緊急クエスト最終日⑥

 メイたちが合流するまで後何分だ?


 俺は二本の短剣を構えて、ゴブリンキングと対峙する。


 一対一ならまだしも……周囲のゴブリンが面倒だな。


 俺は絶えず動きまくり、メイたちが合流してくるまでの時間を稼いでいると……


「リク殿! お待たせ致しました! ――《タウント》!」


 ヒロアキが俺の前に立ち、盾を打ち鳴らす。


「――《夏撃》! おっ待たせー!」


 次いでメイが合流するや否や分銅をゴブリンキングに投擲。


「ギィィィイイ!」


 怒り狂ったゴブリンキングがプレイヤーの血で染まった凶暴な鉈をヒロアキへと振り下ろすが、ヒロアキはしっかりと盾を構えてガード。


「――《ヒール》! お待たせしました!」


 僅かに減少したヒロアキのHPをヒナタがすぐに回復。


「オラッ! おめーら! 周囲のゴブリンを駆逐するぞ!」

「「「おぉー!」」」


 そして、プロ初心者集団を引き連れたガンツが周囲にいたゴブリンへと襲撃を仕掛ける。


 これで、ゴブリンキングを相手にする体制は整った。


「メイ、ヒロ、ヒナ! 耳栓を装着! メイとヒナタは俺のハンドサインの確認! ヒロはゴブリンキングのみに集中してくれ!」

「うん!」

「はい!」

「承知!」


 俺だったらゴブリンキングの一撃をまともに受けたら……最悪即死だ。メイも一撃で瀕死に追い込まれるだろう。


 但し、本職がタンクのヒロアキは別だ。数発ならゴブリンキングの攻撃に耐えれるはずだ。


 今回のメインアタッカー―メイ。


 俺かメイがまともに攻撃を受けてしまてば、このパーティーは崩壊する。


 ほとんどの攻撃はヒロアキに向かうはずだが、ゴブリンキングは時折広範囲を巻き込む攻撃を繰り出す。その攻撃を事前に察知し、回避の指示を出すことが俺の役割だった。


 耳栓を装着した俺は距離を取って遠距離攻撃を中心に立ち回りながら、ゴブリンキングの行動パターンを確認することにした。


 ゴブリンキングが鉈を振り上げてヒロアキへと振り下ろす。ヒロアキは苦悶の表情を浮かべながら、盾で鉈を受け止め、ヒナタがすぐに減少したヒロアキのHPを回復させる。


 メイは鉈が完全に振り下ろされたタイミングに合わせてゴブリンキングとの距離を一気に詰めて鎖鎌で攻撃を繰り出す。


 ゴブリンキングが左足を僅かに前に踏み込むと、強烈な前蹴りを放ち、ヒロアキは後方へとノックバックされながらも前蹴りを受け止めると、ヒナタがすぐに減少したヒロアキのHPを回復させる。


 ゴブリンキングが脇を開きながら鉈を振り上げる。


 ――《ファイヤーショット》!


 俺は後退の合図となる火の矢をゴブリンキングに放つと、メイはすぐさまバックステップを刻み後退すると、ゴブリンキングは鉈を大きく水平に薙ぎ払う。ヒロアキは巧みに盾を操って鉈を受け止めると、ヒナタがすぐに減少したヒロアキのHPを回復させる。


 メイは離れた位置から蛇王戦輪を投擲し、着実にゴブリンキングへのダメージを積み重ねる。


 ゴブリンキングが大きく息を吸い込んだ。


 ――好機!


