11.問題児たち?

 担当する新人パーティの元に向かうと、八人の少年少女がいた。

 子どもたちから「やった、勇者様だ!」という小さな声が聞こえる。


 勇者じゃないんだけどな……。


 列を確認すると第九班が五人、第十班が三人だった。

 そして第十班の中にはソフィアがいた。

 まぁ、新人なのにオーク十体以上の接近を許しながらも、一人でしばらくの間生き残れていたんだ。

 期待の新人と言って差支えないだろう。


「さっきセルマさんから紹介のあったオルンだ。三日間よろしく頼む」


 俺が挨拶すると新人たちも「よろしくお願いします!」と声が返ってくる。


「それで、第十班は誰か遅刻しているのか?」


 基本的にパーティは五人、多くても六人で組むのがセオリーだ。少なすぎると不測の事態に対処できない可能性があるし、多すぎると逆に連携の難易度が跳ね上がる。

 更に魔獣は人の多いところを襲う習性があり、人が多すぎるとディフェンダーに攻撃を集中させることが難しい。

 以上のことから、今では五人がベストな人数とされている。


「いえ、僕たちは三人パーティなんですよ」


 第十班に所属している金色の髪に紫色の瞳をした少年が答える。


 なお、二つのパーティは、第九班が男三人女二人、第十班が男一人女二人の構成になっている。


「三人パーティ? 珍しいな」


 つい本音を零してしまった。

 パーティでは人数が多いよりも少ないほうが危険度は高まる。そんなことがわからないクランではないだろうに、なんで三人なんて構成にしているんだ?

 先ほどざっと見た限り六人パーティが二つあった。そこから一人ずつ第十班に異動させればいいのに。新人である今ならパーティ変更は簡単なはずだ。


「それは僕たちについていける人がいないからですよ」


 少年が自信満々にそう言う。


 なるほど。期待の新人だから、他の新人に比べるとレベルが違いすぎるってことか。

 にしてもこの少年、この歳で既にこの態度か。

 探索者の中には自分の実力が上がるにつれて、態度が大きくなる人がいる。今の時点でこれだと将来が不安になるな。


 ……もしかして、性格の矯正も俺の仕事? ……いや、クランには何かしらの意図があるんだろう。うん、そうに違いない。それなら部外者の俺が勝手に手を加えるのは良くないよな。決して面倒だからやらないってわけじゃない。


「そうか、全員そろっているなら問題ない。それじゃ、時間もあまりないし、みんなの名前とポジションを教えてもらっていいか?」


 一人一人に自己紹介をさせる。


 第九班の自己紹介が終わり、第十班の番になった。


「僕がこのパーティのリーダー、ローガン・ヘイワードです。ポジションは付与術士で、いずれセルマさんを超える男です」


 第十班の付与術士がこいつか。

 《夜天の銀兎》は全パーティ共通で、付与術士が戦闘中の指揮を執ると聞いている。この少年が指揮を執ることに既に不安を覚えるんだが……。でも、もしかしたら指揮は問題ない可能性もあるし、それは実際の戦闘を見てみないとわかんないな。


「ああ、頑張ってくれ。次」


「はーい! あたしの名前はキャロライン・イングロット。ポジションはディフェンダーだよ!」


 ソフィアではないもう一人の女の子が話し出す。

 彼女はややくせっ毛のある赤みがかったのベージュの髪を腰辺りまで伸ばし、翠色の瞳をしている。

 身長や体格は周りの子どもと同じだが、ある一部分は結構成長している。何処が、とは言わないが。

 それにしても元気な子だな。


 時間も無いし、次に進めるべきだが、次はソフィアだから知っているし、どうしても確かめておきたいことがあるためキャロラインに質問をする。


「鎧の類は無いようだが、迷宮に入ってから装備するのか?」


「もー、お兄さんもそんなこと聞くの? あたしは鎧も盾も装備していないディフェンダーなのだ!」


 いや、どや顔でそんなこと言われても……。


 ディフェンダーは味方の代わりに魔獣の攻撃を一身に受ける役職だ。鎧や盾は必須のはずだが。

 ……いや、一人だけいる。勇者パーティ、《夜天の銀兎》に次ぐSランクパーティに、鎧や盾を装備していないディフェンダーが。


「もしかして回避型のディフェンダーを目指しているのか?」


「だいせいかーい! あたしは魔獣に触れられたくないもん。でも、魔獣をたくさん殺したいから、一番魔獣の近くに居られるディフェンダーになったのだ!」


 俺は頭を抱えたくなった。

 回避型のディフェンダーは、戦闘経験がその人の実力に直結する。

 新人にできる立ち回りではないし、回避型は初見の魔獣に対しては無力だ。


 《剣姫》という二つ名で呼ばれているSランクの彼女は、特殊な力を持っているから成立しているんだ。

 必死に努力すれば彼女に近づくことは可能かもしれないが、同じ土俵に立つことは不可能だと言い切れる。


 それに、ディフェンダーになった理由が魔獣をたくさん殺したいからって……。

 本当は第十班って問題児の集まりなんじゃないか?

