102.魔剣合一
「……【
まずは、自身に今扱える最大のバフを掛ける。
それから
直後、オリヴァーは三メートルほど上空へと跳んだ。
それを確認した俺は愛刀であるシュヴァルツハーゼを握り、オリヴァーの真下を位置取る。
「【
シュヴァルツハーゼを魔剣へと変える。そしてその魔力を膨張させて、大剣を形作る。
「――っ!!」
そのまま大剣となったシュヴァルツハーゼを全力で振り上げる。
オリヴァーはそれを剣で難なく受けるが、今回俺が振るっているのは魔剣だ。
さっきのお返しに【
(このまま空中に釘付けにする!)
空中戦を選択した理由は二つある。
一つ目は地上で戦い続けると、先ほどのように周囲に被害が出る。
迷宮の中であれば周りを気にする必要は無いが、ここは街中だ。
なるべく壊したくない。
二つ目はオリヴァーが空中を自由に移動する術を持っていないこと。
俺のように【魔力収束】で即席の足場を作ったところを見たことが無いし、今のオリヴァーにできるとは到底思えない。
既に武器も無いオリヴァーに対抗する手段は無い。
空中なら俺の独壇場になる。
――そう思っていた。
オリヴァーを追うために地面を蹴って距離を詰める。
そのまま追撃をしようとしたところで、空中に放り出されたオリヴァーの発している金色のオーラが蠢きだす。
それが、オリヴァーの背中に集まり、金色の魔力が翼のように変化した。
「――なっ!?」
オリヴァーの翼は見た目だけではなく、空中での移動も可能にしているようで、いきなり俺に向かって急降下してくる。
「――っ!」
【
吹っ飛んだオリヴァーが上空で体勢を整えている内に、俺はオリヴァーと同じ高度まで上がり、【魔力収束】で作り出した足場に立つ。
上空で俺とオリヴァーが睨みあう格好となった。
「本当にどうしたんだよ、オリヴァー。お前になにがあったんだ?」
「…………」
答えてくれないとわかりつつも、声を掛けずにはいられない。
俺とオリヴァーは別の道を歩くことになった。
だけど、それは決別ではない。
オリヴァーは今でも俺の親友だ。
だからこそオリヴァーがこんなことをしたことが悲しいし、絶対に止めたいと思っている。
「……お前が自分の意志で街を破壊したとは思いたくない。もし自分の意志で止まることができないというのなら、俺がお前を止めてやる。――【
シュヴァルツハーゼを大剣から長剣に変える。
以前までは【
だが、今ではそれを克服してる。
今の【
《アムンツァース》との戦いが終わってから、俺は寝る間も惜しんで【
その結果、感謝祭が開催される前に、この魔術は完成した。
以前のように一瞬のものではなく、実質戦闘中はずっと魔剣のまま維持することができる。
とはいえ、魔剣を維持するにはバフの更新のように定期的に魔術を発動することが必要なため、永遠にこのままというわけにはいかない。
空中機動については、直線移動しかできない俺よりも、自由に動き回れるオリヴァーの方が有利だろう。
だが、武器を持たないオリヴァーは、今の俺にまともにダメージを与えることはできない!
足場を蹴ると同時に足場の魔力を拡散させ、その衝撃による勢いも乗せて高速でオリヴァーに迫る。
「――っ!」
剣の間合いに入ってからシュヴァルツハーゼを振り抜く。
オリヴァーは翼を体に巻きつけるようにして体を守る。
俺の斬撃を真正面から受けたオリヴァーは、ピンボールのように吹っ飛ぶ。
「【
飛んでいくオリヴァーを追うように、雷の矢を五本撃ち出す。
オリヴァーの翼を貫くために、雷の矢に【
(黒竜のウロコすら貫いた攻撃だぞ。どんだけ硬いんだよ……)
オリヴァーの翼の頑丈さに舌を巻いていると、突然オリヴァーが視界から消え、次の瞬間には俺の真上に移動していた。
「――っ!?」
そのまま右拳を振り下ろしてくる。
ギリギリのところでその拳を躱すことができたが、翼によって叩かれる。
「ぐっ」
水平に数メートルほど飛ばされたところで、ようやく体勢を立て直すことができた。
「本格的にヤバいな、これ……」
オリヴァーの異様な強さに冷や汗が止まらない。
そんな俺をあざ笑うかのように、更にオリヴァーは進化する。
オリヴァーの両手に魔力が集まっていき、大きな獣の爪のようなものを形作る。
「ホント勘弁してほしいな」
愚痴を一つ零してから、意識を切り替える。
気を抜けば一瞬でやられる。ここから先は集中力を一時も切らしてはならない。
「【
距離を詰めながら、オリヴァーの目の前に強い光を発生させる。
(目をくらませているうちに――!)
