技術の一つだ。これ以外にもいくつもあるが、それは追々教えてやる。当然だが、他言無用で頼むぞ?」
「こんな技術があるなんて知りませんでした」
俺は素直な感想を口にする。
これを見ただけでもここにきて良かったと思った。
俺はこれまでにさまざまな知識や技術を
俺の知らない知識、技術を知れると思うだけで、すごくワクワクしてくる。
総長が真剣な表情で俺に語りかけてくる。
「キミは先日、信頼していた仲間に手ひどく裏切られたばかりだ。私にはキミの心の傷を推し量ることしかできないが、相当深いものだということはわかる。だからこそ我々は言葉だけではなく、行動でもキミに誠意を見せたいと思っている。キミ自身が我々を信頼にするに値すると思ってもらえるように。《夜天の銀兎》は必ず、オルン・ドゥーラの信頼を勝ち取ってみせる」
確かに俺は思っていた以上に、勇者パーティを追い出されたことが堪えていた。パーティやクランに所属するのが怖いと思うくらいには。
その考えを変えてくれたのは、じいちゃんのあの言葉だ。
だけどそれだけじゃなくて、教導探索の五十層フロアボスを倒した後のお互いを称え合っていた、あの光景。
全員が心の底から笑えているような、傍から見ても心温まる光景だった。
――俺もその輪の中に加わりたい、そう思ってしまった。
俺にも心の底から笑い合えるそんな仲間が、友だちが欲しい。
これは俺の、子どもの頃からの
なんでそう思っているのかはわからない。
――あれ? 本当にどうしてだっけ? ど忘れとは珍しいな。
「……そう、ですか。では、見極めさせてもらいます。このクランが真に信頼のおける組織なのかどうかを」
「望むところだ」
探索者になって早九年。
始まった時から一緒だった仲間からパーティを追い出された俺だけど、探索者としての第二の人生が、これから始まろうとしている。
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