 ……いや、ソフィアは問題児じゃないから違うか。――あ、でも、セルマさんとの約束破って勝手に迷宮に行っちゃったんだっけ?

 それだと一〇〇パーセント問題児じゃないとは言い切れないな……。


「回避型はやめた方がいい。クランではダメだって言われてないのか?」


「言われているに決まってるじゃないですか。それなのにコイツが無視しているんですよ」


 俺の質問にローガンが答える。


「ローガンだって、先生たちの言うこと聞かないじゃん! 人のこと言えないよ!」


「あ、あの、喧嘩は、だめ……!」


 ローガンとキャロラインが言い争いをはじめ、それをソフィアが止めようとしている。本当に頭が痛くなってきた。


「はあ……。次」


「はい! ソフィア・クローデルです! ポジションは魔術士、後衛アタッカーです」


 第九班のメンバーと同じ自己紹介の仕方なのに、何故か安心する。


「よし、全員覚えた。改めてこれから三日間よろしく頼む。他の班が移動を始めているから、俺たちも移動するぞ」


 俺が先頭に立ち第八班の後ろを付いて行く。

 そして、大迷宮の中へと入っていく。


 ついに教導探索が始まった。


「大迷宮では俺が後ろから付いて行くから、お前たちは第七班、第八班に付いていけ」


 第九班のリーダーとローガンにそう告げてから最後尾へと移動する。

 大迷宮内では新人たちは二列で進み、引率者たちはそれぞれ最後尾と左右の列から出たところで周囲を警戒している。


  ◇


「ねぇねぇ! なんで勇者パーティの人がこの探索に参加してるの? 勇者パーティ的にはうちのクランはライバルとは思ってないってこと?」


 大迷宮に入ってからしばらく経った頃、キャロラインが話しかけてきた。

 他の新人たちは緊張でガチガチに固まっているってのに、この子は地上にいたときと変わっていないように見える。図太いというか、なんというか。


「セルマさんの話を聞いていなかったのか? 俺はもう勇者パーティを抜けてる。だから参加できている。それに勇者パーティとしては、《夜天の銀兎》は脅威だ。常に動向には注目していたよ」


「えー、なんで抜けちゃったの⁉ 勇者パーティなんてみんなの憧れの的じゃん! もったいない!」


 ぐいぐい踏み込んでくるな……。裏表も無さそうだし、苦手なタイプだ。


「なんだっていいだろ。お前には関係にないことだ」


「ぶー、ケチー」


 思っていたよりもあっけなく引き下がってくれたな。


「あ、そだ! お兄さんとソフィアって知り合いなの?」


 引き下がってくれても、会話は続けるのね……。


「まぁな。それがどうした?」


「んー、大した理由は無いんだけど、ソフィアが教導探索に凄い人が来るって言っていたから。ね? ソフィア!」


「……え⁉ な、なに?」


 突然声をかけられたソフィアが驚きの声を上げる。

 ソフィアは他の新人と同じようにガチガチになっている。


「だからー、教導探索に来る凄い人ってお兄さんのことでしょ?」


「あ、えと、うん。この前オルンさんに助けてもらって。すごく強かったし、勇者パーティの人だっていうから。お姉ちゃんもオルンさんが居れば安心だって言ってたし」


「そかそか。それなら安心だね! なら、ソフィアもそんなに緊張しなくても大丈夫じゃない? なんたって勇者様であるお兄さんが居るんだから!」


「う、うん。そうだね……!」


「……勇者じゃないけどな」


 もしかしてこの子、ソフィアの緊張をほぐすために、この会話を広げてた?……? 自由奔放な子かなと思ったけど、意外に気配りができるのかな。


  ◇ ◇ ◇


 二体の白い狼のような魔獣ホワイトウルフが《夜天の銀兎》の集団の後方から迫ってくる。

 ホワイトウルフが自身の嗅覚を頼りに着実に近づいていく。

 しかし、ホワイトウルフが《夜天の銀兎》の集団に追いつくことは無かった。

 突如隆起した地面が槍のように変化してホワイトウルフを串刺しにしたためだ。


 地面が隆起した理由は単純。オルンが時限式の魔術を地面に発動していたから。

 串刺しにされたホワイトウルフはそのまま黒い霧となり、魔石だけがその場に残る。


 オルンはキャロラインと会話をしながらも、はるか後方の魔獣の気配を察知していた。

 更に今自分がいる場所を魔獣たちがいつごろ通過するのかを逆算し、その時間に魔術が発動するように地面に設置をしていたのだ。


 オルンは既に迷宮に入ってから、数回魔獣を討伐している。

 仮にオルンが倒していた魔獣たちが集団に追いついた際は、当然戦闘が起こって進行が止まることになる。

 引率者たちは運よく魔獣の接近が少ないと思っているが、実際にはオルンが背後の魔獣を誰にも気づかれることなく討伐していたのだった。

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