スカウト

「一緒にカニ狩りをしないか?」


 露骨なスカウトをするのは初めてだ。言葉に悩んだ俺はシンプルに要件を伝えることにした。


「む? 貴殿は?」

「初めまして、俺の名前はリク。こちらはパーティーメンバーの――」

「メイだよ! よろしくね!」

「ヒナタです。よろしくお願いします」


 俺が名乗ると、メイとヒナタも続けて名乗りを上げる。


「私の名前はヒロアキと申します。失礼ですが、貴殿たちは先程リーダーと口論していた方ですね?」

「口論? 提案された内容を辞退しただけだな」

「申し出はありがたいですが、同情からのお誘いなら辞退させて頂きます」


 追放された男――ヒロアキは丁寧な言葉で、こちらの提案を辞退する。


「違う、違う。同情とかじゃなくて、こちらのパーティー構成が……」


 ――!


 ここで俺が正直に風属性と告げてもいいのだろうか?


 風属性はハズレ属性。それは、この世界の常識だ。


 そもそも、タンクのスカウトにここまで苦労している理由が――俺が風属性であるからだ。


 しかし、隠していてもいずれ真実は露呈する。


 一時限りの野良パーティーならまだしも、俺たちが探しているのは……固定パーティーを組むことが出来るタンクの仲間だ。


 ならば、どちらに転ぶにせよ早めに告げた方がいいだろう。


「む? 話は終わりですか?」

「すまない。貴方を――ヒロアキさんをお誘いするのは、同情からではない」

「――! まさか、貴殿も……!」

「俺たちのパーティー構成は、水属性の僧侶――ヒナタ。闇属性の盗賊――メイ。そして、俺自身は風属性の盗賊だ。役割としては、俺とメイがアタッカーを務めている」

「むむ……」

「俺たちのパーティーに欠けている存在はタンクだ。ヒロアキさんは、その欠けたピースを埋めることが出来る。故に、お声がけをした」

「私が貴殿――リク氏の欠けたピースを埋める存在であると?」


 俺はヒロアキの言葉に首を縦に振る。


「まぁ、互いの相性もある。まずは、お試しで少しカニ狩りをしないか?」


 性格やプレイスタイル……固定メンバーを組むには様々な相性が重要となる。


 例えば、俺と相性が良くてもメイやヒナタと相性が悪ければ……固定パーティーにはなり得ない。


 固定パーティーの仲間とは、互いに信頼し……そして何より共にいて楽しめるのかが、重要だ。


「互いの相性は重要ですな! リク殿の申し出、お受け致します!」


 交渉成立……?


 何故か、前のめりに承諾してくれたヒロアキと固く握手を交わした。


「よろしく頼む」

「よろしくね!」

「よろしくお願いします!」

「よろしくお頼み申す!」


 こうして、俺たちはお試しではあるが待望のタンクを仲間に迎えることに成功した。


「そうと決まれば……リーダーの素質は悪くなかったが……『百花繚乱』は退団致しましょうか」


 ヒロアキは挨拶を終えると、コンソールを操作して旅団の退団処理をしようとする。


「ちょ!? いいのか!?」


 あまりに、即断即決の行動に俺は慌ててヒロアキを制止する。


「私は二心を抱くほど浮気者ではありませぬ。それに、先程追放と言われましたからね」

「まぁ、ヒロアキさんがいいのであれば……止めはしないが……互いをよく知ってからの方が良くないか?」


 これで、ヒロアキが実はド級の地雷プレイヤーで……こちらからお断りした時に、逆恨みでもされたら最悪だ。


「大丈夫、私の直感がリク殿との相性は完璧であると告げています」


 ヒロアキは自信に満ち溢れた表情で答える。


「いや、俺だけじゃなくてパーティーを組む以上は、メイとヒナタとの相性も大切だ」

「ご安心下さい。リク殿が望むのであれば、良好な関係を築きますよ」

「ん? いや、俺が望むとかじゃなく……ヒロアキさん自身が無理なく俺たちを信頼し、俺たちもまたヒロアキさんを信頼出来るのかが、重要だ」

「ご安心召されよ!」


 ヒロアキは本当にわかっているのだろうか? ヒロアキは自信に満ち溢れた表情を崩さない。


「まぁいい……退団処理はいつでも出来る。まずは、カニ狩りを通じて互いを知るとしようか」

「リク殿が望むのであれば!」


 ヒロアキの俺への信頼度高すぎじゃね?


 追放された絶望の状態の中、声を掛けた俺が希望の光にでも見えたのだろうか?


 多少の不安を感じながらも、カニ狩りを始めることにした。


「リク殿、私は騎士です。敵の攻撃を引き受けることしか出来ませぬが、よろしいでしょうか?」


 ヒロアキは追放理由となった自身の動きに不安を感じているのだろうか。


「問題ない。俺はタンクとしてのヒロアキさんに声を掛けた」

「申し訳ない」

「問題ないさ。余裕があれば、盾スキルの《シールドバッシュ》をカニに使ってくれ」

「承知しました」


 ヒロアキは笑顔で首肯する。


「メイ、ヒナタ」

「なに?」

「はい」

「今からの狩りはタンクのヒロアキさんが加わる。それにより、狩りのやり方が変化する」

「どうなるの?」

「何をすればいいのでしょうか?」

「ヒロアキさんが《タウント》――盾を叩いたら敵のヘイトは全てヒロアキさんに集中する。そこで、問題だ」

「なになに?」

「はい!」


 俺はタンクの動きを二人に問題形式で説明することにした。


「カニ狩りにおいてタンクが加わるメリットは何でしょうか?」


 バカ男はタンクの役割を否定し、ヒロアキを追放した。


 ならば、俺はタンクの役割を最大限に活用し、ヒロアキを加えることによって狩りの効率を更に高める動きをレクチャーするのであった。

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