26.オルン VS. 黒竜② たった一人のパーティ
パーティ戦の
相手の攻撃を引き付け、他の仲間が自分の役割に集中できるようにさせる役割を持つ。
現状、黒竜は俺しか眼中には無いらしい。
この時点でディフェンダーの仕事は半分以上達成できている。
あとは相手の攻撃を防げればベストだが、そんなことをすれば攻撃にリソースを割けないため却下だ。
だから俺は回避型になるしかない。
相手の攻撃を俺に集中させ、その全てを躱す。
そうすれば攻撃にリソースを避けるし、カウンターも狙える。
キャロラインにはあり得ないと言っておきながら、俺はその型を模倣する羽目になるとは……。
次にパーティ戦で一番重要なのがサポーターだ。
ケガ人の治療や味方に状況に応じたバフ掛けといった、味方をサポートする役割を持つ。
勇者パーティのもう一人のサポーターであるルーナの立ち回りは、彼女の異能ありきのものであるため再現は不可能。
とはいえ、基本的には
攻撃が当たらないなら回復する必要は無いからな。
最後にパーティの花形であるアタッカー。
これに説明はいらないだろう。
相手を攻撃し倒す役割を持つ。
勇者パーティでは、前衛アタッカーのオリヴァーと後衛アタッカーのアネリがいる。
どちらも高火力の攻撃を連続で叩き込むことが可能な、優秀なアタッカーだ。
オリヴァーの役割に関しては、今の俺の能力が以前黒竜を倒したときのあいつを超えているため問題ない。
アネリの役割に関してはあそこまでポンポンと攻撃魔術は撃てない。
だが、オリジナル魔術を併用すれば、高火力の魔術を複数発動することはできるからこちらも再現可能だ。
(よし! 行ける!)
一瞬で脳内シミュレーションを終わらせた俺は、再び【
【魔力収束】で足場を作り、先ほどまでの前後左右の動きに高低の動きも加える。
立体的に黒竜の周りを、スピードを緩めることなく高速で動き続けながら、すれ違いざまに剣で斬りつける。
なお今回は、【
黒竜だけでなく、モヤも色々な形に変形しながら攻撃をしてくるがそのすべてを躱す。
何十回と黒竜を斬りつけるもやはり決定打にはならない。――が、それは百も承知のこと。
今回黒竜を斬りつけていたのは、ついでにすぎない。
黒竜の周りを飛び回っていたのは、別の目的があったからだ。
俺は黒竜に背を向けながら、黒竜の右側面に着地する。
その隙を見逃さず、黒竜はモヤを細長い槍のような形に変えて何本も打ち込んでくる。
「比較的攻撃を当てやすそうな場面ではその攻撃をしてくるよな。でも、それは過去に何度も見ている!」
その攻撃をさせるよう誘導していた俺は、最小限の動きで全てを躱しきる。
「次は俺の番だ!」
そう黒竜に告げながら、魔力を流す。
すると黒竜を覆うように四十を超える魔法陣が出現する。
これが、さっきまで俺が黒竜の周りを跳び回っていた理由だ。
空中で方向転換をするたびにその場に攻撃魔術の術式を設置していた。
その術式全てに今魔力が流れ込んだことにより魔術が発動する。
火・水・風・土・雷・氷と様々な属性の攻撃魔術が黒竜の周囲から撃ちだされ、大きな音と共に黒竜が煙に包まれる。
煙に映る黒竜のシルエットが翼を軽くたたみ、勢いよく翼を広げた。
それによって発生した強風によって、煙が消し飛ばされた。
黒竜が不愉快そうな視線を俺に向けてきているように感じる。
今の攻撃では全くダメージが無いようだ。
俺は不敵な笑みを浮かべながら、
「魔術の数に比べて威力が弱いって? そりゃそうだろ。俺は上級以上の魔術が使えないんだ。それに今のは、省エネも兼ねて全部初級魔術だからな。だけど、そのままのんびりしていていいのか?」
黒竜にそう告げると、再び黒竜を覆うように魔法陣が出現する。
しかし、今回俺は
これは、俺のオリジナル魔術である【
【
設置した場所を攻撃魔術が通ると、その攻撃魔術をコピーする。
そして
先ほどよりも威力が数段上がった魔術が黒竜を襲う。
今回はダメージが通ったようで、黒竜が悲鳴に近い声を上げた。
【
黒竜のモヤよりも更に黒い、漆黒のオーラが刀身を纏う。
(いつ見ても悪者が使いそうな見た目だよな……。俺のもオリヴァーみたいな淡い金色がいいのに)
