上級職の実力
第三の町の正門を通過し、フィールドを歩くこと3分。3匹の赤いベレー帽を被ったゴブリン――レッドキャップと遭遇した。
「ゴブリン?」
「レッドキャップだな。低階層のゴブリンと同じだと思うと、痛い目に合うぞ」
「え? 強いの?」
「いや、中階層だと一番弱い雑魚だな」
「んじゃ、うち一人で倒してもいい?」
俺はメイの問いかけに首肯で答える。
「ふふん♪ いっくよー! ――《火遁》!」
メイは楽しそうに笑顔を浮かべると、忍者特有の魔法――忍術をレッドキャップへと放った。
3匹のレッドキャップの足元から炎の柱が巻き起こる。
「ギィ!?」
「ギィ!? ギィ!?」
「ギィィィィ!」
ド派手な見た目とは裏腹に火柱の中から3匹のレッドキャップが息絶えることなく、怒号と共に飛び出して来た。
「え? ちょ……!? 弱ってもないの!?」
「見た感じ元気いっぱいだな」
「ウソ……忍術弱い!?」
期待値を大きく下回る《火遁》の威力に動揺するメイへレッドキャップが襲いかかる。
「させませぬぞ! ――《ガーディアン》!」
メイの前へと飛び出したヒロアキが盾を構えて、大地を力強く踏み抜いた。
ヒロアキの身体が仄かな輝きを放つと、レッドキャップたちはその光に誘われるようにヒロアキへとそれぞれの獲物を振り下ろす。
カンッ! カンッ! カンッ! と、3度の金属音が周囲に響き渡る。
「効きませぬな! もっと! 本気で打って参られよ!」
守護騎士が習得する《ガーディアン》は目の前の敵の意識を自分へと固定させ、更に自身の耐久性を大きく向上させるスキルだった。
ヘイト管理の有効範囲は《タウント》に劣るが、利便性は非常に高いスキルだ。
「えいっ! ――《結界・快》」
ヒナタが杖を振ると、ヒロアキの足元を中心に五芒星が展開され、優しい光が継続的にヒロアキの傷を癒す。
レッドキャップ3体が必死にヒロアキにダメージを与えても、与えられたダメージを大きく上回る速度でヒロアキの体力が回復する。
守護騎士と巫女のコンボは凄いな……。
もはや完全に安全が確保されたのを確認した、俺は呑気に観戦モードに入る。
「メイ」
「なに?」
「弱いのは《火遁》じゃなくて、装備だ」
「え? どういうこと?」
「コレを貸してやるよ。代わりに風威借りていいか?」
「え? いいけど……」
「それを装備して《火遁》を使ってみな」
俺は風塵刀と風縛剣をメイへ渡し、代わりに風威を受け取る。
「いっくよー! ――《火遁》!」
メイは風塵刀と風縛剣を交差させ、再び忍術を唱える。
すると、3匹のレッドキャップの足元から大気を焦がす火の柱が巻き起こる。
「うわ……何か迫力が段違いだね……」
「その短剣は魔法の触媒になるからな」
風威は強力な鎖鎌だが、魔法の触媒には成り得ない。魔法は触媒を通すことで初めて威力が発揮されるのだ。
「さてと、トドメは俺が刺すか」
俺は慣れない武器――鎖鎌である風威の分銅を振り回し、焼け焦げて瀕死となっているレッドキャップの頭目掛けて投擲する。
うぉ……意外に難しいな。
頭を狙って投擲した分銅であったが、狙いは外れて胴へと命中。レッドキャップを倒すには至らなかった。
1体くらいは中二心を刺激する《風威》で倒したかったが、俺の技量では難しいようだ。
いつも通りの方法で倒すか。
俺は左手に鎌を持ち、右手で分銅を振り回しながらレッドキャップへと疾駆。ヒロアキへと夢中に攻撃を続けるレッドキャップの背後を捉えると、
――《ウェポンチェンジ》!
トリックスターとなり新たに習得したスキルを使用する。スキルを念じると、俺の手にあった風威が瞬く間に二本の短剣――影刃へと蛇王短剣へと換装される。
――《バックスタブ》!
得意のスキルでレッドキャップ1匹を葬り去ると、そのまま流れ作業のように残りのレッドキャップを地に沈めた。
《ウェポンチェンジ》は初めて使用したが、面白いな。《ウェポンチェンジ》が輝く場面は幾つかあるが……一番輝く場面は――対人戦だった。
短剣を装備したプレイヤーと対峙している時に、突然槍へと換装し間合いを突くのがよく目にする《ウェポンチェンジ》の活用法だった。
他には複数の魔物と戦っている時に、魔物の弱点属性に合わせて次々と武器を換装するのもテクニカルな戦い方として人気があった。
「え? う、うちの風威は!」
《ウェポンチェンジ》の存在を知らないメイが慌てふためく。
――《ウェポンチェンジ》!
そのままインベントリーから出しても良かったが、せっかくだからスキルを使って二本の短剣から風威へと換装した。
「――!? え? 何? 裏技?」
「裏技って……スキルだよ。トリックスターが習得する《ウェポンチェンジ》ってスキルだな」
「何か手品みたいだね!」
「楽しいだろ?」
「あはは! うん! 驚いたよ!」
俺の振る舞いが気に入ったのかメイは楽しそうに笑い声をあげる。
「ふむ……ヒナタ殿の魔法は凄いですな。全くの無傷ですぞ」
「いえいえ、新しい魔法を試してみたくなっただけです。回復しなくてもヒロさんなら余裕で耐えられましたよね」
ヒロアキとヒナタが互いを称賛し合う。
タンクとヒーラーとしてオーソドックスな進化を遂げたヒロアキとヒナタ。
アタッカーとしてヘテロドックス(異端)な進化を遂げた俺とメイ。
そして、俺たちを支えるクロ。
無限の可能性と未来が見える仲間たちと俺自身の成長に胸を踊らせるのであった。
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