37-A.【side???】報告

  ◇ ◇ ◇


 とある建物の一室。

 そこは全てが黒で統一された執務室となっている。


 その部屋で二人の男が対面していた。


 片や、執務室にある椅子に腰かけている、二十代半ばに見える若い男。

 彼は左腕を失くし、右目には眼帯をしている。


 片や、元々の黒髪に白髪が混ざり始めている四十代後半の男。

 普段の温厚さは鳴りを潜め、彼本来の雰囲気を纏っている。


 外見だけで判断すれば、後者の方の立場が上のように見えるが、どうやら前者の立場が上のようだ。


「アポイント無しでの訪問した非礼をお詫びします、グランドマスター」


「お前のことだ。それほどの内容なのであろう?」


「はい。内容が内容なだけに、すぐにグランドマスターの耳にも入ると思いますが、その時には尾ひれがついている可能性が非常に高いため、私が報告に上がった次第です」


「ふむ。それで、内容は?」


「三日前、私の管轄である南の大迷宮でイレギュラーが発生しました。九十二層に存在するフロアボス、通称黒竜が、ボスエリアの範囲外での活動をしている姿を探索者が目撃しました」


「…………なるほど。西が無くなったことによる不具合か、はたまた意図的か。解析を続けてみなければ答えはわからんな」


僭越せんえつながら、前者だと愚考ぐこういたします」


「ほおう。何故そう思う」


「フロアボスは強力な防衛機構・・・・であるはずです。あれだけのリソースを割いて強力な魔獣をその場に縛り付けているのですから。仮にフロアボスが階層内を自由に動けた場合、深層ほどの広いエリアであれば、ボスと遭遇せずに次の階層へ行ける可能性もあります。わざわざそのような危険を犯すでしょうか?」


「一理あるな。今回は西が消えたことによる一時的な不具合と見るべきか。であればすでに修正されているだろうな。次に消せそうなのは東か?」


「だと思われます。西と東には深層がありません。北はわかりませんが、南はしばらく階層を進むことは無いでしょう」


「東が消えたらすぐに連絡をするようにしておく。今回のような不具合があったらすぐに俺に報告するようにしろ」


「畏まりました」


「報告は以上か? 確かに早めに知っておきたい情報だったが、お前が急ぐほどの内容では無かった気がするが」


「報告はもう一件あります。むしろこちらの方がグランドマスターには有益な情報かと。不具合の件はおっしゃられた通り、既に修正されていると思われますので」


「有益、か。どんな情報だ?」


「先の不具合に関連するのですが、例の黒竜を単騎で討伐した探索者が現れました」


「ほう……。それはすごいな。黒竜を討伐したのは《勇者》――オリヴァー・カーディフだろ? そうか、ついに・・・開花したか」


「いえ、彼ではありません」


「…………なんだと? あいつ以外に深層のボスを単騎撃破できる存在なんて――――まさか……。おい、そいつの名前は、オルン・ドゥーラじゃないだろうな?」


「ご存じでしたか。彼は勇者パーティに所属していましたが、これまで無名でしたのに。流石でございます」


「嘘だろ……。まさか……。いや、あり得ない・・・・・……。仮に深層のボスを単騎撃破できる力を有しているなら、討伐するなんて選択をするはずがない・・・・・・・


「……如何なさいましたか?」


「そいつに最近変わったところは無かったか?」


「いえ、担当の者からも、特にそういった報告は上がっていませんが」


「じゃあ、そいつのギルドに対する態度は?」


「至って普通だったかと。先日黒竜について報告を貰った時も、今までと変わらなかったです」


「だとすると、アイツはあのまま・・・・何らかの方法で、深層のボスを倒すに至るほどの力を手にしているということか? くくく、あははははは! どこまでイカれてんだよ! にしてもこいつは傑作だ! だったら、このまま俺の救世主になってくれ! オルン・ドゥーラ! そうしたら、俺にしたこと・・・・はきれいさっぱり水に流してやるよ! あははははは!」


「あの……グランドマスター……?」


「あぁ、すまない。少し興奮してしまった。もう大丈夫だ。確かに深層ボスを単騎撃破したなんて内容は尾ひれがつくかもしれないな。それに、くくく、これは俺にとって有益な情報だ。感謝する」


「勿体なきお言葉です」


「もう報告は無いか? では、下がって良いぞ」


「はい。では、失礼いたします」


 白髪交じりの男が一礼してから退室する。

 部屋に一人となった、グランドマスターと呼ばれていた男が呟く。


「夢から覚めることなく、このまま踊り続けてくれ。俺の野望のために! あははははは!」

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