☆Xmas記念SS①
「めりーくりすます♪」
【天下布武】の旅団ホーム内で寛いでいると、ハイテンションのメグが乱入してきた。
「メグか……おはよう」
「ソラさん、はよーん♪ じゃなくて、めりーくりすます♪ だよ!」
「メグ、おはようございます」
「マイさん、はよーん♪ じゃなくてー! 今日はなんの日!」
「メンテ明けの新イベント解放の日だな」
「本日限定の特別なイベントが開催されるみたいですね」
「本日限定の特別なイベントね……今年に入ってから運営は迷走しているからな……今回のは大丈夫なのか?」
「うーん……記念アイテムも配布するみたいですが、事前情報通りなら性能に期待はできませんね」
「うわ……ダメだ……この二人……」
現在俺が寛いでいるのは旅団ホーム最上階に設置した執務室。メンテ明けはこの部屋で幹部連中と情報交換をするのが習慣になっていた。
執務室に今いるメンバーは――【天下布武】の団長である俺と、副団長のマイ。後は先程入室してきたメグの3人だ。
「ヒィィィハァァァァ! メッリィィィィ! クゥゥゥリッスマァッス!」
ハイテンションを通り越して、脳の構造が心配になる奇人――マックスが乱入してきた。
「マックス、おはよう」
「マックスさん、おはようございます」
「マックスさん、めりーくりすます♪」
「イェア! メグ、グッドガール! リーダーとサブリーダーはノンノンノン! ヒィィィハァァァァ! メッリィィィィ! クゥゥゥリッスマァッス! リピート、アフター、ミー! セイ!」
「……」
「……」
「あはは……ありがと」
「セイ! メッリィィィィ! クゥゥゥリッスマァッス!」
「マックスさん、お静かにお願いします」
「ノォォォオオ! メッリィィィィ! クゥゥゥリッスマァッス!」
「はいはい、メリクリ、メリクリ」
これ以上マックスの叫び声を聞くのは苦痛なので、俺は適当に挨拶を返した。
「リーダーのっ! ココロの中のっ! サンタクロースにっ! そんな声で届きますか!」
「届いてる」
「Fooooo! Yeahhhhhh! なら、よし!」
その後、ツルギ、ミント、セロが集まり、定例となっている情報交換を始めた。
「んで、今回のアプデで実装された新イベントってどんなのよ?」
自ら情報を集めることがないツルギがマイに尋ねる。
「今回は自動マッチングによるインタンスダンジョン形式のイベントのようです。運営からメールで配布された参加チケットを使用すると開始するみたいです」
自動マッチングとは、イベントにエントリーしたら勝手に見知らぬプレイヤーとパーティーを組まされるシステムだ。IGOには実装されていない仕様なので、今回のイベントは試験的な意味あいもあるのだろう。
インスタンスダンジョンとは、一時的に生成されるダンジョンだ。参加するパーティー毎に生成されるので、他のパーティーと遭遇することのない閉鎖的なダンジョンだ。
IGOでは階層主の部屋が擬似的なインスタンスダンジョン形式となっていた。
「自動マッチングに、インスタンスダンジョン? また、運営は変な仕様をぶっこんでくるな」
「新しく責任者になったディレクターが言うには、オンラインゲームを長期的に存続させるためには、プレイヤー同士の絆が不可欠である! だから、フレンドを作りやすい環境作りに心がける! ってことらしいねー」
ツルギの愚痴にミントが答える。
「今回のイベントには注意点が一つあります」
「注意点? 難易度が高いのか? つえーボスでもいるのか!」
マイの言葉に戦闘狂のツルギが興奮する。
「敵についてはアンデット系……と、のみ情報が公開されております。今までのイベントと大きく異なる点は――自動マッチングシステム。しかも、マッチングされる相手のレベルに制限はかからないとのことです」
「ん? レベルに制限がかからないって……レベル1のプレイヤーとマッチングする可能性もあるってことか?」
「あ、すいません。一応参加資格はレベル10からみたいです」
ここにいる幹部プレイヤーのレベルはIGO内では上限値となっている70だ。近々レベルキャップの解放があるという噂は耳にしていた。
「は? ありえねーだろ! 今年の4月から階層ごとにレベルの上限と、レベルによる立ち入り規制が実装されただろ!」
「そうですね。その仕様もフレンドを作りやすい環境にするのが目的だと、公表していましたね。今回のイベントはインスタンスダンジョンで行うから、立ち入り規制には引っかからないのでしょう」
「にしても……だ! レベル10のプレイヤーと俺たちだと強さが違いすぎるだろ! どうやってバランス取るんだよ!」
レベル10と言うか……レベル60未満のプレイヤーであれば、今俺たちが相手しているモンスターと戦えば、即座に消滅するだろう。逆に言えば、レベル60未満のプレイヤーが相手できるようなモンスターであれば、俺たちからすれば、歯ごたえがない……どころではなく、ただの戯れになってしまう。
レベル60未満――上級職以下のプレイヤーと、レベル60以上――最上級職のプレイヤーの間にはそれだけ画一したステータスとスキルの差がある。
「ツルギさんの言う問題を解消するために……全員が同じクラスで同じレベルのキャラクターになるようです」
「は? どういう意味だ?」
「運営からの説明によれば、全員が『ブレイバー』と呼ばれる全ての武器を扱うことができ、攻撃魔法も回復魔法も扱える万能なクラスに転職して挑むイベントとなります」
「つまりは……PSが試されるイベントってことか?」
「見知らぬプレイヤーと二人、初めてのクラスで挑戦するのが、今回のイベントとなります」
「また……ややこしいイベントを……ハッ! 上等じゃねーか!」
「マッチングするプレイヤーによっても難易度は大きく左右されそうだねー」
「Fooooo! Yeahhhhhh!」
「マッチングする相手の運も含めて実力の内ってことなのかな?」
「運も実力か……笑わせやがる」
なんやかんやでツルギをはじめ、幹部連中は期待に満ちた表情を浮かべる。
「一度失敗すれば再挑戦は不可、とのことです。皆様、ご武運を」
「パートナーが消滅してもイベント失敗みたいだから注意してねー!」
「野良パーティーみたいなもんだろ? とりあえず、新イベントを楽しもうとしようか!」
俺は初の試みとなる新イベントに胸を踊らせるのであった。
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