49.86層探索② 第一部隊 VS. 地竜
距離を半分ほど詰めると、相手の姿が見えた。
「やはり、地竜か。セルマさん、どうする?」
セルマさんの推測通り相手は地竜だった。
今後の戦闘の方針についてセルマさんに問いかける。
地竜は四足歩行する翼の無いドラゴンのような見た目だ。
体が大きい割に素早い動きをする。
ただ、ウロコの強度は他のドラゴンに比べると柔らかいため、竜種の中では比較的弱い部類に入る。
まぁ、下層の終盤に生息している魔獣だから、他の魔獣に比べれば断然強いんだけども。
「敵は……一体か。オルンはあいつを捉えられるか?」
「問題無い」
地竜は確かに素早いが反応速度はそこまででもない。
それにアイツはレインさんの攻撃で手負いだ。
こちらが主導権を握れば問題なく対処できる。
「よし。では、オルンとウィルで討伐してくれ。第二案としてレインには術式構築をしていてもらう。時間が掛かりそうな場合は、レインの攻撃のアシストに切り替えてくれ。発動タイミングは私が計る。……【
セルマさんが指示を出した後、ウィルにバフを掛ける。
【
俺も自分に【
俺たちにバフが掛かったタイミングで、ダメージから多少回復した地竜もこちらに気づき魔力弾を撃ってきた。
「オレが正面から突っ込む! オルンは側面に回り込め!」
そう言いながらウィルは、魔力弾を再び双刃刀で消し去って地竜に向かって駆ける。
俺は遠回りをしているため、当然ウィルが先に地竜と接触する。
地竜がウィルに突進を仕掛ける。
「はいはい、ジッとして、な!」
ウィルはそれを受け止めるのではなく、双刃刀の片方の刃で
(上手い!)
思わず、心の中で称賛してしまった。
それほどまでに洗練された、見事な動きだった。
地竜との距離が残り数メートルの距離まで近づいたため、俺も攻撃の準備に移ろうとした。
――が、背後から殺気を感じた。
咄嗟に地面を蹴って上空へと移動すると、俺の真下を何かが通過した。
空中で振り返ると、背景に溶け込んだ
ハイドタートルは全長一メートルほどの亀で下層の全域に生息している。
名前に
ただし攻撃自体はあまり強烈ではないから、そこが唯一の救いかな。
攻撃力が低いとは言っても即死しないというだけで、当たり所が悪ければ直ぐに戦線に復帰できない程のケガは負うことになるけど。
他の魔獣と一緒に現れると厄介極まりない。
(気が付かなかった。相変わらず隠れるのが上手いな)
空中でハイドタートルに向かって【
三つ全て命中するが、硬い甲羅に当たり貫くことなく砕けてしまった。
でも、これでいい。
空中でいきなり砕けた【
ハイドタートルの対処を後衛に任せて、俺は【魔力収束】で足場を作る。
それを蹴り、魔力の拡散による衝撃という追い風を受けて、地竜に高速で突っ込む。
ウィルが、地竜のヘイトを稼いでくれているおかげで、死角にいる俺には全く気付いていない。
「【
自分にバフを掛けてから剣を両手に持つ。
剣の間合いに入ってから、レインさんの【
刀身が当たる直前に【
「一刀両断かよ……」
ウィルが驚きとも呆れとも取れる口調で呟く。
地竜は黒い霧と共に姿を消し、魔石のみがその場に残った。
それを確認してから、すぐに振り返ってハイドタートルを視界に捉える。
ハイドタートルの周りには白い煙が立ち上っていた。
その次の瞬間にハイドタートルは氷漬けにされる。
その後、複数の【
「お疲れ、オルン。地竜を両断するなんてやるな! あれが例の【
ウィルが近づきながら、褒めてくれる。
「ウィルが引き付けてくれたおかげで攻撃に集中できたからな。それにウィルだって凄かった。双刃刀は扱いが難しい武器で有名なのに、完全に使いこなせているなんて」
相手の攻撃を往なしながら、反撃も同時に行うディフェンダーか。
言うなれば、カウンター型と言ったところかな。
攻撃を受け止めるだけの一般的なディフェンダーよりも、往なした方が自身に受ける衝撃は減る。
これも俺には無かった発想だ。
