大型アップデート前日③

 IGOにログインした俺はヒナタとメイの二人と合流した。


「待たせたな」

「おかりえなさい!」

「おかえりー!」


 合流した俺を二人は優しい笑顔で迎え入れてくれる。


「経験値はどうだ?」

「私は84%になりましたよ!」

「うちは80%かなー」

「了解。それじゃ、ガンガン稼ぎますか!」

「「おー!」」


 今日中のレベルアップを目指し、俺たちは経験値稼ぎに励むのであった。



  ◆



 4月23日。PM11:50。


「間に合ったー!」


 メイがレベル10へと成長。何とか今日中のレベルアップに間に合った。


「わわ!? 11:50だよ! 急いで町に戻らなきゃだね!」

「クラスアップはイベントの後だな」


 転移魔法も転移アイテムもないニュービーの俺たちは、自分の足ではじまりの町へと戻れる各階層に設置された転移装置へと急ぐことにしたのだが……


「だねー! でも、リクは大丈夫なの?」


 メイの一言に俺は足を止めてしまう。


「ごめん……忘れてた。そっか、そうだよね。リクは明日からログイン出来ないんだよね」

「すまない……」


 メイの悲しそうな口調に、俺は自然と謝罪の言葉を口にしてしまう。


「とりあえず、町に戻りましょ!」


 そんな俺とメイを励まそうとしているのか、ヒナタは無理に明るく振る舞う。


「そうだな……町に戻ったら二人には真実を告げるよ」


 俺は二人にそう伝え、再び転移装置へと足を進めるのであった。



 4月23日 PM11:57。


 何とか時間内にはじまりの町へと戻った俺たちは、特別記念イベントが開催されるイベントホールに到着した。


「ふぅ。何とか間に合ったねぇ!」


 笑顔を浮かべるヒナタの後ろで、メイは静かに佇んでいる。


「リク、それで真実って――」


 メイが意を決して言葉を放とうとするが、


「メイ? こういうのはネチケット違反だって、私に教えてくれたよね? リクさんも無理に話さなくても大丈夫ですよ」


 俺は今……どんな表情をしているのだろうか?


 ヒナタは心配そうに、俺を労るような優しい笑みを浮かべる。


「わかってるよ……でも……」

「人には人の……リクさんにはリクさんの事情があるのですよ」

「知ってるよ……でも……」


 泣きそうなメイをヒナタが優しく宥める。


 俺の出した結論は正しかったのだろうか?


 俺は何故容易に固定パーティーなんて組んでしまったのだろうか……。


 二人の様子を見て、俺の胸は締め付けられる。


「大丈夫。二人には真実を伝えるよ」


 俺は真実を告げる決心を固める。


「よろしいのですかぁ?」

「本当に……いいの……?」


 二人の言葉に俺は静かに首を縦に振る。


「二人は信じてくれないかも知れない。今から言うことは突拍子もないことかも知れない。でも、今から俺の伝える言葉は真実だ。どうか、信じて欲しい」

「はい。信じます」

「わかってる」


 俺が二人の目を見ると、二人も真剣な表情で俺の目を見る。


「実は俺の正体は――」


 意を決して真実を告げようとした、その時。


 ――!?


 頭の中にシステムアラートが鳴り響く。


 このアラートは緊急クエスト?


 緊急クエスト。それは運営の用意した強制参加のレイド(大規模)クエスト。


 特別記念イベントは緊急クエストなのか!?


 セレモニー系のイベントと思ったら、緊急クエストかよ……。


 0:00から全員強制参加の緊急クエストとか……運営は正気かよ。


 このシステムアラートは全てのプレイヤーを対象に鳴らされている。周囲を見回せば、イベントホールに集まった多くのプレイヤーが困惑、或いは興奮している。


「え? え? 何が起きたのですかぁ?」

「え? どういうことなの?」

 

 初めて緊急クエストに直面したヒナタとメイも困惑している。


「落ち着け。これは緊急クエストのアラートだ。すぐにでもシステムメッセージが……」


 二人を落ち着かせようとしたその時、システムメッセージがポップされた。


 は?


『この世界を外部から遮断しました』


 ポップアップされたシステムメッセージを目にした俺は目の前の姉妹と同様に困惑するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る