緊急クエスト(S2)四日目②

「肝心なことを忘れてた。ターゲットとなる中ボスはどうする?」


 タイムアタック開始! と思いきや、立ち去ろうとした【金狼】の団長が声を掛けてきた。


 現在残っている中ボスは3体。攻撃に特化した魔導人形ゴーレム――ジェノサイダー。防御に特化した魔導人形ゴーレム――アイアンゴーレム。魔法に特化した魔導人形ゴーレム――マジカルクラフト。


 中ボスの出現位置は、【赤壁】が防衛する左翼の正面にマジカルクラフト。【金狼】が防衛する右翼の正面にジェノサイダー。そして、【青龍騎士団】が防衛する中央の正面にアイアンゴーレムとなっている。


「下手に位置を変えるとプレイヤーの混乱を招く。防衛拠点の正面に出現している中ボスがターゲットでいいんじゃないか?」

「俺は構わないが……英雄様はそれでいいのか?」


 【金狼】の団長がニヤリと笑う。


 攻撃特化のジェノサイダーより防御特化のアイアンゴーレムの方が耐久度は高い。タイムアタックであれば、後者の方が圧倒的に不利となる。


「お二人に異論がないのであれば……俺も構わない」


 俺はもう一人の競争相手――【赤壁】の団長に視線を向け、答える。


「俺は構わないが……本当にいいのか?」


 【赤壁】の団長は不安そうに、俺……というよりアイリスに視線を向け、答える。


「リクさんがいいと言うのであれば、私から言えることは何もありません」


 アイリスは視線を向けられた俺が首肯すると、凛とした態度で答えた。


「それでは、10分後に」


 最後の確認が終わると【金狼】と【赤壁】の団長はそれぞれの担当する防衛拠点へときびすを返した。


「と言うわけで、タイムアタックになった」


 俺は遊撃隊のメンバーに軽い口調で告げる。


「おいおい! リクさん大丈夫なのか?」

「何とかなるだろ。負けても……と言いたいところだが、アイリスさんの面子を考えると、負けられないな」

「ハッハーッ! リクっち! 燃えるな!」

「うんうん! 燃えるね!」


 ローズが少し不安そうにするが、カナメとメイは楽しそうに笑顔を浮かべる。


「リク殿が負ける姿は1ミリも想像できませぬな!」

「うむ。我が相棒りくたんが負けるとは思えぬな!」

「ローズ、足を引っ張ったらダメですわよ」

「カナメも調子に乗ったらダメですよ」

「私も精一杯頑張りますね!」


 遊撃隊のメンバーたちに悲観した様子は見られない。良い兆候だ。


「にゃはは。リクにぃは策士にゃ」

「クロは……気付くよな」

「一見、ボクたちが不利な状況に見えるけど……」

「一番有利な状況は俺たちだな」

「わわっ! リクとクロちゃんが悪代官みたいな顔になってるよ」

「メイ、それを言うなら悪代官と越後屋ですよ」

「どちらにせよ、悪役かよ」


 俺はメイとヒナタのやり取りに苦笑するのであった。



  ◆



 10分後。


「リクさん、皆様、ご武運を」


 アイリスは俺たちに声をかける。


「心配するな。アイリスさんの目は確かだよ」

「そこは心配していません」

「ハハッ。出会って間もないのに……凄い信頼だな」

「……そうですね」


 アイリスの表情が曇る。


 あれ? 何か返答を間違えたか?


「アイリスさん、アイアンゴーレムまでの道を頼む!」

「はい! お任せください!」


 杞憂だったのか、アイリスはいつもの明るい表情で答える。


「よし……遊撃隊出るぞ!」

「「「おー!」」」


 遊撃隊の士気は上々。


「『風の英雄』たちが出陣します! 遠距離部隊は道を作って下さい!」


 アイリスの号令に呼応し、無数の矢と魔法の雨が降り注ぐ。


「ガラハ! お願いします!」

「任された! お前たち! 盾を打ち鳴らせ! 英雄たちの道を作るのだ!」


 ガラハの指示でチームベータに所属するタンクのプレイヤーが盾を打ち鳴らし、最前線の魔導人形たちを引き寄せる。


 これこそが、俺たちが一番有利な点だった。


 指揮官の指令に応じて、遠距離部隊とタンクのプレイヤーが作る、中ボスへと繋がる道。


 外から見れば簡単に見えるかもしれないが、確かな指揮能力がないと実現しない芸当だ。


 今までフリー枠に甘んじていた【金狼】、【青龍騎士団】の指揮下に甘んじていた【赤壁】では、ここまで見事に道を作るのは無理だろう。


 あいつらは、俺たち遊撃隊のみと競争しているつもりだろうが、それは違う。


 今は緊急クエストだ。


 正確には、【青龍騎士団】vs【金狼】vs【赤壁】なのだ。


 全プレイヤーが強制参加させられる時点で、12人の力など些細なモノだ。


 同時に戦闘を始めて、タイムアタックスタートではない。敵に向かう過程も勝負なのだ。


 それを見誤る時点で、奴らに勝ち目などなかった。


「行くぞ!」


 俺たちはアイリスたちの作ってくれた道を辿り、アイアンゴーレムへと疾走した。

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