緊急クエスト三日目③
「やっと終わったか」
「お疲れー!」
「皆さん、お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
「お疲れにゃ!」
ゴブリンを殲滅させ一息つく俺の元へ、仲間たちが集まってくる。
「明日の襲撃まではおよそ6時間か。明日に備えて休むとしよう……と、言いたいところだが……」
「多分、無理にゃ」
俺とクロの目線の先では、【百花繚乱】の連中とガンツを中心としたプロ初心者集団が激しい言い争いを繰り広げてたいた。
「この緊急クエストを達成……いや、我々の町を守りたいのなら、俺の指揮下に入るべきだ!」
「は? ざけんな! 何で防衛を失敗したてめーらの指揮下に入らなきゃならねーんだよ!」
「そもそも最初からアンフェアだった! 人数は貴様らの方が多かった! 我々は少数で頑張っていたんだ!」
「は? 少数だと? 俺たちと同じく2万人近くいたろうが!」
「我々【百花繚乱】は初心者救済と言う崇高な目的を掲げていたので、低レベルのプレイヤーが多かったのだ! 貴様らと一緒にするな!」
「ざけんな! てめーらが無理やり低レベルのプレイヤーをこの階層まで押し上げたのが悪いんだろうが!」
「そもそも貴様に指揮を取れる器量はあるのか!」
「てめーよりあるわ!」
「俺は伝説の旅団【天下布武】の団長――『炎帝のソラ』だぞ! 口を慎め!」
「【天下布武】? 『炎帝のソラ』? 上等じゃねーか! 無能な野郎に無能って言って何が悪いんだよ!」
二人の口喧嘩は激しさを増す一方だ。
「リクにぃ、どうするにゃ?」
「どうする? って、俺に聞くなよ」
「この場を収められるのはリクにぃのみ……違うかにゃ?」
「ハッ! 今の俺に収めるのは無理だ!」
「本当にそうかにゃ?」
「本当ににそうだ。とは言え、収めれなくとも……解決策くらいは提示してくるか」
俺は乗り気ではないが、激しい言い争いを繰り広げるガンツとタックの元に向かった。
「お! 風の兄ちゃん! いい所に来たな! おめーさんからもこのアホにガツンと言ってやってくれ!」
「む? 誰だ、貴様は?」
俺の姿を確認すると、ガンツは嬉しそうに笑みを浮かべ、タックは憎しみの眼差しを向ける。
「ガンツ、こんなのと言い争っていても時間の無駄だ。明日に備えて休むぞ」
「お、おう! でもよ……こいつが――」
「ガンツ、俺たちは明日も俺たちのやり方で防衛をする。それともこいつらの力を借りないと守りきれる自信がないのか?」
「そんなことはねーよ!」
「だったら、無駄に体力を消耗するな。休むぞ」
「お、おう!」
今更、仲良く防衛戦をするのは無理だろう。
幸いなことに、一緒に防衛していたプレイヤーの中で【百花繚乱】に迎合する者は皆無だろう。
ならば、俺たちの出来る最適解は……今までと同じ体制で防衛するだけだ。
「よし! 聞いたな! お前ら! 明日に備えて休むぞ!」
ガンツが大声を出すと、三日間共に防衛拠点を守っていたプレイヤーたちは、安堵の表情を浮かべる。
俺もガンツと共にこの場から立ち去ろうとすると……
「待て! まだこちらの話は終わってないない!」
タックが大声で喚き散らす。
「終わったよ。俺たちはあんたの指揮下には入らない。あんたらも好きにすればいい」
「な!? 貴様! 緊急クエストの重要性を分かっているのか!」
「あんたよりは分かっているつもりだ」
「な!? ふ、ふ、フザケルナ! 俺は【百花繚乱】のタック――【天下布武】の『炎帝のソラ』だぞ!」
タックは青筋を立てて喚き散らす。
「そうだ。一つだけ良いことを教えてやるよ」
「何だ!」
「【天下布武】のソラは一度も自分のことを『炎帝のソラ』と言ったことはない。更に言えば、その中二病全開の二つ名すら本人は知らないだろうな」
「――な!? き、き、貴様に俺の何がわかる!」
「多分、お前よりは知ってるよ」
「何をだ! 何を知っていると言うのだ!!」
タックの耳障りな怒声を背中で浴びながら、俺は仲間の元へと戻るのであった。
◆
緊急クエスト四日目。
俺たちは今まで通り――【百花繚乱】とは連携することなく、防衛をすることになった。
「今回は敵の数が多い。殲滅させるにも多大な時間が必要となるだろう。最初の3時間は全員で防衛、3時間後に俺と共に半数のプレイヤーが3時間の休憩。その後、ガンツたちとスイッチをして3時間戦闘。そこからは全員が一丸となって防衛するが、状況に応じて、ローテーションを組み入れる。と、作戦はこんな感じでよろしかったでしょうか? リーダ?」
俺は作戦内容を一息で告げ、最後にガンツへと責任を押し付ける。
「おうよ! いい作戦じゃねーか!」
ガンツは親分肌と言うのだろうか? 俺の言葉を素直に受け止める。
「ガンツ、あいつらどうするんだ?」
ガンツの仲間の一人が【百花繚乱】へと視線を移して問いかける。
「奴らは気にするな。俺たちは俺たちのやり方でこの緊急クエストを成功させる! そうだろ! おめーら!」
「「「おー!」」」
ガンツの言葉に周囲のプレイヤーたちのボルテージが高まる。
第五一階層よりも上に行けば、PKが可能になる。そうなれば、話は別だが……今回は連携が取れないだけだ。目的は一応同じだから、弾除けや多少の役には立つだろう。
戦力としては計算に入れない。
【百花繚乱】対策として、俺たちが出来るのはその程度であった。
防衛拠点を中心に、俺たちは左側に布陣し、【百花繚乱】は右側に布陣した。
注意すべきは【百花繚乱】の動向だ。
三日目で防衛拠点を破壊される程度の戦力だ。昨日よりも激しい今日では防衛ラインが崩される可能性は非常に高い。
その時、いかにしてスムーズにカバー出来るのかがポイントになる。
ふぅ……懐かしいな。昔もこうやって向こう見ずな旅団をカバーしてたな。
今回は優秀な指揮官であるマイも、最強のアタッカーであるツルギもいない。
そして、何より俺自身が……対多数に優れた大剣プレイヤーから、対多数を苦手としている短剣プレイヤーになっている。
「不安要素はてんこ盛りだな」
俺は思わず独り言を漏らしてしまう。
「それでもやるしかないにゃ」
「うんうん! やってやろうじゃないの!」
「私も頑張ります!」
「リク殿の盾となりますぞ!」
「ハハッ……期待してるよ」
仲間たちの励ましに思わず笑い声が溢れる。
「さてと、団体さんの到着だ! 気合入れて頑張りますか!」
「「「おー!」」」
視界に映ったゴブリンの大群を迎撃すべく、武器を構えるのであった。
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