緊急クエスト四日目①

 視界の先は巻き上がる土煙と、緑色の化け物――ゴブリンで覆い尽くされる。


「何匹いるんだ……」

「こちらの参加人数が5万人と仮定とすると……今日襲撃するゴブリンの総数は1,000万匹にゃ」

「それで、実際の参加人数は?」

「元々こちら側にいたプレイヤーの数はおよそ1万7千人にゃ。【百花繚乱】の方は……2万人と聞いていたけど……見た感じは1万人くらいなのかにゃ?」

「ってことは、一人当たり倒す数は……400匹じゃなく……アタッカーが倒す数は800匹くらいか?」


 ヒーラーとタンクの役割は敵を倒すことではない。


「低レベルや職人のプレイヤーのことも考えれば、リクにぃのノルマは2,000匹くらいかにゃ?」

「本日の殲滅までの想定時間を15時間として、休息する時間も加味すれば……1時間で200匹倒せば釣りがくるのか」

「1分で4匹なら余裕だね!」

「ハッ! メイは相変わらず頼もしいな! それなら俺たちはそれぞれ3,000匹倒すか!」

「10秒に1匹かな? イイね!」


 俺とメイは互いに笑みを浮かべる。


「来ましたぞ!」


 ヒロアキが盾を打ち鳴らすと、無数のゴブリンがヒロアキ目掛けて飛び掛かる。


「ふふん♪ させないよ! ――《冬乱》!」


 メイは分銅を振り回し、飛び掛かるゴブリンを一掃。


 ――《アクセル》!


 俺は自身を加速させ、まだ息のあるゴブリンにトドメの一撃を与えていく。


 範囲攻撃欲しいなぁ……。


 ――《パリィ》!


 俺はヒロアキへと飛び掛かるゴブリンの斧を短剣で弾き、


 ――《ファング》!


 がら空きとなった首に致命の一撃を与える。


 俺はないものねだりの欲求に駆られながらも、底が見えないゴブリンたちを次々と地に沈めていった。


 ひたすらゴブリンの攻撃に耐えるヒロアキを中心に、メイは分銅を振り回し縦横無尽に暴れ、クロは自身よりも大きな斧を振り回してゴブリンを薙ぎ払い、ヒナタはダメージを負ったヒロアキを絶えず癒やしていた。


 守るだけなら、問題はなさそうだな。


 俺は殲滅スピードを落として、未知数の戦力――【百花繚乱】へと意識を分散させる。


 【百花繚乱】はタックとお揃いの赤マントを羽織った集団が中心となって攻防を繰り広げていた。


 火力はまぁまぁか……?


 赤マントを羽織っているプレイヤーたちは迫りくるゴブリンをワンキルで仕留めている。


 高い火力の要因は――武器の質と属性だろう。


 赤マントの集団にはタックを始めとして火属性のプレイヤーが多いようだ。風属性であるゴブリンに対して有利となる火属性のプレイヤーたちの火力はなかなかのものだった。


 しかし、全体を見渡せば……赤マントを羽織ったプレイヤーは全体の10%も満たしていない。他の青とか黄色とかのマントを羽織ったプレイヤーも必死には戦っているのだろうが、動きは杜撰であった。


 と言うか、【百花繚乱】は全体的にプレイヤースキルが低いな。


 戦い慣れていない……? と言うか、まるで始めたばかりの初心者のような動きをするプレイヤーが多い。


 常に集団で自分たちよりも格下のモンスターをシステマチックに狩っていた弊害なのか?


 攻撃こそは出来ているが、防御面は酷かった。四方八方から襲撃してくるゴブリンに対して、ほぼいいように攻撃されているプレイヤーが多い。ヒーラーは辛うじて機能していたが、タンクがほぼ機能していなかった。


 拙いプレイヤースキルを、レベルと装備品の性能で補っている感じなのか?


 更に、『指揮下に入れ!』と戯言をほざいていたタックも前線で大剣を振るうだけで、指揮らしい指揮は何も執っていない。


 『今だ!』とか『やったぞ!』とか叫んでいるだけだ。


 アレを……多くのプレイヤーがソラと信じ込んでいるのか……。


 まだ、ガンツの方が100倍マシだぞ……。


 俺は軽く凹みながらも、一つの疑問にぶち当たる。


 プレイヤースキルは拙く、指揮官は無能……とは言え、装備品とレベルだけならこの階層では最高レベルだ。


 何故、三日目の襲撃で防衛拠点を落とされたんだ?


 少なくともワンキルでゴブリンを倒せる集団が1,000人以上いるなら、防衛するだけなら容易いだろ?


 全体の指揮を執って、全ての防衛拠点を守ろうとしていたのならともかく……一つの防衛拠点を守るだけなら適当な指示系統でも問題はないはずだ。


 手を抜いた? わざと破壊させた?


 何のために??


 【百花繚乱】の戦力を分析した俺は更なる疑問にぶち当たる。


 俺はモヤモヤした気持ちを抱きながらも、絶え間なく襲撃してくるゴブリンを迎撃するのであった。



  ◆



 ゴブリン襲撃開始から3時間。


 一回目のローテーションを迎え、俺は割り当てられたプレイヤーと共に休憩に入る。


 休憩中は【百花繚乱】の動向を注視。


 三日目に防衛拠点が破壊された要因を探った。


 個々のプレイヤースキルは低い。連携力も同じ旅団に所属しているとは思えない程に低い。


 しかし、ここは第十一階層。


 低階層と揶揄され、緊急クエストもチュートリアル的な難易度だ。


 何故、昨日程度の襲撃で防衛拠点が破壊された?


 分析をする限り、個々の質で言えば……プレイヤースキルはプロ初心者集団の方が上だが、装備品の質とレベルは【百花繚乱】の方が上で、全体的な戦力で言えば……元々こちら側にいたプレイヤーの集団よりも【百花繚乱】が上回っているようにも感じる。


 ――!


 休憩時間が1時間ほど経過した頃、俺は【百花繚乱】が防衛を失敗した理由を知るのであった。

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