メイの実力
「試験の相手はホーンラビットでいい?」
「構わない」
メイは獰猛な笑みを浮かべると舌舐めずりをして、試験の相手となるホーンラビットへと視線を送る。
「あの集団でいい? それとも、うちも4匹同時の方がいいかな?」
メイの視線の先には3匹のホーンラビットが草原を飛び跳ねていた。
「別にあっちの単体でもいいぞ?」
俺はメイの視線とは違う先にいる1匹のホーンラビットへと視線を向ける。
「ふんっ! 馬鹿にしないでよね!」
メイは悪態をつくと、3匹のホーンラビットと向き合い武器を構える。
「鎖鎌? また、変わった武器を使うな」
鎖鎌は扱いが難しく、vP(対人戦)には向くが、vE(対モンスター)――特にボスに多い大型のモンスターには不向きなので、人気のない武器だった。
「うちの実力見せてあげる! ――《ダークショット》!」
メイは闇の弾丸をホーンラビットへと放出。闇の弾丸は額に受けたホーンラビットを先頭に3匹のホーンラビットがメイへと突進してきた。
「ふふっ」
メイは獰猛な笑みを浮かべると先頭のホーンラビットへと分銅を投擲。遠心力の加わった分銅は見事にホーンラビットの頭蓋を砕く。
おぉ、相変わらずの威力だな……その後の隙も大きいが。
分銅の一撃は大きいが、その後の隙も大きい。
残ったホーンラビットはその隙に大きく間合いを詰める。
「よっと!」
メイは後ろへと転がりながら、伸びた分銅を引き寄せ、今度は鎖の部分を短く持って分銅を振り回し、近づくホーンラビットを牽制する。
「――《混沌》!」
メイは自分の周囲に敵の能力を低減させるフィールドを展開。フィールドに足を踏み入れたホーンラビットの動きが鈍化する。
「――《春切(しゅんせつ)》!」
メイは素早くホーンラビットの懐に潜り込むと、鎌でホーンラビットの首を斬り裂いた。
動きは多少ぎこちないが……本当に初心者であるなら大したプレイヤースキルだ。
「ヒナタさん?」
「はい?」
「妹さん――メイは本当に初心者なのですか?」
「はい! メイは私と一緒にこのゲームを始めたので、今日で三日目なのですよ」
ヒナタ――初心者の言う三日とは、IGOにどっぷり浸かった俺の言うIGO時間の三日とは違い、リアルでの三日を指すのだろう。
「三日目でこのPS(プレイヤースキル)か。大したプレイヤーだな」
「えへへ。でも、あの子はゲームが大好きなので他のゲームの経験は豊富なのですよ」
「へぇ」
「他のゲームだと、らんかー? とか言うのになってるって言ってましたよぉ」
なるほど。動きが多少ぎこちないのは、他のゲームの経験があるからなのか。
IGOのレスポンスは数多く存在するVRMMOの中でも群を抜いている。もっともリアルとリンクしているVRMMOとも言われているくらいだ。
身体に感じるレスポンスの差はゲーマーであるほど、プレイに大きく支障を与える。
「何と言うゲームですか?」
「えっとぉ……何だったかな? なんとかオンラインってゲームです」
ヒナタの返事を聞いて、俺は苦笑する。
なんとかオンラインって……ほぼ全てのVRMMOのタイトルはなんとかオンラインだった。
「あ、あのぉ……」
「はい?」
「よかったら私の事も……」
「終わったー!」
「ヒナタ、もしくはメイのようにヒナと呼んでくれませんかぁ? ヒナタさんって言うのはちょっとくすぐったいと言うか……」
何かメイの声が聞こえた気もするがヒナタは構わず会話を続ける。
「わかった。俺のことも――」
「終わったー!! って! ちょっと! ヒナ! リク! 聞いてる? 見てた? うちの勇姿見てたの!」
俺もヒナタに習い会話を続けようとしたが、頬を膨らませて怒るメイの大声に阻止された。
「見てた、見てた」
「うんうん。見てたよ」
「本当にー?」
「本当だ」
「本当だよ」
疑惑の眼差しを向けるメイに俺とヒナタは何度も首を縦に振る。
「で、どうだった?」
「ん?」
「だ・か・ら! うちの試験はー!」
「あぁ……合格でいいんじゃないか?」
「いいんじゃないか? って、試験官はあんたでしょ!」
先程無視されたのがよほど腹に据えかねているのか、メイの怒りは治まらない。
「合格! これでいいか?」
「って、本当に見てたの?」
「見てたさ。実際にメイのPSは大したものだと思うぞ」
「そう?」
メイは嬉しそうに照れ笑いを浮かべる。
「三日目であの動きはそうそう出来ない」
「えへへ……って、リクは今日が初日だよね?」
「ん? そうだな」
「むぅ……初日であれだけの強さを見せつけるリクに言われても何か釈然としないけど……」
「そこは気にするな」
「うんうん! リクさんもメイも強い! これでいいよ!」
複雑な表情を浮かべるメイに俺は軽い言葉を掛け、ヒナタが強引に話をまとめたのであった。
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