情報(第二一階層)
待ち合わせ場所である正門前に到着したが、仲間たちの姿は見えない。どうやら俺が一番乗りのようだ。
目の前を行き交うプレイヤーをぼーっと眺めていると、メイの姿を視界に捉えた。
「おっ待たせー! って、あれ? リクだけ?」
「そのようだな」
「えへへ……うち、忍者になったよ! ニンニンニン♪」
「装備はそのままだから、見た目は一緒だけどな」
「そこよ! 忍者装束って言うの? 今度、ああいう防具買おうかなぁ」
忍者になったメイはかなり楽しそうだ。
「ねね!」
「ん?」
「あのプレイヤーが連れてるオオカミっぽいのが従魔?」
「だな。他にも……あの妖狐とかレアな従魔だぞ」
「うっわ! もふもふだね! 従魔いいなぁ……」
「成体をテイムすることは無理だが、『卵』を拾えば従魔登録は出来るぞ」
「どこで拾えるの?」
「オオカミの従魔は第二五階層の主が低確率でドロップするな」
「あのキツネはー?」
「レア枠の従魔は緊急クエストで上位になるか、特別なクエストを達成したら貰えるぞ」
「うへ……緊急クエストなんだ……。もう一つの特別なクエストって何ー?」
メイは従魔に興味津々の様子だ。
「通称、従魔ガチャクエストだな」
「え? 何それ?」
「第二六階層のヴィレッジで受けれるクエストなんだが、変わり者の爺さんの頼みを聞くと謎の卵をくれるんだよ」
「謎の卵?」
「何が産まれるか分からない正体不明の卵だな」
「あ! ガチャってひょっとして……」
「それで当たりの従魔が出るまでマラソンするのが、従魔ガチャクエストだな」
俺も当時はレア枠の大型従魔が欲しくて何度も何度もマラソンしたな……。
「そんなクエストあるんだね。ちなみに、何匹でも従魔は飼えるの?」
「飼うって……まぁ、いいか。従魔はテイマー職以外は一人一匹だな。テイマー職のみ上級職で2匹。最上級職で3匹登録することが出来るな」
「え? それじゃ、2匹目をお迎えする時は最初の子とお別れしなきゃダメなの?」
「それが出来たらいいのだが……」
「だよね……悲しくて別れられないよね」
「じゃなくて、すでに従魔を登録していると新たな卵は孵らないんだよ」
「え? どういうこと?」
「新たな従魔を迎えるときは登録している従魔を放逐する必要があるってことだな」
「次の子がイマイチだったら……?」
「泣いて後悔するしかないな」
「うわ! 鬼だね!」
「鬼のような仕様だよな」
愛する相棒と別れて……ハズレの従魔を引いた時の絶望感は言葉では表せない深い悲しみがあった。
そんな会話を続けていると、ヒロアキ、ヒナタ、クロの順番に姿を現した。
「ヒロアキとヒナタはわかるが、クロが遅いのは意外だったな」
「ちがうにゃ! めっちゃ混んでたにゃ! 火の神殿は大司祭を増員すべきにゃ!」
「あぁ……なるほど」
閑古鳥が鳴いていた風の神殿と違って、一番人気の火の神殿は大盛況だったようだ。
「その代わりと言っては何だけど、この街の状況もわかったにゃ」
「この街の状況?」
「そうにゃ。待ち時間に他のプレイヤーから情報収集をしたにゃ」
クロのコミュニケーション能力は侮れない。生産職であるクロはプレイヤー相手に多くの商売をしていた経験からか、俺たちの中では社交性が一番高かった。
「素敵なトピックはあったのか?」
「素敵なトピックと言われると困るけど、この前の緊急クエストは大きな犠牲を出すことなくAランクでクリアしたらしいにゃ」
「Sランクは逃したのか」
「話を聞いていると最初からAランク狙いだったみたいにゃ」
「ほぉ……Aランクと言うことは……」
「3分割するほど戦力がいなかったみたいにゃ」
俺たちが先日経験した第十一階層の緊急クエストでは護るべき防衛拠点の数が2つだったが、第二一階層のここだと護るべき防衛拠点の数は3つに増える。
「後、第三一階層の緊急クエストはBランクで、第四一階層の緊急クエストはSランクでクリアだったらしいにゃ」
「第四一階層でSランクと言うことは……」
「優秀な指揮官――百花繚乱みたいなニセモノじゃなく、ホンモノの大手旅団が存在しているみたいにゃ」
「ホンモノの大手旅団ね。名前は?」
「【青龍騎士団】にゃ。リクにぃは知ってるにゃ?」
「【青龍騎士団】? 聞いたことないな……」
旅団の名前を聞いてはみたものの、ソラだった頃は第五一階層未満に行くことは不可能だったので、第二一階層〜第五〇階層――所謂中階層の情報は何も持ち合わせていなかった。
「【青龍騎士団】って言う旅団は【百花繚乱】と違ってまともな旅団って認識でいいのかな?」
「中階層まではPKが出来ないから危険な旅団は存在しにゃいけど、噂を聞く限りはまともな旅団にゃ」
メイの質問にクロが安心させるように笑顔で答える。
「第四一階層にいるのなら順調に攻略が進めば……次の次の緊急クエストあたりで共闘するかもな」
俺は第五一階層までの道のりをシミュレーションし、予想を告げた。
「相手が第五一階層を目指せばすれ違いになるけど、第五一階層までいけば……全体を指揮する旅団は【天下布武】だから安心にゃ」
「いやいや、うち以外も【黄昏】とか【式姫】とか大手旅団は沢山あるだろ」
「うわっ! うちって言ったよ! 今リクは【天下布武】のことをうちって言ったよ!」
「本当にリクさんは『炎帝のソラ』様なんですねー」
「いや、そろそろ慣れろよ……ってか、遮断されている限りは俺はこの先もずーっとリクな」
呆れる俺の姿を見て、仲間たちが笑みを溢す。
「さてと、無駄話はこの辺にして行こうか!」
俺たちは正門を超えフィールドへと向かうのであった。
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