16.【side勇者パーティ:オリヴァー】新たな仲間
◇ ◇ ◇
「初めまして。フィリー・カーペンターです。まさか勇者パーティの一員になれるとは、思っていませんでした。加入させてもらえて大変光栄です」
オルンをパーティから追放してから二日が経った。
オルンの後任として、彼女が今日から俺たちの新しい付与術士としてパーティに加入することになる。
これでオルンのショボいバフじゃない、本物のバフを得られることになった。
つまり、あの全能感を常に味わうことができる。
フィリーは三カ月ほど前まで西の大迷宮で活動をしていた探索者だ。
しかし別の探索者によって西の大迷宮は攻略され魔獣が現れなくなった。
そのためより難易度が高いと言われている南の大迷宮があるこの街に来たらしい。
大迷宮は大陸に四つ存在するが、難易度は違う。
四つとも全て百階層で構成されているらしいが、西と東には深層が無い。そのため深層がある南と北の方が攻略の難易度が高いと言われている。
「西の大迷宮を攻略できなかったとはいえ、百層まで到達した付与術士はフィリーだけなんだろ? そんな付与術士がパーティに入ってくれるなんて、こちらこそ光栄だ」
「だな! これで俺たちは更に南の大迷宮の攻略を進めることができるな!」
「一日でも早く皆さんのお力になれるよう、精一杯頑張らせていただきます!」
今日が初顔合わせだったため、俺と
ルーナは実家の用事があるということで、一昨日の迷宮探索が終わってからまだ帰ってきていない。
――と思っていたらリビングの扉が開き、ルーナが入ってきた。
「ただいま戻りました。……お客様ですか? 貴方たちが応対とは珍しいですね」
これまで来客の応対はオルンがやっていた。
オルンがパーティを抜けたことを知らないルーナの反応は当然のものだろう。
客ではなく仲間だが、な。
「まぁ、それは良いです。お客様が居る手前で申し訳ありませんが、至急確認したいことがあるのですが、少しだけ良いでしょうか?」
「あぁ、大丈夫だ。このまま話してくれ」
「え、ですが……」
部外者が居るところで話したくない内容なのだろう。
だが、フィリーはパーティメンバーだから聞かれても問題ない。
タイミングを見てオルンが抜けたことを伝えないとな。
「問題ない」
「……そう、ですか。では、今朝オルンさんが《夜天の銀兎》のメンバーと一緒に大迷宮に潜ったという情報を耳にしたのですが、何故そんなことをしているんですか? 私は聞いていませんが」
オルンが《夜天の銀兎》と?
「身の程を弁えろって言ったのに、何でさっさと兎のところに行ってるのよ……!」
俺が思考の海を漂っていると、隣に座っていたアネリが呟いた。
どうやらかなりお怒りのようだ。
「はっ。全くだな。アイツは、まだ自分がSランクで通用すると思っているのかよ!」
デリックもバカにしたような口調で、アネリに同意する。
……この場でその発言はしてほしくなかった。
まだルーナにはオルンの件を話していない。
勿論事前に追放させたいことは伝えていたけど、彼女はオルンの追放に反対していた。
それを彼女がいない場で強行したのだ。
彼女からの非難は避けられない。
だからこそタイミングを見て話そうと思っていたのに……。
思った通りルーナが怪訝な表情をしている。これは話がこじれる前に言った方がいいか。
「ルーナは知らないと思うけど、あの器用び――、オルンは一昨日パーティを抜けたわよ」
俺が説明しようと思っていたのに、先にアネリに言われてしまった。
「は? オルンさんがパーティを抜けた? ついに私たちは見切りを付けられたってことですか?」
ルーナは戸惑いを隠せない表情で、声を震わせながらそう呟く。
「おい! なんで俺たちが捨てられたみたいな言い方をしやがるんだ? 逆だろうが! 常識的に考えて! 俺たちが! あの器用貧乏を! 追い出したんだ‼」
ルーナの発言が
その発言を聞いて表情を失くしたルーナが俺の方を向き、「それは事実ですか?」と、問いかけてくる。
背筋が凍ると思うほどの心底冷たい声音だった。
「あ、あぁ。事実だ。それで彼女が新しくパーティに加入する付与術士だ」
もうどうにもなれ!とやけくそになった俺はルーナにフィリーを紹介する。
