第一章 閉ざされた世界で

進むべき道

 山田太郎の演説が終わった後もイベントホールに残されたプレイヤーたちは恐慌状態となっていた。


 ログアウト不能のVRMMOか……。こうした題材の物語は沢山存在していたが……まさか、俺の身に降りかかるとは。


 さて、どうすべきか?


 動揺してないと言えば嘘になる。混乱してないと言えば嘘になる。


 しかし、俺はIGOに人生の大半を捧げたゲーマーだ。最近だと、リアルの世界よりもこちらの世界にいる方が長かった。


 寝食がリアルの世界じゃなくて、こちらの世界に変わるだけだ。


 自分を納得させるように強引に言い聞かせる。


 とは言え……今の俺は"リク"だ。


 封鎖されたキャラが"ソラ"だったら、この世界で生き抜く術は持ち合わせていたし、最深部まで辿り着くであろう力も仲間も持ち合わせていた。


 ソラのステータスがあれば……


 ソラの所有しているアイテムがあれば……


 ソラの築き上げた人脈があれば……


 無い、無い、無いの全てが無い物ねだりだ。


 俺がソラに戻る為には一度ログアウトをする必要がある。しかし、ロックダウンされたこの世界ではそれは叶わぬ望みだ。


 しかし、アイテムなら……?


 第五一階層まで到達すれば、ソラと共有のハウスがあり……ハウスの倉庫には今まで集めた数多のレアアイテムが保管してある。


 そして、人脈は……?


 【天下布武】のメンバーに会えれば、"俺(リク)"を"俺(ソラ)"と気付いてくれるだろうか? マイなら、ツルギなら、メグなら、ミントなら、セロなら、マックスなら――長年共に過ごした幹部メンバーなら絶対に気付いてくれる。


 今の俺には二つの道がある。


 このまま安全な低下層でこの世界の"住民"として、生きる道。


 もしくは、"ゲーマー"としてこの世界を攻略して、生きる道。


 平和で安寧な人生。


 楽しく危険な人生。


 ハッ! ゲーマーならノータイムで最高難易度を選ぶのが常識だろ!


 危険? バカ? 言いたい奴には好きなだけ言わせてやるよ!


 俺はゲーマーだ! 世界最高峰のVRMMO――インフィニティゲートオンラインのトップランカーだ!


 ハードモード上等! やってやるよ!


 俺の進むべき道が見えた、その時。


「リ、リクさん、ど、ど、どうしましょう」

「ロックダウンって何……お姉ちゃん……リク……どうすればいいの……」


 動揺を隠しきれないヒナタとメイが声を掛けてきた。


 どうする? ――俺の答えは決まっている。


 この世界を攻略する。


 当面の目標はソラの集めたアイテムの確保と、【天下布武】の仲間たちと合流する為に、第五一階層を目指す。


 しかし、これは俺の決めた道であり、俺の進むべき道だ。


 ヒナタとメイ――リクとなって初めて出来た唯一の仲間が進むべき道とは限らない。


 二人には正直に全てを話そう。


 そして、俺と同じ道を進むというのであれば……俺は全力でこの二人を守ろう。


「俺は、先へと進む」

「先と言うのは……?」

「まずは、第五一階層を目指す。そして、山田太郎の待つ最深部を目指そうと思う」


 俺の答えを聞いた二人がその場で固まる。


「これは俺の決めた、俺の進むべき道だ。一緒に行こう、とは言えない」

「それはうちたちを置いていくってこと?」

「違う。二人が進むべき道は二人が決めるんだ。幸い、このままはじまりの町に留まっていれば安全に生き延びることも可能だ」


 山田太郎は言った――この世界のルールはアップデート前と大きく変わらない、と。


 ならば、近場のモンスターを倒して得られるお金だけでも、衣食住を賄うことは可能だ。


「私たちの進むべき道……」

「うちらの進むべき道……」


 二人は俺の言葉をゆっくりと繰り返す。


「それと二人には伝えたいことが――」


 そして、俺が二人に隠していた真実を伝えようとした、その時。


「みんな! 聞いてくれ!」


 第一階層ではあり得ない装備を纏った一人の青年がイベントホール中央に設置されていたオブジェの上に立ち、大声で呼び掛ける。


 あの鎧は第二一階層以降で入手出来る装備品だよな? 確か第三〇階層〜第三五階層あたりのドロップ品だったか?


 レベル30以上のプレイヤーはこの階層に立ち入ることが出来ない仕様上、あの鎧を第一階層にいるプレイヤーが入手する方法は二つ。


 一つは、レベル30未満を維持したまま第二一階層に到達する。


 第二一階層まで辿り着けば、トレードなりオークションなり入手することは可能だ。


 もう一つは――


「うげっ!? ヒナ、アレって……」

「間違いなく……あの人ですねぇ……」


 ヒナタとメイはあの青年を知ってるようだ。しかし、言動から推測するに良い感情は抱いていないようだ。


 その後も青年は周囲のプレイヤーを落ち着かせようと、必死に声を上げ続けている。


「知り合いか?」

「知り合いと言うか……」

「ほら、リクには前に話したでしょ?」


 メイが俺に話したことのあるプレイヤーと言えば……。


「例の直結厨か?」

「そう! それ! しかも、その中でも最悪の奴!」

「と言うと……?」

「あいつだよ! 【天下布武】の幹部を名乗った大嘘つきは!」


 怒りを露わにするメイとは違う感情が俺を支配する。


 あの装備品を入手するもう一つの方法が――メインキャラから第一階層にいるセカンドキャラへの譲渡だった。


 ちなみに、メインキャラから装備品を仕入れてセカンドキャラで販売する……と言う手法は、運営によって禁止されていた。


 ってことは、あのプレイヤーは本当に【天下布武】の幹部の可能性もあるのか?


 誰なんだ……?


 俺の頭の中には疑問が渦巻くのであった。


―――――――――――――――――――

本日(6/17)は二話投稿します

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