55.愛称

「――それでは改めて、俺はこれから、同じクランの仲間として、お前たちにモノを教える立場の人間として、真剣にお前たちと向き合っていく。厳しいことを言うかもしれない。突き放すこともあるかもしれない。それでも、俺はずっとお前たちの味方であり続ける。だからお前たちも、全力で俺にぶつかってきてほしい」


 これは宣誓せんせいだ。

 言葉にすることでより一層身が引き締まる思いになった。


 俺にとっての師匠はじいちゃんだから。

 じいちゃんのように、温かく見守り、時に厳しく、悩んでいたらアドバイスを与える。

 そして、どんな時でも味方で居続けてくれる。

 そんな理想の師匠に俺もなりたいと思っている。


「「「よろしくお願いします!!!」」」


「あ、そうだ。キャロラインって愛称で呼ばれるのが嫌だとかあるか?」


 キャロラインに質問する。


「んー、特にないけど、なんで?」


「キャロラインってちょっと長いだろ? 素敵な名前だとは思うけど、探索者は長い名前の人には愛称で呼ぶことがあるんだ」


 第一部隊でもウィルクスをウィルって呼んだり、ルクレーシャをルクレと愛称で呼んだりしている。


「そうなんだ。名前にこだわりとか無いから全然いいよー。素敵な名前つけてね!」


「愛称は基本的に自分で考えるものだが、俺が決めちゃっていいのか?」


「うんうん! お兄さんならいいよ~!」


 軽い口調で了承してくれた。


(うーん……。キャロラインだから、やっぱりキャロか? 安直かなぁ……。だったら――)


「『キャロル』、とかどうだ?」


「おー、キャロル! スッキリしていいね! じゃあ今日からあたしの名前はキャロルだ!」


「……いや、愛称な。名前はそのままキャロラインだよ」


 気に入ってもらえたみたいだ。

 よかった。


「オルンさん! そう言うことでしたら、僕にも愛称を付けてください!」


 ローガンが目を輝かせた子犬のようなつぶらな瞳を向けてお願いしてくる。


「ローガンはそのままでも長くないだろ」


「そこを何とか! お願いします!」


 不要だと言ったら食い下がってきた。

 そんなに付けてほしいのか?


「……じゃあ、『ログ』、なんてどうだ?」


「ログ……。オルンさんが付けてくれた、僕の名前……!」


 なんか、すごい感動しているような表情で呟いている。いや、だから愛称なだけで、名前は変わってないって……。まぁ、そんなに喜んでもらえるなら、嫌な気分はしないけどさ。


 そんなやり取りをソフィアが羨ましそうに眺めている。

 一人だけ仲間外れは寂しいよな。


「ソフィアは『ソフィー』、なんてどうだ?」


「……え?」


 俺が急に言うもんだから、ソフィアはポカンとしている。


「ソフィアにも愛称を付けてみたんだが、安直すぎだよな。嫌だったか?」


「い、いえ、そんなこと無いです! とっても嬉しいです! ソフィーかぁ……えへへ……」


 ソフィーがすごく幸せそうな表情をしている。

 喜んでもらえたようでよかった。


「あの! できれば、オルンさんのことも別の呼び方をしたいのですが……」


 ログから提案を受ける。


「いや、俺はこのままでいいだろ。短い名前だし、省略する必要もないだろ」


 俺の名前を省略すると、『オル』とか『ルン』とかか?

 違和感しか無いんだが……。


「いえ、愛称で呼ぶとかではなく、オルンさんのことを、『師匠』と呼ばせていただきたいです!」


 真っ直ぐな瞳で提案してくる。

 ……どうやら本気みたいだ。


「あー! ローガン――じゃなかった、ログだけズルい! あたしもお兄さんのこと、『ししょー』って呼ぶ!」


「そう呼びたいなら、呼んでくれて構わないぞ。……ソフィーもそう呼ぶか?」


 ソフィーに問いかけると、


「い、いえ、わ、私は、その、『オルンさん』、のままが、いい、です」


 顔を真っ赤にしながら俯いて、蚊の鳴くような声でそう言う。


「全然かまわないよ」


 こうして第十班におけるメンバーそれぞれの呼び方が決まった。


 次はパーティ名かな?

 急ぎじゃないけど、いつかは決めないとな。

 今の感じからすると、俺が決めることになりそうだから今の内から考えておこう。

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