パーティーを組んだ理由
正式にパーティーを組むことになったヒナタとメイと共に、はじまりの町にある寂れた喫茶店へと戻った。
「これで正式にパーティーを組むことになったのだが、一ついいか?」
「何ですか?」
「なに?」
俺はふと疑問に思ったことを聞くことにした。
「メイの実力はわかった。ヒナタもパーティープレイでは貴重なヒーラーだ」
「はい」
「それがどうしたの?」
「二人なら冒険者ギルドでパーティー募集をすればパーティーメンバーを集めることが出来ただろ? 何でわざわざ俺を指定したんだ?」
風属性の俺であれば、野良でパーティーを組むことは難しいかもしれない。しかし、二人は水属性と闇属性だ。
当初はまだ見ぬ妹――メイがよほどの地雷プレイヤーなのかと思っていた。しかし、実際は口は悪いが許容出来る範囲だったし、PSに関してはこのレベル帯では一級品だ。
「え、えっと……それは……」
「ヒナ、いいよ。うちから言うよ」
俺の質問にヒナタは口籠り、メイの声音には怒りが帯びる。
ん? 何か地雷を踏んだか?
「いや、別に言いたくないなら……」
「大丈夫よ! 大した理由じゃないから! 簡単に説明すると、直結厨に遭遇したからよ! しかも! 3回も連続で!!」
メイはその時のことを思い出したのか、激しい怒りを露わにする。
直結厨。それは、ゲームの世界に異性との出会いを求める下心満載のプレイヤーの蔑称だ。
「3回連続とは凄いな」
「そうよ! うちとヒナがパーティー募集をした回数が3回! その全てに引っかかったのが直結厨よ! どうなってるの! IGOには直結厨しかいないの!」
メイの怒りは爆発している。
「年齢を聞いてるくるわ、住所を聞いてるくるわ……仕舞いには口にも出したくない下劣な話を振ってくるわ……あぁ……思い出しただけでも腹が立つ!」
「それは大変だったな」
「大変なんてものじゃないわよ! うちはいいよ……そういう輩を見るのも初めてじゃないから! でもね、ヒナはこれが初めてのオンラインゲームなの! 初めてのオンラインゲームでいきなり直結厨3連チャンよ! お陰でヒナは男性不信になるし……もうパーティーは組みたくないって言うし……あぁ……ムカつくー!」
メイは早口で怒りの感情を言葉に乗せて捲し立てる。
「最後に会った奴なんて本当に最低よ! うちが【天下布武】好きって言うと、自分は【天下布武】の幹部メンバーで、これはセカンドキャラだ、何てあり得ない嘘を付くのよ! あぁ……まじムカつくー!」
メイの最後の愚痴に俺は心臓が跳ね上がる思いをした。まじかよ……後で一応事実確認はするが、リクはセカンドで、メインは【天下布武】の旅団長のソラだ……とは、言い出しづらいな。
IGOを愛するプレイヤーの一人として弁明するなら……直結厨はそこまで多くはない。少なくとも第五〇階層以上に行けば皆無だった。
直結厨は捨てアカウントが多く、騙しやすい初心者を狙って第一階層に多い。と言う話は聞いたことはあった。
「なるほど。嫌なことを思い出させてすまなかった。しかし、良かったのか?」
「何がですか?」
「俺も男だぞ?」
「そう! それよ! うちも驚いよ! ヒナが紹介したいって言うプレイヤーがリク――男だったからビックリしたよ!」
メイが最初に俺と会った時に敵対心が高かった理由はそれか。
「はい。リクさんは私をイヤらしい目で見ませんでしたし、イヤらしい言葉もかけませんでしたぁ。それに……メイはパーティーを組んで一日でも早く上の階層に――【天下布武】の方々と会いたがっていたのは知っていたので……」
「お姉ちゃん……」
妹を想うヒナタの言葉にメイは目を潤ませる。
「不躾な質問、本当にすまなかった。さて、俺たちは今日からパーティーメンバーだ。改めて、よろしくな」
俺は湿っぽい空気を断ち切る為、二人に改めて挨拶をする。
「はい! よろしくお願いします!」
「うん! よろしくね!」
二人はよく似た笑顔を浮かべ、俺の言葉に応えるのであった。
◇
4月23日 PM4:00。
リクを作成してから6日目の夕方。
俺は、リクを作成した日に偶然出会った姉妹のプレイヤーと毎日IGOの世界を楽しんでいた。
リクのレベルは9へと成長。到達階層も第五階層と、順調な成長を見せていた。
IGOはレベルが10になると基本職へのクラスアップが可能となり、下一桁の数が"〇"と"五"が付く階層には階層主と呼ばれるボスが用意されており、下一桁の数が"一"と"六"が付く階層にはタウンと呼ばれる新たな町が用意されていた。
第五階層の階層主はミノタウロス。身の丈3メートルを超える半牛半人のモンスターだ。
IGOの最初の難関と呼ばれ、クラスがノービスのままでクリアすることはほぼ不可能。同様に、ソロで立ち向かうのも危険な相手と、IGOの初心者にクラスと役割の大切さを教える存在だった。
つまり、今日はリクの初めてのクラスアップ。そして、明日には初めての階層主との戦いとイベントが目白押しであったが――
俺は一つの重大な悩みを抱えていたのであった。
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