問題児魔法

 リクを作成してからIGO時間で6時間。


 リクのレベルは3へと成長した。


『名前 リク

 種族 ニューマン

 性別 男

 属性 風

 クラス ノービス

 レベル 3

 HP  120

 MP  30

 STR 13

 VIT 6

 AGI 25

 RES 13

 スキル

 風魔法【2】

 →ウィンドカッター【3】

 →アクセル【1】

 片手剣【2】

 →スラッシュ【3】

 →ムーンスラッシュ【1】

 短剣【2】

 →パリィ

 →バックスタブ【1】

 ボーガン【1】

 →速射【1】 』


 流石は初期、レベルアップも早いな。


 レベル98から99に成長させるのは、IGO時間で3ヶ月。リアル時間で1ヶ月もかかったぞ。


 しかし、レベル3にしてAGI25って凄いな。違う意味でVIT6と言うのも恐ろしいが……。


 さてと、噂の問題児魔法も習得したか。


 属性魔法はスキルレベル2になると、今後の生命線とも言える強化魔法を習得する。


 攻撃力を大きく上昇させる――火属性のチャージアップ。


 耐久を大きく上昇させる――土属性のファランクス。


 耐性を大きく上昇させる――水属性のマジックシールド。


 無効化シールドを展開する――光属性の聖域。


 敵の能力を低減する領域を展開する――闇属性の混沌。


 そして、敏捷を大きく上昇させる――風属性のアクセル。


 何故、アクセルが問題児魔法と言われるかと言えば……制御不能だからだ。


 三半規管は大きく揺さぶられ、速すぎる自身の身体はコントロールが不能と言われていた。


 今まで徒歩、或いは原チャリに乗っていた者に突然F1カーを運転しろ! と言っている感じだろうか。


 この例えを皮切に、F1カーなら乗りこなせば最強じゃないか! と、風属性ブームの到来を予感させたが……制御出来る者はなく、仮にある程度制御出来ても、隣で攻撃力が無条件に上がっている火属性のプレイヤーを見て、心が折れる者が続出した。


 しかし、俺は思う。


 何故制御出来なかったのか?


 それは、この魔法を習得する時期が早すぎたからだ。


 この魔法を習得するのは、どれだけまったりしたプレイスタイルのプレイヤーであってもVRMMOを始めて1週間未満のプレイヤーだ。


 そのまま根気よく練習したとしても……風属性が故にパーティーを組むのもままならない。共に始めた仲間たちは皆、先へと進んでしまう。


 一ヶ月必死に育てた風属性の自キャラが、始めて一週間の火属性プレイヤーに火力で完敗。


 ハズレ属性――風!

 問題児魔法――アクセル!


 この二つ名はそれほどの時を要せず、多くのプレイヤーが認知することとなった。


 しかし、今の俺なら? リアル時間で5年間――IGOの世界で15年間トッププレイヤーとして走り続けた俺なら制御出来るのでは?


 いざ! 実演!


 ――《アクセル》!


 ――ッ!?


 周囲の景色がゆるやかに……否、俺の感覚が加速する。


 意識した一歩は三歩となり、大きく前に進む。


 イケる……! 違和感は残るが、制御は可能だ!


 俺はホーンラビットを視界に捉え、大きく前進。ホーンラビットは俺の接近に反応出来ず佇んでいる。


 俺は素早くホーンラビットの背後に回り込み、左手の短剣を振り上げる。


 ――《バックスタブ》!


 ――!


 って、おい! スキルの攻撃は加速しないのかよ!!


 加速化された意識の中で俺の左手はゆるやかに、ホーンラビットの首筋へと落ちてゆく。


「――ギャ!?」


 焦る気持ちの中、振り下ろされた短剣はゆるりとホーンラビットの首筋に突き刺さり、ホーンラビットはその場で息絶える。


 あぶね……。


 一撃で倒せたからよかったものの……スキルの攻撃は加速しないとか、まじで問題児魔法だな。


 俺は問題児と呼ばれる所以を改めて実感したのであった。

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