213.【sideテルシェ】女王の覚悟
◇ ◇ ◇
ヒティア公国の首都に本店を構える大陸有数の商会――ダウニング商会。
その建物のとある一室で、シオンは眠りについていた。
そんな彼女を従者であるテルシェが、珍しく眼鏡を掛けながら看病している。
『シオンの調子はどう?』
テルシェがベッドの脇で椅子に腰かけながらシオンの寝顔を眺めていると、頭の中に声が響いた。
彼女は精霊の瞳で作られた眼鏡越しに声の主であるティターニアを視界に捉える。
「いえ、相変わらず眠りについたままです。むしろ、貴女の方が詳しいのではありませんか? 妖精の女王は未来が視えているのですよね?」
ティターニアの問いにテルシェが首を横に振りながら答え、逆に質問を投げかける。
『確かにウチにはある程度の未来が視えている。でも、この子は超越者になったからね。ウチが識られる範疇には既にいない。……外に触れた直後に世界全域に干渉するほどの魔法を行使したんからね。相当な無理をしたはずだ。いつ目を覚ますかは、ウチにも全く予想できないよ』
今年の初め、《アムンツァース》は大規模な作戦を展開した。
それは、ティターニアからもたらされた情報を基に、大陸各地にある《シクラメン教団》の拠点を同時多発的に襲撃するというもの。
大陸の西側は教団の幹部が《導者》と《博士》しかいないことに加え、ノヒタント王国とサウベル帝国の戦争の方へ注力していたため、予定通りに事を運べた。
対して東側は、教団幹部の一人である《戦鬼》の妨害もあり、《アムンツァース》側にも少なくない被害が出てしまっている。
そんな作戦の中、シオンは単独で教団の中でも重要拠点と思われる
その戦いの過程で、シオンは術理の外に触れて、超越者となるに至る。
しかし、外に触れたことで膨大な情報の海に放り出されたことや世界全域に干渉したことにより、限界を迎えたシオンは意識を失ってしまった。
近くで別の作戦を実行していたテルシェが、すぐに自分の仕事を終わらせてシオンの元を訪れると、既に地面に倒れている彼女を見つけ、ヒティア公国へと運ぶこととなった。
それ以降、シオンは未だに目を覚ましていない。
「これも貴女の
鋭い目つきでティターニアを見据えながら、テルシェは問いかける。
『それは誤解だ。確かにシオンの異能は、
「そうですか。なら、良いです」
『……意外だね。君ならもっと怒るかと思っていたけど』
ティターニアはテルシェのことをあまり知らないが、それでもシオンを第一優先に動いている人物だと思っていたため、もっと食い下がってくるかと推測していた。
「これを選ばれたのがシオン様本人なら、私はその選択を尊重するまでです。この場合、逆にシオン様の選択に異議を申し立てる者は容赦しません」
『……そうか。ウチにも以前
普段のティターニアは表面的な感情を見せることはあるが、真意を見せることはほとんどない。
しかし、今のティターニアの発言には、本物の感情が乗っていた。
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