オリヴァーの側面に回ってから、シュヴァルツハーゼを横薙ぎに払う。
俺の攻撃がオリヴァーに届く前に翼によって防がれる。
(視覚を封じても対処されるのか)
オリヴァーの右腕が、剣の斬り上げの要領で振り上げられる。
「【
(この攻撃を弾けば、明確な隙が生まれる――っ!?)
【
だがオリヴァーの爪は、その壁をいとも容易く破壊する。
そのまま爪による斬撃が俺に届く。
「……!」
幸い急所に当たることは避けることができた。
深くえぐられた四本の切り傷から多くの血を流しながらも、オリヴァーから距離を取る。
それからすぐさま自身に【
俺が回復していると、オリヴァーの腰のあたりから、魔力で作られた尻尾のようなものが三本現れる。
そしてその三本の尻尾が、しなりながら襲い掛かってくる。
「っ。【
魔剣の魔力を分割し二本の短剣を形作り、襲ってくる尻尾を迎撃する。
全方位から襲いかかってくる尻尾を二本の短剣で往なしていると、オリヴァーが上に挙げている右手に魔力が集まっているのを感じ取る。
「くそっ!」
尻尾の攻撃によってその場に釘付けにされている俺に対して、オリヴァーが黄金に光り輝いている右手を振り下ろす。
五本の黄金の斬撃が俺を襲う。
「【
オリヴァーと俺の間に俺の体よりも大きな盾を出現させる。
盾と斬撃が接触する際に【
――だが、安心もしていられない。
盾を出現したのは俺の真正面。
尻尾の攻撃は全方位からやってくるため、この盾では防げない。
「【
すぐさま二本の短剣に戻し、側面や背後からやってくる尻尾の攻撃を往なす。
◇
それからも永遠とも思えるほど長い時間攻防を繰り広げた。
実際はそこまで時間は経過していないが、感覚的にはその何倍も長く感じる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「…………」
これまでの戦いで有効打に至る攻撃を与えられていない俺に対して、オリヴァーは何度も俺に攻撃を届かせている。
外傷は回復魔術で治しているためケガは無いが、団服は修復できないためボロボロになっている。
(このまま戦い続けても勝機は見いだせない。戦い方を変えなければ)
どう戦っていくか、思考を巡らしていると、
『《夜天の銀兎》のセルマ・クローデルだ。現在、ツトライルにいる探索者全員に語り掛けている。これは私の異能によるものだ。急なことで驚くだろうが、今は私の言葉に耳を傾けて欲しい――』
脳内にセルマさんの声が響いた。
この声はオリヴァーにも届いているのか、オリヴァーの動きが止まる。
何故止まったかはわからないが、これで少し体を休めることができる。
なおもセルマさんの話が続く。
『現在、上空でうちのオルンと勇者パーティのオリヴァーが戦っていることには気づいているだろう。詳細は省くが、オリヴァーが街の破壊を始め、それをオルンが止めようとしている状況だ』
結構高い高度で戦っているが、やはり俺たちが戦っていることは街の人たちにも気付かれているか。
まぁ、これだけ金色と黒色の魔力が飛び交っていれば、先の決勝戦を見ていた人たちなら俺たちだってことはわかるか。
『是非みんなにはオルンの加勢をしてほしいと言いたいところだが、本題はここからだ。つい先ほどツトライル周辺に存在する五つの迷宮全てから魔獣の氾濫が確認された』
(魔獣の氾濫だと!?)
魔獣の氾濫とは、迷宮から大量の魔獣が地上に出てくる現象のことだ。
通常迷宮内の魔獣が地上に出たり、階層を移動したりすることは無い。
それは迷宮や各階層の入り口に設置されている水晶のおかげだ。
しかしごく稀にその水晶でも止められずに魔獣が地上に出てくることがある。
その原因は未だわかっていない。
そして氾濫が起こった際には、高い確率で迷宮から一番近い街が襲われる。
街には大量の人だけではなく大量の魔導具――つまり魔石が存在する。
魔獣が街に向けて一直線にやってくるのは当然のことだろう。
(オリヴァーがおかしくなって、そのうえ五つの迷宮で同時に氾濫が起こるだと? 偶然にしては出来過ぎだ。今回の一件は、十中八九人為的なものだろう。オリヴァーはそれに利用されているだけということか)
『現在、ギルドによって街の東西南北にある四つの門に大量の魔石が運ばれている。東門は
セルマさんの声を聞いたのだろう、下からは戸惑いの声が聞こえる。
『オルン、加勢できなくて済まない。オリヴァーの相手は任せでもいいか?』
これが俺だけに聞こえたものか判断はつかない。
もしかしたら、他の探索者たちも聞いているかもしれない。
だけど、俺の返答は変わらない。
『オリヴァーのことは俺に任せろ。魔獣の相手は任せた!』
オリヴァーが何かの理不尽に巻き込まれているなら、尚更俺がやらないといけない。
理不尽な状況であろうと、
劣勢だろうが何だろうが、跳ね除けてやる!
シュヴァルツハーゼを構えなおし、再びオリヴァーに肉薄する。
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