追放されし者

「げっ……あのバカ追って来たの?」

「どうします? また、移動しますか?」


 バカ男の声に、メイとヒナタが嫌悪感を露わにする。


「いや、少し待て……」


 しかし、大声した方へと視線を移すと……どうやら、俺たちを追ってきた訳ではなさそうだ。


「今度は内輪揉め?」

「迷惑な人たちですね」

「少し様子を見ようか」


 様子を見るに、先程のバカ男が仲間と思われる男を恫喝していた。


「リクって意外に野次馬根性あるタイプ?」

「いや、恫喝されてる相手を見てみろ」


 恫喝されている男は――全身に鉄製の鎧を纏っており、明らかにタンクと思われる出で立ちだった。


「ひょっとして、あのタンクを引き抜く気?」

「いや、引き抜き行為は、後々面倒を引き起こす」

「それなら、静観ですか?」

「まぁ、そうなるな」

「やっぱり、野次馬じゃん」


 メイがため息を吐く。


「違う。あの恫喝されているプレイヤーが少し気になってな」

「金髪碧眼……スタイルも悪くなしい……ザ! 騎士って感じのプレイヤーだね!」

「――!? ま、まさか……リクさんには……そっちのが……ハッ!? いけません! リクさん、その先は禁断の扉が……ッ!」


 ヒナタは突然自分を抱え込み、身悶える。


「メイ、お前の姉ちゃん大丈夫か?」

「うん。たまに起きる発作だから、気にしないで」


 身悶えるヒナタに俺とメイはジト目を向ける。


「それで、何が気になったの? まさか、知り合いとか?」

「いや、今日初めて見たプレイヤーだ」

「じゃあ、何が気になったのさ」

「あいつは見るからにタンクだろ?」

「そうだね」

「あのバカの一味って知る前の、カニ狩りを始めた頃なんだが、割と良い動きをするタンクがいるな、とチェックしていたんだ」

「チェ、チェ、チェック!? リクさーーん!チェック! ですか!」

「ヒナタはとりあえず黙ろうか」

「うん。お姉ちゃんは少し黙ってて」


 『リクさーーん!チェック!』って何のチェックだよ。


 まさか、ヒナタの頭が腐っていたとは……。


 仲間ヒナタの知りたくない真実を知ってしまった、その時もバカ男による恫喝は続いていた。


「だーかーらー! お前は旅団の――タックさんの書いてくれた虎の巻を読んだのかよ!」

「一通り目は通したつもりですが?」

「あん? だったら、カニ狩りの項目には何て書いたあったか言ってみろ!」

「カニは打撃と魔法に弱く、クラゲは物理攻撃に弱い。共にリポップが早いから経験値稼ぎには最適な狩場である」


 恫喝されている男は問われた質問をスラスラと答える。


「ワンポイントアドバイスに何て書いてあった!」

「剣や槍を使うプレイヤーは、斧やメイスを用意すべし、ですな」

「ですな、じゃねーよ! じゃあ、てめーが今持ってる武器はなんだよ! 言ってみろ!」

「槍ですな」

「だーかーらー! ですな、じゃねーよ! わかってんなら、メイス用意して来いよ!」

「ふむ、しかし私は槍が一番しっくり来ますので」

「読んで覚えていても実践しないと意味はねーんだよ!」

「ふむ、一理ありますな」


 タンクの男はバカ男の恫喝など、どこ吹く風のようだ。


「しかも……だ、装備を整えていないだけでも重大なペナルティだが……そこはまぁいい……同じ旅団のよしみだ許してやる」

「寛大な心、感謝する」

「カァーっ! 話は最後まで聞きやがれ! さっきのムカつく野郎といい……今日は最悪の日だ!」

「すまぬな」

「すまぬな、じゃねーよ! ここの狩場のポイントは何だ! 言ってみろ!!」

「数をこなす、ですな」

「そうだ! 一匹でも多くのカニとクラゲを倒して経験値を稼ぐ!! なのに、てめーは何をしていた!」

「何を……? とは、異な事をおっしゃる。カニ狩りですな」

「はぁ? てめー本気で言ってるのか? てめーがしていたのは、バンバンと盾を叩いて、構えていただけじゃねーか!」


 バカ男の怒りは収まらない。


 あんなにも大声を張り上げ続けて、疲れないのだろうか?


「あれは、《タウント》と言って敵のヘイトを私に向けるスキルですな」

「んなことは、てめーに言われなくとも知ってる!!」

「ふむ」

「俺が言いたいのは、何でてめーは敵の一匹も倒さないでバカみたい盾を叩いいたのか! ってことだよ!」

「それは、ヘイトのコントロールをして仲間の安全を――」

「バカ野郎! 誰がそんなことしろと言った! 一匹でも多くのモンスターを倒すんだよ! ヘイトコントロールなんて求められてねーんだよ!」


 バカ男はタンクの男の声を遮り叫ぶ。


「しかし、私のクラスは騎士で役割がタンクがある以上は――」

「クソがっ! だから、それが意味ねー! って何度も言ってんだよ! てめーは俺から言われた通りにカニとクラゲを攻撃すればいいんだよ!」

「ふむ、しかしそれでは――」

「しかしもへったくれもねーんだよ! 最悪だよ! てめーが入ってから時給がワーストを記録したよ!」

「それは隊長が先程スカウト行為を――」

「ああああああ! いちいちうるせー野郎だな!」

「それは、申し訳ない」

「もういい! クビだ!! クビ!! てめーは今日限りで『百花繚乱』から追放だ!!」

「隊長に追放と言われても、追放権があるのは団長のタック殿のみでは?」

「あああああ! うるせーな! 団長のお手を煩わせるんじゃねーよ! 自主的に脱退しろ!」

「自主的にですが……? しかし、それを追放とは言わないのではないですか?」

「ああああ! うるせーな! とりあえず、脱退しろ! 今すぐ『百花繚乱』から脱退して、俺の目の前から消えろ!」

「しかし――」

「わかったな! 行くぞ、お前ら!」


 バカ男は一方的に言葉をぶつけ、タンクの男を残してその場から立ち去っていった。


「あちゃー、修羅場だったね」

「とっても怒ってましたね」


 騒ぎが収まると、メイとヒナタが顔を見合わせる。


 引き抜きだったら、面倒なことになるが……今のあいつはフリーだよな?


「ヒナタ、メイ」

「はい」

「ん?」

「あいつをスカウトしてもいいかな?」

「え? マジ?」

「大丈夫でしょうか?」


 俺の提案にメイは驚き、ヒナタは不安そうな表情を浮かべる。


「いきなり固定メンツって訳にはいかないから……最初は野良で誘ってみるか」

「どんな人かわからないからね!」

「そうですね」

「それじゃ、声を掛けてくるわ」


 俺は目の前で追放を言い渡されたタンクの男の元に向かうのであった。

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