 俺はオーバーリアクション気味に左手を大きく振り下ろし――攻撃の合図を告げると同時に俺もゴブリンキングとの距離を一気に詰める。


「(グォォォオオオオ!)」


 ゴブリンキングが大気を揺るがす咆哮を上げるが、耳栓を付けている俺たちには意味がなく――攻撃する最大のチャンスとなる。


 咆哮するゴブリンキングを二本の短剣で滅多刺しにし、ゴブリンキングの腕の筋肉が僅かに膨張したのを確認すると、《ファイヤーショット》を放ってメイと共に後退する。


 ここまでの流れは一部を除いて完璧だ。


 俺はその一部を解決するため、ヒナタの元へと移動する。


 ヒナタの肩を叩いてから耳栓を取り外すと、意図を察したヒナタも耳栓を取り外す。


「どうしましたか?」

「ヒールの頻度が過剰だな」


 唯一完璧ではない一部とは――ヒナタのヒールのタイミングであった。


「過剰ですか……?」

「ヒロが攻撃を受ける度にヒールを放っていたら、MPがすぐに底を尽きるぞ」

「ですが、ゴブリンキングの攻撃は強烈で……ヒロアキさんが盾で防いでるいるにも関わらず、HPは2割近くも減っています」


 俺の言葉にヒナタが反論を唱える。


 ほぉ……この階層では最高レベルとなる29で、防具もこの階層では最高峰を揃えているとは言え……ゴブリンキングの攻撃を受けて、たったの2割のダメージで凌ぐか。


 傍から見ると盾を構えて受け止めているだけに見えるが、盾の扱いはそんなに簡単ではない。体勢をしっかり整え、攻撃は盾の中心で受け止め、敵の攻撃がインパクトした瞬間に盾を少し押し込むことで受けるダメージは大きく減少されるのだ。


 天性の才能なのか、努力の結果なのか……ヒロアキもメイ同様、初心者離れしたプレイヤースキルを身に付けていた。


「ヒナタのヒールでヒロのHPは何割回復させることが出来る?」

「4割ほどでしょうか……?」

「ならば、ヒロのHPが6割を下回ったらヒールを使ってくれ。HPを管理するというのは、ダメージを受けたらすぐに癒やすことではない。適切なタイミングで回復をするから、管理になる」

「わ、わかりました!」

「後、ヒナタ自身のMPは常に3割以上キープ出来る様に心がけてくれ」

「は、はい! 頑張ります!」


 俺は再び耳栓を付けると、定位置へと戻って回避の指示出しに戻るのであった。


 10分後。


 ゴブリンキングのおおよその行動パターンを把握出来たので、俺も積極的に攻撃へと参加することにした。


 ゴブリンキングと戦闘を始めてから30分後。


 ゴブリンキングが大きく息を吸い込んだ。


 ――《アクセル》!


 俺が自身の敏捷性を大きく加速させると、


 一足先に飛び込んだメイがゴブリンキングの足元で印を結び、


「――《混沌》!」


 ゴブリンキングの能力を低減させる領域を展開。


「(グォォォオオオオ!)」


 ゴブリンキングが無意味な咆哮をあげたその時、


「いっけー! ――《秋雨》!」


 メイは五月雨式にゴブリンキングの脚を切り刻み、俺は加速した状態でゴブリンキングの背後へと回り込み、


 ――《ファング》!


 二本の短剣でゴブリンキングの膝裏を切り裂いた。


「ギィィィイイ!?」


 すると、ゴブリンキングは片膝を付いた状態で倒れ込んだ。


「フフン♪ ――《冬乱》!」


 メイは自分の顔の高さと同じ位置まで下がったゴブリンキングの顔面目掛けて鎖鎌を振り回し、


 ――《バックスタブ》!


 俺は射程距離となったゴブリンキングの首筋に短剣を突き立てると、


「――!? ギ……ギ……ギィ……」


 ゴブリンキングの巨体は大きく痙攣し、ゆっくりと地面に倒れた。


「ゴブリンキングを討伐したぞ!!」


 俺は短剣を天へと突き上げ勝鬨をあげる。


「「「おぉー!」」」


 プレイヤーたちは歓喜の声を声高に叫び、


「「「ギィ!? ギィ!? ギィ!?」」」


 王を失ったゴブリンたちは恐慌状態に陥ったのであった。



 




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