採掘
第十三階層の攻略を開始してから6時間。
入口の近場にある採掘場や、入口から出口を結ぶ経路の付近にある採掘場は、予想通りマントの集団に占領されていた。
俺たちは、死んだ目で採掘をするプレイヤーたちを素通りして、奥へと進む。
「確か、この通路辺りに……っと、いたいた」
袋小路を示す細い通路の先にはツルハシを持ったモグラたちがたむろしていた。
「モグラのいる場所には鉄鉱石あり、これ豆知識な」
俺は仲間たちにかつての『天下布武』の仲間が口にしていた言葉を告げ、戦闘の準備に入る。
対峙するのは、4匹のモグラ。特徴的な二本の出っ歯を覗かせ、手にはボロボロになったツルハシを握っている。
ヒロアキは仲間たちを見回し、確認を取ると、槍で盾を打ち鳴らす。
カンッ! カンッ! カンッ! と鳴り響く、盾の音に釣られ、モグラたちはヒロアキへと迫った。
俺はヒロアキへと迫りくるモグラの横をすり抜け、背後を取る。
「ふふん♪ ――《草纏》!」
対して、メイは分銅を巧みに操りモグラの足を絡ませて転倒させる。
――《バックスタブ》!
俺はモグラの首筋に短剣を突き立て、メイは転倒したモグラの首を素早く鎌で斬りつける。
メイに首を斬られたモグラは痙攣し、動かなくなるが……俺が短剣を突き立てたモグラはトドメには至らず、生存していた。
クソッ……! ワンキルは無理か……。
俺は攻撃力の低さを嘆きながら、片手剣でトドメの一撃を見舞った。
残る1匹のモグラはツルハシでヒロアキの盾を必死に叩いていた。
ん? 残る1匹……?
よく見れば、1匹のモグラがヒロアキの足元で倒れていた。
俺が倒れていたモグラに注視している隙に、
「へへっ! もーらいっと!」
メイの放った分銅がモグラの後頭部を陥没させた。
「びくとりぃ! 今回はうちが2匹で、リクが1匹だね」
メイは嬉しそうにVサインを俺へと送る。
「炎属性の次にSTRが高い闇属性が、風属性に絡むなよ」
レベルが上がるにつれ、俺とメイのSTR――攻撃力の差は開く一方だ。
「ふふん♪ そうは言っても、普段はリクの方がいっぱい倒すじゃん」
「まぁ、AGIの差が大きいからな」
雑魚ならAGIが高く、素早く敵に接近出来る俺に分はあった。
「にゃはは……遂にうちがメインアタッカーの時代が来たね!」
「へいへい。メインアタッカー様、頑張ってくれよ」
「もぉ! 張り合いがないなぁ!」
「そんなことより、よくモグラを倒せたな」
俺は得意気なメイをスルーして、ヒロアキとヒナタに話しかけた。
「はい! ヒロアキさんの後ろから弓で攻撃して、ヒロアキさんも槍で攻撃したら倒せました!」
俺とメイが軽くモグラを倒せたのは、背後から奇襲を仕掛けられたからだ。正面から相手するとモグラは中々厄介な存在だった。
「モグラは土属性だからヒナタとは相性が悪いと思っていたが……弓の扱いが上手くなったな」
「はい! ヒロアキさんが引き付けてくれていたので、狙いやすかったのです!」
「ヒナタ殿は、攻撃をしながら回復もしてくれたので助かりましたな」
俺たちのパーティーは構成上、ヒロアキとヒナタが一緒に行動することが多くなる。
ヒナタは回復のタイミングを掴み、攻撃する余裕が生まれてきたのだろう。良い兆候だ。
モグラは、土属性だ。水属性には強いのだが……弓なら問題なかったか。
――ん?
俺は基本的な事実を思い出した。
「メイ、次も勝負するか?」
「ん? オッケー! 掛かって来なさい!」
俺の提案にメイは軽口で答えた。
「そうと決まれば、サクッと採掘して……次を回るか」
俺は袋小路の先にある採掘場で鉄鉱石の採掘を行うのことにした。
カンッ! カンッ! カンッ!
ツルハシで採掘場を叩くこと3回。
ここの採掘場の鉄鉱石はあっさりと枯渇してしまう。
「次にここが復活するのは……3時間後だな」
「え? これだけ?」
ここの採掘場で採れた鉄鉱石は3個であった。採掘場は現実世界の1時間――この世界の3時間で回復する。
「まぁ、ここの採掘場は規模が小さいからな」
「それでも、3個なら1,500G相当ですよ!」
「んー……そう考えると、凄いのかなぁ? でも、少なくない?」
人気の採掘場――『百花繚乱』が占領している採掘場であれば、3時間で鉄鉱石が100個は採掘出来る。3個しか採掘出来ないから、この採掘場は放棄されていたのだろう。
「塵も積もれば山となる、って言うだろ? この規模の採掘場ならこの階層にゴロゴロと存在している。経験値も稼げるから一石二鳥だな」
「うんうん! そうですよ!」
「流石はリク殿。良い事を言いますな」
「うー! わかったよ! でも、アレだよ! 次にモンスターと遭遇したら勝負だからね!」
「へいへい。仰せのままに」
俺たちは次なる採掘場を目指して移動するのであった。
◆
先程の採掘場から移動すること10分。
再び、袋小路で3匹のモグラを発見した。
「お! 発見!」
モグラを発見した、メイは笑顔を浮かべる。
「行きますぞ?」
ヒロアキの合図に俺たちが首を縦に振ると、ヒロアキは槍で盾を打ち叩く。
「ふふん♪ いっくよー! ――《草纏》!」
先程と同じように、メイは分銅で迫りくる1匹のモグラの足に鎖を絡ませて転倒させる。
対して俺は――その場から動かずに魔力を練り上げる。
――《ウィンドカッター》!
放たれた風の刃が迫りくるモグラを両断する。
「へ?」
「む?」
「え?」
――《ウィンドカッター》!
続けて放たれた風の刃が更に1匹のモグラを両断し、
――《ウィンドカッター》!
メイが呆けている隙に、転倒していたモグラも風の刃が両断する。
「ふぅ。俺の勝ちだな」
俺は呆けたままのメイに笑顔を送る。
「へ? 今の何?」
「《ウィンドカッター》だな」
「知ってるよ! 何であんなに強いの!」
「この世界の相克関係だよ。土は水に強く、水は火に強い。火は風に強く、風は――土に強い」
ゲームによっては、この相克関係は異なるが……この世界――IGOの世界ではその相克関係が絶対だ。
「え! ずるーい!」
「言ってなかったか? 俺も負けず嫌いなんだよ」
地団駄を踏むメイに俺は笑いかけるのであった。
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