第十三階層

 第十一階層に到達してから三日後。


 第十三階層への最短ルートを急ぎ足で駆け抜けた結果、一日で第十二階層を突破することに成功した。


「ふぃ〜。移動ばっかりで疲れたね」

「リクさんに付いていくのが必死だったので、もう一度同じ道を戻れと言われても戻れる気がしないですね」

「足が遅く……ご迷惑をお掛けしました」

「ここまでは順調だったな。少し休憩をしてから第十三階層の採掘場を回るか」


 周囲にモンスターの気配を感じない、比較的安全な場所に基地を展開し、休むことにした。


 基地の中に机と椅子をセッティングし、インベントリーに収納してあった食料品を取り出す。


「久しぶりのゆっくりとした食事なので、少し調理しますね」


 ヒナタは取り出した食料品にひと手間加えて、キレイに食器へと盛り付けをしてくれた。


「ヒナタ、ありがとう」

「ヒナ、ありがとー!」

「感謝致します」

「いえいえ。お待たせしました!」


 机の上に並べられた美味しそうな料理を前に全員で手を合わせる。


「いただきます」

「「「いただきます!」」」


 信頼出来る仲間と共に囲む食事は、元の世界から遮断されたこの非日常の中で、暖かい日常を感じさせてくれた。


「さてと、食べながらでいいから聞いてくれ」


 俺は食事をしながら、仲間たちに話かける。


「第十三階層に出現するモンスターは三種類いる。アリとモグラとコウモリだ」


 正式名称はキラーアント、キラーモール、キラーバットだったかな? まぁ、面倒なのでアリ、モグラ、コウモリで問題はない。


「アリってあのあり?」

「そうだな。アリと言っても中型犬くらいの大きさだけどな」

「デカっ!?」

「モグラと言うのは、地中から攻撃してくるのでしょうか?」

「いや、二足歩行で普通に歩いてる。武器はツルハシとかシャベルで、大きさは140cmほどか?」

「それってモグラって言うの……」

「コウモリも120cm程の大きさだ」


 俺は記憶しているモンスターの容姿から伝える。


「次に特徴だが、コウモリは耐久性が低い。超音波が厄介だから、発見次第倒した方がいいな」

「超音波って?」

「激しい頭痛に襲われて、行動が阻害される。喰らえばわかるが……二度と喰らいたくないと思えるぞ」

「うへ……喰らわなくていいよ」


 メイは舌を出して、苦悶の表情を浮かべる。


「次にモグラだが……攻守共にバランスが良いモンスターだな。逆に言えば特徴がない。正面から倒すのは面倒なので、ヒロがヘイトコントロールして背後から倒すのが楽かもな」

「お任せ下さい!」


 ヒロアキは胸を叩いて、頼もしい返事をする。


「最後にアリだが……こいつが要注意モンスターだ。広範囲の炎魔法で焼き払うか、大剣で纏めて薙ぎ払うのがベストの対策だが……」

「私たちには無理ですね」

「そうだな。だから、俺とメイで素早く倒す必要がある」

「素早く?」

「アリで厄介なのは集団行動と攻撃力……そして、酸だ。酸を受けると装備品の耐久力が著しく低下し、いずれ使えなくなる」

「え? 私の月影も!?」

「装備品によって低下する耐久力に多少の差はあるが……減ることには変わりはないな」

「うげ……二つあるけど……使えなくなるのはイヤだな」

「まぁ、俺とメイの装備品が酸を受けることはほぼない。アリが酸を吐きつけるのはタンク――ヒロに対してだな」


 アリはヘイト管理をするタンクに対して酸を吐きつけ、装備品の耐久力を低下させる。


「――な!? つ、つまり私は……アリに酸をツバの如く吐きかけられ……いずれ私の鎧は酸で溶け……そして、産まれたままの姿をリク殿に……ハァァァン!」


 ヒロアキが開けたらダメな扉を解放しようとしている。


 普段は人格者で、見た目も良いのに……ヒロアキは時々ぶっ壊れる。


 俺は悶えるヒロアキから視線を外して話を続ける。


「故に、アリの相手をするのは俺とメイだ。アリは幸いにも耐久性は乏しい。存在を確認したら見敵必殺だ」

「りょーかい!」

「承知……ッ! ……むむ? 私がアリを一手に引き受ける作戦は?」

「そんな作戦は存在しない」

「――な!?」

「ヒロアキさんの役割は、モグラの攻撃を引き付けることだ」

「――!? リ、リク殿……何か距離を感じるのですが……」

「さてと、飯を食ったら6時間睡眠。その後第十三階層の攻略を開始するとしようか」


 俺は悲壮感漂うヒロアキを無視して、作戦会議を終わらせるのであった。



  ◆



 しっかりとした睡眠をとった後、俺たちは第十三階層の攻略を開始した。


 第十三階層は、プレイヤーが四人並んで歩くのが難しい程に通路の幅は狭く、ほんの少し進めば分かれ道が幾つも繰り返される、蟻の巣のような迷路でもあった。


「うわ……また、分かれ道だよ」

「この道は右だな」


 俺は通路を見極め、正しい道を選択する。


「リクさんって全てのフィールドの地図が頭に入っているのですか?」


 迷いなく突き進む俺に、ヒナタが尋ねてくる。


「流石にそれは無理だ」

「でも、これだけ複雑な道を覚えているのって凄くないですか?」

「あぁ……この階層と言うか、このタイプの階層には特徴があるんだよ」

「特徴ですか?」

「例えば、こっち通路とこっち通路を見比べて何か気付かないか?」


 俺は左右に分かれた二つの通路をそれぞれ指差し問い掛ける。


「えっと……右の通路の方が少し広い?」

「正解。ゴールまでは幅が広い道を選択し続ければ辿り着ける」

「え? そうなのですか!」

「幅が一番狭い道を選択すると、袋小路になる。微妙に広い通路を選択すると、ゴールには至らないが、また別の分かれ道に辿り着ける」

「へぇ……そんな法則があったのですね」

「まぁ、分かれ道の入口だけは狭いけど……その後広がってて正解の道……何てパターンもあるから見極めは難しいけどな」


 ぱっと見幅の広い道を選択したが、実は間違いでした……と言う罠にはよく陥ったものだ。


「ひょっとして、今までの階層もそんな法則があったの?」


 メイが問いかけてくる。


「今までの階層は……特にそういう法則はないな」

「でも、リクは最短ルート知ってたじゃん」

「それは……何て説明すればいいんだ? 何か、ポイントとなる景色を記憶している。そんな感じだな」


 流石の俺も全ての階層の地図は暗記していない。感覚に近いもので……記憶しているだけだ。


「ふーん……そんなもんなんだ」

「そんなもんだ」


 俺は苦笑を浮かべるのであった。

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