266.世界の王
(ギリギリ間に合った……!)
ベリアがシオンを殺そうと振るうった剣を受け止めながら、心の中で安堵の声を漏らす。
「っ! オルン!?
俺が介入してきたことにベリアが驚いている。
やはり俺がスティーグを斃したことを知っていたか。
だとすると、ベリアが驚くのも無理はない。
俺はつい二時間前まで、ノヒタント王国から遠く離れた無人島でスティーグと相まみえていたからな。
ついでにベリアは、俺が無人島で展開していた外への転移を阻害する結界とは反対の、
だけど、今の俺なら転移を使わなくても、超長距離を高速で移動する術を持っている。
……まぁ、相当に無理をする方法だから、現在進行形で全身が悲鳴を上げているが。
「転移阻害の結界だけで安心するなんて、俺も甘く見積もられたものだな!」
剣に力を込めて、受け止めていたベリアの剣を押し返す。
「ちっ!」
ベリアが顔を歪ませながら後ろに跳んで距離を取った。
それに追い打ちするように魔法を発動する。
「――【
貫通力を高めた魔力弾がベリアを捉える。
「ぐっ!?」
本来なら人体を容易に貫く威力の攻撃だが、【永劫不変】の異能を持つベリアを貫くことはできなかった。
だけど、それは承知の上だ。
ベリアが魔力弾と共に王城からどんどん離れていき、王都を囲う外壁に激突した。
正確には外壁を覆っている氷塊に、だが。
「遅くなってごめん」
ベリアを遠くに追いやって作った時間でシオンに謝罪しながら、ベリアの異能の力場を無力化する。
金縛りが解けたシオンが少しふらついたが、すぐに体勢を整えた。
「ううん、大丈夫だよ。オルンなら絶対に来てくれるって信じてたから」
シオンが屈託のない笑顔を俺に向けてくれた。
「私の方こそごめん。本当は私一人の力で何とかしたかったけど、オルンが好きに暴れられる環境を作るのがやっとだった」
俺とベリアが全力でぶつかれば、その余波で王都に大きな被害が出ていただろう。
だけど、シオンが王都全域を氷で閉ざしてくれたお陰で、周囲の被害を気にする必要が無くなった。
「いや、充分だ。シオンの気持ちも尊重したいところだけど、やっぱりベリアとは、俺自身の手で決着を付けたかったから」
「そっか。ご両親や里の仲間の敵討ちだもんね。私は少し疲れたからベリアの相手はオルンに任せるよ。今の私じゃ、足手纏いになっちゃうから先に離脱するね」
「わかった。ありがとう、シオン」
シオンとの会話を終えた俺は、超長距離の高速移動による身体へのダメージが【自己治癒】によって完全に癒えていることを確認してから、ベリアをぶっ飛ばした外壁の方へと向かう。
ベリアもこちらに向かってきていたようで、王城から少し進んだところで接敵した。
瞬く間に両者の距離が詰まる。
「――【
魔剣となったシュヴァルツハーゼをベリアに振るう。
剣が交差する音が轟く。
剣を切り結んだ衝撃で周囲の氷塊が砕けたり亀裂が入ったりしたが、氷塊には【時間遡行】が反映されていたため即座に元通りになった。
「俺に殺されるために自ら出てきてくれるとはな。《白魔》共々この場で殺してやる!」
鍔迫り合いの形になったところで、ベリアが目をぎらつかせながら口を開いた。
「……忘れたのか? 十年前、お前の左腕を斬り飛ばしたのが俺だってことを。今の俺はあの日よりも断然強くなっているんだ。今さら俺の相手になるわけがないだろうが! ――【
鍔迫り合いの状態から、魔剣を長剣から大剣に形を変える。
刀身の瞬間的に膨張したことによってベリアが体勢を僅かに崩した。
その隙に、縮地で背後に回り込んだ。
「なっ!?」
そのまま大剣型の魔剣となったシュヴァルツハーゼを振り下ろす。
十年前にベリアの左腕を切り飛ばした時と同じように剣を振った。が、刃がベリアの身体を通ることはなかったため、そのまま氷塊へと勢いよく叩きつけた。
(流石に【永劫不変】とはいえ、十年前から何も変わってないってことは無いか)
それに追撃するように、魔力を斬撃として放つ。