オリヴァーの収束させた魔力は、世界を照らす朝日のような温かい光。
対して俺の魔力は、光の無い夜を象徴するかのような冷たい闇。
効果は同じはずなのに、見た目は正反対だ。
【
そして現れた黒竜は、先ほどよりも傷ついていて、見るからにダメージがあったことがわかる。
黒竜から今までとは比較にならないほどの殺気を放たれるが、冷静さは失っていないようだ。
俺の刀身に集まる魔力を見て警戒を強めている。
「まだ余裕がありそうだな。それじゃあ、間髪入れずに第三波だ!」
いくら弱い初級魔術とはいえ、威力を増幅させたものを更に増幅させている。
その威力は特級魔術にわずかに劣る程度まで上がっているだろう。
黒竜の悲鳴がボスフロア全体に響き渡る。
攻撃が止んだところで、漆黒のオーラを纏った剣を構える。
黒竜はこれまでのように、煙を吹き飛ばすことはなかった。
徐々に煙が晴れていき、黒竜のシルエットが見え始める。
黒竜の翼を狙って漆黒の斬撃を放つ。
「天閃……!」
漆黒の斬撃は黒竜の翼をめがけて、一直線に飛んでいく。
翼に当たる直前には当然【
だが、黒竜は俺の斬撃を自身の尻尾で防いだ。
当然尻尾は魔力の拡散で消し飛ぶことになったが、想定よりも威力は格段に下がっている。
【
本来想定していた地点よりも前で魔力の拡散が起こったため、【
(何故翼を狙っていたとわかった!?)
煙に包まれていたから、斬撃を見えていなかったはず。
であれば、反応して防いだわけではない。
俺が翼を狙っていることが事前にわかっていないと、今の動きはできない。
(この個体が天閃を見るのは初めてのはずだ。なのに、なんで……)
俺が動揺していた一瞬のうちに黒竜は羽ばたき、上空へと移動する。
このボスエリアはドームのようになっているため天井がある。
黒竜は天井付近である、上空約五十メートルほどの位置から俺を見下ろす。
「……くそっ、飛ぶのを防げなかったか」
翼さえ消し飛ばせていれば、あそこまで飛ばれることは無かった。
上空に居続けられると非常に戦いづらい。
【魔力収束】があるから空中戦もある程度できるが、地上戦の方が断然戦いやすい。
相手の土俵で戦うのは避けたいが、このまま地上にいれば上空から炎弾やモヤによる攻撃を一方的に受けることになる。
上空に駆け上がろうとしたところで魔力の流れを感じ取り、《夜天の銀兎》のメンバーが魔術を発動しようとしていることが分かった。
魔力は普通の人には感じ取れないらしい。
ただ、俺は【魔力収束】という異能があるおかげか、ある程度魔力を感じ取ることができる。
(攻撃のしすぎでヘイトを稼ぎすぎるとか、誤射で俺に当てるとかしないでくれよ……)
そんなことを考えていたが、魔術を発動しようとしているのがセルマさんだと気づく。
(セルマさんには、あの黒竜に有効打となる攻撃魔術が無いことは、前の共同討伐で知っている。ということは――俺への支援魔術か!)
現状の俺はセルマさん支援魔術以上に能力を引き上げている。
更に【重ね掛け】は、薄く張った氷の上を歩くような、非常に不安定な状態で成り立っている。そこに第三者の支援魔術なんてものが加われば、確実に瓦解する。
この戦いにおいて、その隙は致命的だ。
瞬時にその結論に至った俺は、行動に移す。
セルマさんの魔術を妨害するために、【魔力収束】の応用でセルマさんの周囲の魔力を乱して魔力流入をさせないようにする。
セルマさんが魔術の発動に手間取っている。
「支援魔術はいらない! 感覚がズレる! 自分たちを護ることを第一に考えてろ!!」
《夜天の銀兎》のメンバーに声を荒げたところで、上空から黒竜の炎弾が降ってきた。
即座にその場を離れて炎弾を躱す。
そのまま【魔力収束】で足場を作りながら前後左右に的を絞らせないようランダムに移動する。
方向転換のたびに先ほどと同様に、初級魔術と【
その内の半分はすぐに発動して、半分は魔力流入すれば発動できる状態で待機させる。
様々な攻撃魔術を打ち上げながら、黒竜のいる上空五十メートルまで駆け上がる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます