タンクの役割

「はーい! ヒナの安全が保証される!」

「タンクの役割としては、正解。だが、今回のカニ狩りで言えば、ヒナタはそもそも危険だったかな?」

「んー……敵の動きは遅いですし、私に攻撃が届く前にリクさんとメイが倒してくれたので、安全でしたよ」


 メイが勢いよく質問に答えるが、俺はメイの答えを指摘し、ヒナタが俺の言葉に同意する。


「今回、ヒロアキさんが加わったことによる大きなメリットは二つある。一つは、《タウント》による敵の収集だ」


 ヒロアキがタウントをする事により、より多くのカニとクラゲがこちらに寄ってくる。これにより、移動時間が更に短縮され、効率的な狩りが実現する。


「なるほど、より多くのカニとクラゲを倒せるようになるのね」

「注意点は、余り集めすぎると……周囲の狩りをしているプレイヤーの阻害行動にも繋がる。故に、場所取りが大切だな」

「承知した!」

「ネチケットですね」

「この世界に閉じ込められたから、ネチケットじゃなくてマナーでいいんじゃない?」


 この世界に閉じ込められた現状では、ネチケットなどと甘いことを言うつもりはないが、マナー違反はいずれ不要な敵を作るきっかけになってしまう。


「もう一つのメリットは、アタッカー――俺とメイがより敵を倒しやすくなると言うことだ」

「そうなの?」

「敵のヘイトは全てヒロアキさんに集約する。故に、俺とメイは回避行動を考えずに攻撃に集中出来る」

「おぉ! とりあえず、攻撃だけに集中すればいいのね!」


 メイが表情を輝かせ、手にした漆黒の鎖鎌――月影を強く握り締める。


「最初は慣れないかも知れないが、タンクに引きつけられる敵の動きを理解したら、今まで以上に多くの敵を倒せるだろう。同時に、ヒロアキさんが加わったことにより、ヒナタは本職であるヒーラーとしての役割が求められる」

「はわわっ!? が、頑張ります!」

「今回はHP管理をする対象はヒロアキさんのみと容易だ。まずは、ヒロアキさんのHPが70%を下回らないようにHPの管理をしてくれ」

「は、はい! 頑張ります!」

「ヒナタ氏、よろしくお頼み申す」


 緊張するヒナタにヒロアキが深く頭を下げる。


「パーティーが4人までは経験値のシェア率が100%だ。時給が下がることはあり得ないが……一人増えたからさっきの1.25倍? いや、相乗効果で1.5倍を目標に頑張ろうか!」

「おー!」

「はい!」

「承知!」


 俺たちは周囲のプレイヤーの邪魔にならない場所まで移動し、カニ狩りを始めるのであった。



  ◆



 ヒロアキが参加してから3時間後。


「――《タウント》!」


 ヒロアキの打ち鳴らした盾に誘われる様に、カニとクラゲたちがヒロアキへと殺到する。


「メイ! クラゲは任せた!」

「はーい!」


 メイは鎌を振り回し、浮遊するクラゲを纏めて切り裂く。


「――《アクアショット》!」

「――《シールドバッシュ》!」


 ――《アクセル》!


 俺はヒナタのアクアショットと、ヒロアキのシールドバッシュで裏返ったカニの腹に次々と短剣を突き立てる。


「いいね! コレ! さっきよりもずっと戦いやすいよ!」

「――《ヒール》! はい! 私も初めて僧侶の役割を楽しんでいます!」

「全ての攻撃を引き受ける! これこそが、タンクの冥利!」


 周囲のカニがクラゲが次々と倒されるが、終わりのない波のように、ヒロアキの打ち鳴らす盾に誘われ、また現れる。


 ん? レベルが上がったか?


 最適解で行われるカニ狩りにより、想像以上に早いタイミングでレベルアップを迎えた。


「メイ、ヒナタ! NEXT経験値は?」

「わ!? ちょっと待って! えっと……1%だよ!」

「私も1%です!」

「了解! ラストスパートをかけるぞ!」


 10分後、メイとヒナタもレベルアップを果たしたのであった。


「おい……見たか……あいつらすげーな……」

「すげー勢いで敵を倒してるな」

「お前も攻撃じゃなくて、《タウント》使った方がいいんじゃねーか?」

「使ってもいいけど、あいつらみたいに素早く処理出来るのかよ?」

「とりあえず、試してみようぜ!」


 他のプレイヤーたちと距離を置いたつもりではあったが、驚異的な速さで狩りを続けた結果、またもや要らぬ注目を集めてしまった。


「優秀なプレイヤーがいると聞いて、来てみれば……また、貴様らか! ……ん? き、き、貴様! ヒロアキ!! そこで何をしている!!」


 周囲の注目を集めた結果、またしてもバカ男が釣れてしまった。


「む? リーダー……いや、元リーダー、久方振りですな」

「ですな、じゃねーよ! 何でそいつらと一緒にいるんだ!!」

「そうは言われても、私はすでに追放された身。何をしようが元リーダーには関係がないのでは?」

「バカ野郎が! 分かった! もういい! 許してやるから、戻って来い!」


 バカ男が身勝手極まりない言葉を喚き散らす。


 すると、ヒロアキはコンソールを操作し、バカ男と向き合う。


「今、この時を持って私は『百花繚乱』を脱退しました。私の魂は新たな主――リク殿に全て捧げます」

「な!? き、貴様……勝手なことを!」

「先に追放と言ったのは、元リーダーですぞ?」

「俺たちは『百花繚乱』だぞ! 分かってるのか!」

「伝説の旅団長――『炎帝のソラ』が創った旅団と聞いて加入してみたが、些か期待外れであった。私はこれよりリク殿と共に歩む所存」

「き、き、貴様! 自分の言っている言葉の意味を理解しているのか!」

「無論。さて、リク殿。お騒がせしました。行きましょうか」


 ヒロアキはサッパリとした表情を浮かべ、バカ男に背を向ける。


「そうだな。ここは騒がしい。移動するとしよう」

「賛成!」

「はい!」

「承知!」


 俺たちはキーキーと喚き散らすバカ男を無視して、その場から立ち去った。


 この世界で生き抜く為の最適解のパーティーの人数は四人。


 新たにタンク――ヒロアキを加え、正式に四人パーティーとなった俺たちの冒険が幕を開けたのであった。

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