「ま、かなり修練したからな。普通にやってたんじゃ、仲間を護ることができない。攻撃受け止めても体勢を崩してたら、意味がない。相手の攻撃を引き受けつつも、ずっと立っていられるスタイルを模索して、このスタイルに行き着いたんだ」
ウィルが遠い目をしながら話す。
もしその噂が本当であれば、ウィルはこの一年間必死に努力を続けてきたんだろう。
そうでなければ、今この場に立っていることは無いと思うから。
俺たちはしばらく雑談をしていたが、俺とウィルが同じタイミングで後ろに跳ぶ。
その結果、お互いの距離がかなり開く。
直後、俺たちの間を魔力弾が通過する。
そう、地竜はもう一体居たのだ。
俺から見て左側、距離にして約五十メートルと言ったところかな。
もう一体の地竜は地面に潜っていた。
俺が地竜を両断したタイミングでいきなり地面から顔を出して、こちらを見てきていた。
魔獣は基本的に人の多いところを狙う。
だから俺たちは敢えて隙を晒すことで、後衛の三人では無くこちらに攻撃を誘導した。
まぁ、
『オルン、ウィル、助かった』
脳内にセルマさんの声が響く。これがセルマさんの異能、【精神感応】だ。
さっきの打ち合わせ時に初めて受けたけど、距離がかなり離れていても声が鮮明に聞こえる。
思っていた通り、とんでもない異能だな。
『なんてことねぇよ。にしてもオルン、俺たち息ピッタリじゃないか?』
『まさか地中から
『はっはっは。残念だったな!』
『雑談は後だ。オルン
セルマさんから予想通りの質問が来た。
『当然。俺は元勇者パーティの付与術士だぞ? ほとんど術式構築も済んでる』
『流石だな。では、ウィルが正面、オルンが背後だ。魔術で仕留める。二人は数秒間の足止めをしてくれ』
『あいよ!』『わかった!』
セルマさんが術式構築をしているうちに、他の後衛二人が地竜に対して攻撃魔術を発動してダメージを与えながら牽制する。
『よし、できた! ウィル行くぞ!』
『いつでもいいぜ!』
ウィルがセルマさんの掛け声に反応して双刃刀を構えると、俺の視界の中心から消える。
そして、視界の端に映る地竜の目の前に移動していた。
それを確認した俺も、構築していた術式に魔力を流す。
「【
魔術が発動されると、視界の景色が変わり、地竜の後ろ姿が目の前にあった。
【
効果は対象を任意の場所に移動させること。
ただし、移動先に既に何かがあると発動しない。
だから、相手の体内に直接物体を移動させて攻撃するとかはできない。
【
支援魔術に階級は無いけど、もしあったら間違いなく特級の部類に入る。
術式構築速度に自信のある俺でも数秒掛かるくらい術式が複雑だ。
不意打ちができる強力な魔術だけど、かなり緻密な設定が必要となる。
そのため戦闘中のような、一瞬一瞬で状況が変わる場面での発動はまずできない。
俺とウィルで地竜を
二人で地竜を切り刻みながら、その場に釘付けにする。
【
それに、今回の目的は地竜の足止めのため、【
『攻撃魔術を発動する。カウント! 五、四、三――』
脳内にセルマさんの声が響く。
最後に後ろ足の関節部分を深く斬りつけてから、地竜と距離を取る。
カウントがゼロになると、まずはルクレの魔術が発動し、地竜の周辺の地面が沼へと変わる。
地竜は沼に足を取られ、更には盛り上がった
直後、上空から巨大な雷が轟音と共に地竜に降り注ぐ。
雷系統の特級魔術【
先ほどの簡易的に発動した【
それは沼を一瞬で蒸発させ、周辺がガラス化するほどのものだった。
満身創痍になりながらも、それでも地竜は倒れていない。
そこにルクレの追撃である【
「……もう魔獣は居ないな、お疲れ!」
ウィルが周囲を観察して魔獣が居ないことを確認すると、手を上げながら俺に近づいてくる。
「あぁ、ウィルもお疲れ」
その手をたたいてハイタッチをしながら、ウィルに労いの言葉をかける。
このパーティでの最初の戦闘にしては、かなり良い内容だったんじゃないか?
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