「は、初めまして。フィリーと申します。よろしくお願いします!」
「……私は反対していたと思いますが、何故私が居ない間にこんなことになっているのですか?」
ルーナはフィリーの自己紹介を無視して俺に問いかけてくる。
「おい! 新しい仲間がよろしく言ってるのに、無視してんじゃねぇよ!」
デリックがルーナの態度を叱りつける。それに対しルーナはデリックを
「無視してんじゃねぇぞ! おい!」
その態度が気に食わなかったデリックが、ルーナに掴みかかろうと席を立とうとしたため、咄嗟に肩を押さえる。
「落ち着け、デリック! それはダメだ!」
俺が押さえたことでデリックは舌打ちをするも、席に留まった。
「ルーナも分かっているだろ? オルンの実力ではこの先通用しないと」
俺は諭すようにルーナに話しかける。
「…………わかりませんね。このパーティの中軸は間違いなくオルンさんです。オルンさんが居たからこそ、私たちはここまで来られたんです。それに実力に関しても申し分無かったはずです。オルンさんが居なければ、私たちはこれ以上先に進めません!」
どうにもルーナはオルンのことを過大評価している節がある。
ルーナがオルンに特別な感情を向けていたことは知っているが、ここは客観的に判断してほしい。
兎のセルマがあんなに凄い支援魔術を使っていたんだ。
付与術士がオルンのままでは、俺たちはいずれ兎に追い抜かされる可能性があるとわかったじゃないか。
「さっきからうるさいわね! アンタの色眼鏡じゃあの器用貧乏は優秀なのかもしれないけど、世間であいつは評価されていないの! それにもう済んだことよ? 今更喚いたって変わらないの! 嫌でも飲み込みなさいよ!」
ついにアネリが爆発した。
アネリはオルンに個人的な恨みがあったし、この結果に満足しているはずだ。
それをルーナが否定したのだから、アネリが怒るのも無理はない。
確かにオルンはお節介がすぎていたと、俺も思う。
「…………確かに、今更の話かもしれませんね……」
ルーナが覇気のない声でそう呟くと、部屋を出て行こうとする。
「ルーナ、これから取材がある。出て行かれるのは困る」
これから記者にフィリー加入の話をするのだ。
今まではオルンが受け答えをしていた。
それだけは役に立っていたあいつだけど今はもういない。
であれば俺が受け答えをすることになるが、俺も慣れていないためルーナにも同席してほしかった。
デリックとアネリはコミュニケーション能力に難があるしな……。
俺の言葉を聞いたルーナは冷えきった目をこちらに向けてきた。
「取材、ですか? どうせフィリーさんの話ですよね? であれば、何も聞かされていない私は、居ても居なくても変わらないじゃないですか。今は一人にさせてください」
そう告げるとルーナはリビングを後にした。
階段を上る足音が聞こえたため、どうやら自室に行ったようだ。
「なんなの! あの態度! 感じ悪っ!」
「全くだ! あいつのオルン大好きって感じの言動には嫌気がさすぜ!」
こいつらは最近、思ったことを口に出しすぎだ。もう少し周りに気を配るってことをしてほしい。
「あ、あの……、私、ルーナさん?と仲良くできるでしょうか?」
フィリーが今の俺たちの会話を聞いてルーナが気難しい人だと思ったようだ。
「それは大丈夫だと思うぞ。今は気が動転しているようだが、あいつは良いやつだからきっと仲良くなれるはずだ」
オルンが抜けたことによる混乱は少しあったが、ルーナも時間が経てば普段の調子を取り戻してくれるだろうし、そうすればこのパーティに不安要素は無くなる。
俺は、
大陸中に俺の名前を
「そうですか。それを聞けて安心しました。」
にっこりと笑うフィリー。この調子で早くパーティに溶け込んでくれるといいんだが。
「――彼女の力は厄介ね……。せっかく邪魔な――――ならば――」
「ん? フィリー何か言ったか?」
「いえ、早く彼女とも仲良くなりたいなと思っただけですよ」
「時間はいくらでもあるんだ。焦る必要はないさ」
「そうですね。時間は
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