「天閃!」
「っ! 舐めるな!」
ベリアが声を上げながら異能を行使する。
先ほどシオンを金縛りのようにしていた要領で、天閃を空中に縫い留めるつもりなんだろう。
「
ベリアの発した静止の力場に反発する力場を展開することで対消滅させる。
それにより阻まれるものがなくなった天閃がベリアを捉えた。
爆発的に拡散した衝撃波がベリアを襲う。
その瞬間、ベリアの魔法である極大の雷が上空から俺を目掛けて落ちてきた。
――が、【魔力追跡】で魔法の予兆を捉えていたため、雷を難なく躱す。
天閃によって巻き上がった煙が消えると、無傷のベリアが忌々し気な表情で俺を見上げていた。
「……今のは、
おとぎ話の時代、邪神との戦いが終わり、術理の世界へと人々が移った後に待っていたのは、異能者と非異能者の対立だった。
それを鎮めるためにアウグストさんは異能者を受け入れる国を作った。
異能者を集めた国となれば強大な国力を持つことになる。
邪神を封印し、この世界を創った勇者とはいえ、本来なら非異能者たちは反対するはずだ。
そうならなかったのは、アウグストさんが異能を無力化する術を持っていたから。
【森羅万象】は『万般を識り、其れを編む能力』だ。
理解したモノを扱える力なら、
「さぁ、どうしてだろうな。一つ言えるのは、アウグストさんが紡いできた力は、確実に俺の中に在るってことだ」
先ほどの【
次はベリアを斬ることが出来る。
「……本当に鬱陶しいな!
「あぁ、邪魔をするに決まってるだろ。お前はシオンを殺そうとした。俺の弟子たちを、《夜天の銀兎》のみんなを、ツトライルの人々を殺そうとしている。魔獣を地上に解き放ち、今現在も世界中に不幸をばら撒いている。そんなヤツを、野放しにするはず無いだろうが!」
魔力の足場を蹴ってベリアへと接近する。
そのままベリアを斬りつけようとするも、ベリアの足元に涅くどろどろとした液体のような魔力が広がり始めた。
液体状だった涅い魔力が形状を変えて、ベリアの足元から無数の棘が飛び出す。
「――っ!?」
ギリギリのところで反応して躱そうとしたが、いくつかの棘が俺の身体を掠めた。
(この魔力。――まさか邪神の!?)
ベリアの扱うものとは全く違う異質な魔力に驚いていると、
「俺だって十年前のままでは無いということだ!」
ベリアが迫ってきていた。
先ほどの棘と同じ涅い魔力の纏った剣を振るってくる。
それを魔剣で受け止めながら、その勢いを利用してベリアとの距離を取る。
「《英雄》に西の大迷宮を攻略させた時に、邪神の魔力の一部を掻っ攫っていたのか。お前が邪神の封印を解こうとしている理由って……」
俺が考えていることを声に漏らしていると、ベリアが高揚した様子で言葉を重ねてきた。
「そうだ! 俺が〝世界の王〟になるために、邪神の力を喰らうのさ!」
「……それが、アウグストさんを裏切った理由か?」
「あぁ、そうだ! アイツは人類の敵である悪魔との共生を望んでいた。悪魔は生みの親である人間に敵対したんだ。恩義も持たないそんなクズどもは一匹残らず滅ぶべき存在なんだよ! だから、俺が王になって、悪魔を滅ぼすんだ!」
アウグストさんが共生を望んでいたのは、人間に協力的な魔力生命体である妖精だけだ。
人間に敵対している悪魔はその対象に入れていない。
勿論、悪魔が共生を望むなら歩み寄っていただろうが、その道が無いことは先ほどのスティーグとの問答からも明らかだ。
……あぁ、そうか。コイツには、妖精と悪魔の境界が無いのか。
ベリアはおとぎ話の時代から一貫して、ずっと魔力生命体の全てを憎んでいたということだろう。
おとぎ話の時代の邪神との戦いは熾烈を極めていたと、幽世でアウグストさんから聞いている。
当時を生きていたベリアが邪神や悪魔を憎むことも理解できる。
その感情を
「お前、自分で言っていて
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