採掘場の条件

 第十一階層に到達してから二日後。


 遭遇したモンスターを全て殲滅しながら進み、ようやく第十二階層へと辿り着いた。


「ふぅ……かなり広い階層だったね」

「十階層を超えるごとにフィールドはどんどん拡大していくからな」


 最短ルートで通過したとしても、第二一階層に到達するまでに最低20日は必要になる。


 そして、外部から遮断されてから本日で34日目。


 緊急クエストが発生するまで残り56日。


 その期間内に、装備を万全に強化してレベルを29まで成長させ、第二一階層まで到達する。


 果たして可能なのだろうか?


 頭の中をフル回転させると……ぎりぎり可能だ。


 下手したら56日後に第二一階層到達……なんてことすらあり得る。


 第十一階層を踏破していて気付いたのだが、マントの集団――『百花繚乱』は採掘場のみならず、有名な狩場もほぼ占領していた。


 今後は、より計画的に行動しないとタイムリミットを超えてしまうな……。


 『百花繚乱』によるハラスメント行為に、苛つきを感じながらも……第十二階層の入口から一番近い採掘場へと移動すると――


「はぁ……またですね」


 ヒナタが深いため息を吐く。


 第十二階層の一つ目の採掘場もマントの集団に占領されていた。


「もぅ! 何なの! あいつら! あんな死んだ目をしながら採掘だけしていて楽しいの!」


 メイが鉄鉱石をひたすら採掘しているプレイヤーに対し悪態をつく。


 ――!


「メイ、今何と言った?」


 メイの言葉から俺は何かを閃きそうになる。


「え? あいつら楽しいのかな? って」

「違う! その前!」

「え? 何だろ……あんな死んだ目をしながら採掘だけしていて楽しいのかな?」


 ――!


「それだ!」

「なにが?」

「死んだ目……死んだ目だよ!」

「どういうこと?」


 ある一つの可能性に気付き、興奮する俺にメイは困惑する。


「第十三階層に急ごう! 道中のモンスターも全て無視するぞ!」

「え? どゆこと?」

「ど、どうしたのですか?」

「承知しました!」


 ある可能性に気付いた俺は先を急ぐことにした。


 最短ルートを経由して移動している最中、俺は気付いた可能性を仲間たちに伝えることにした。


「ねぇ! 急にどうしたの?」

「死んだ目をしているって言っていただろ?」

「うん。それがどうしたの?」

「死んだ目って言うのは、つまりやる気がない……或いは――諦めている、って意味だよな?」

「そうなるのかな?」


 俺の質問にメイは首を傾げる。


「俺が最初に平和的解決手段で訴えた時に、奴らは何て言っていたか、覚えているか?」

「平和的解決手段って最初にあいつらに声を掛けたことを言ってるの?」

「それ以外に何がある?」

「いや、強気だったなぁ……と。えっと……何て言っていたっけ? 帰れ! って怒ってたよね」

「最終的にはそうなったが、最初に奴らは俺にこう言った――『もう交代の時間か』と」

「んー、そんなようなこと言ってたかも」

「交代の時間と言うことは、誰か――いや、『百花繚乱』が仕切っている」

「だろうね」

「会社の仕事じゃないが、あいつらは『百花繚乱』と言う集団に属して、鉄鉱石の採掘を仕事としているプレイヤーと言うことだ」

「サラリーマンみたいだね」


 まだ、学生だったメイはサラリーマンと言う漠然とした存在を揶揄する。


「あいつらは作業員だ。そして、死んだ目。奴らは何を諦めて、この世界で作業員になった?」

「え? 生きること?」

「逆だ。生きるために作業員になる道を選択した。つまり、奴らはモンスターと戦うこと……この世界を攻略することを諦めたプレイヤーたちだ」


 デスペナがスリーアウト制であることから、多くのプレイヤーがモンスターとの戦闘を恐れず、冒険に出掛けたが……一部のプレイヤーは、僅かなリスクすらも拒否していた。


 しかし、タウンに籠もっているだけではいずれ金は尽きる。金が無くては、寝床も食事もままならない。


 そこで、奴らは『百花繚乱』と言う大組織に属して、安全な仕事を貰うことで、生き残る道を選択した。


「人気のある採掘場所の条件って何だと思う?」

「多くの鉄鉱石が採れるとか?」

「それも一つの条件だが、一番重要視される条件は――場所だ」

「場所?」

「タウンから近い、転移装置――つまりは入口から近いと言うのが、人気の狩場の条件だ」


 オンラインゲームをプレイするプレイヤーは、よく効率を時給で換算する傾向がある。


 1時間で稼げる経験値、1時間で稼げるお金、1時間で採れる素材。


 そして、素材に関して言えば……移動時間を含んで計算する場合も多かった。


 町から5分の距離で1時間で10個の鉄鉱石が採れる採掘場と、町から3時間の距離で30個の鉄鉱石が採れる採掘場では、前者の採掘場の方が人気は高かった。


「逆に、無名の採掘場の条件って何か知っているか?」

「入口から遠い……あ! 引っかからないよ! 入口と出口から遠い採掘場でしょ!」


 別に引っ掛け問題を出したつもりでは無かったが、メイはドヤ顔で答える。


 事実、各階層の転移装置は入口付近にあるが……各階層の入口は、前の階層の出口に繋がるので、出口付近の狩場も人気があった。


「惜しいな。無名の採掘場の条件は入口から出口までの導線上に存在しないこと。更にモンスターも出現する場所だと、人気は更に下がる」


 未開の地ならともかく……すでに先達者が通ったフィールドであれば、入口から出口を結ぶ経路以外の場所には足を踏み入れたことすらないプレイヤーは大勢いるだろう。


 後発者の最大のメリットは先達者が残した情報。


 しかし、ソラは先達者であった。故に、経路から外れたスポットも知っている。


「第十三階層は、複雑な迷路になっているダンジョンタイプのフィールドだ。そして、入口から出口を結ぶ経路とは別経路の先に――採掘場が点在している。しかも、そこまで辿り着くまでに戦闘を避けることは不可能」

「と言うことは、『百花繚乱』が占領していない可能性が高いと言うことです?」

「正解」


 ヒナタの言葉を俺は肯定する。


 元々レベル上げをしながら、採掘する予定だった。ならば、条件としては悪くない。


 俺たちは穴場とも言える採掘場を目指し、先を急ぐのであった。

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