☆Xmas記念SS②
俺はコンソールを操作し、運営から受信したメールに添付されていたアイテム――『聖夜の招待状』を使用。すると、視界は暗転し、全身が浮遊感に包まれた。
アイテムを使用すると同時に強制転移かよ……。
転移は5秒ほどで終わった。
――ッ!? 眩しいな……。
視界には眩い光――白い大地に照らし返された太陽の光が飛び込んできた。
……雪原?
転移した先は白銀に輝く雪原の大地だった。
えっと……どうすればいいんだ?
周囲を見回せば、一軒の
あそこに向かえばいいのか?
俺はズシリと沈む雪を踏みしめながら、山小屋へと向かった。
「……あっ」
山小屋の中に入ると、一人の女性が椅子に座るでもなく……不安そうな表情で佇んでおり、俺の姿を見て小さく声を漏らした。
この女性が今回のイベントのパートナーなのか?
「はじめまして。ソラです」
俺はプレイヤーネームを名乗り、女性プレイヤーに挨拶をする。
「あ、はじめまして。私はアイリスです」
女性プレイヤー――アイリスが俺の挨拶に応える形で返事をしてくれた。
「アイリスさんは、今回のイベント内容は知ってる?」
「は、はい! こちらの紙に書いてありました」
アイリスの視線の先――机の上には2枚の紙が置かれていた。俺はその紙を手に取り、記載されていた文章に目を通す。
『メリー・クリスマス!
聖夜の特別イベントにご参加頂き、ありがとうございます。参加者各位は、パートナーと共に、地図に記載された2箇所のチェックポイントを周り、最後にイベントボスを討伐して下さい。
装備品各種は、こちらの部屋にご用意致しました。ご自由にお使い下さい。
最後に、どちらか一人が倒れたら今回のイベントは失敗となります。やり直しは効かないので、パートナーと仲良く協力してクリアを目指して下さい。
それでは、最高の聖夜になることを祈っております。
IGO 運営チーム』
一枚目の紙にはイベントのルールが記載されており、二枚目の紙は地図だった。地図に記された2箇所の★を周り、最後にBOSSと記された場所に向かうのが、クエストの大まかな流れのようだ。
イベント内容はマイから聞いた話通りだな。
今回のイベントをクリアするための最大のポイントは――パートナーの生存だな。
「アイリスさんのクラスを教えてもらってもいいかな?」
クラスを聞けば、ある程度のプレイスタイルを把握することができる。
「は、はい! えっと……『騎士』です! レベルは18です!」
んー……レベルは敢えて聞かなかったのだが……答えちゃったか……。
クラスを聞けばおおまかなレベル帯は把握できる。今回のように低レベルのプレイヤーだったら、こちらのレベルを伝えると萎縮する可能性がある。だから、クラスのみを聞いたつもりだったのだが……。
んー……俺だけレベルを伝えないのは、不自然だし……失礼だよな?
「えっと……俺は――」
「『デストロイヤー』でレベル70! 【天下布武】のソラ様ですよね!」
――!?
俺の職業はプロゲーマーだ。日銭を稼ぐために動画を投稿することもあれば、スポンサーの広告に出演することもあるので、インターネットを通して世界中にこのキャラクターを晒していた。
「知り合い……ではないと思うから、俺の動画を見てくれたことがあるのかな?」
「はい! ソラ様の動画は全て閲覧しています! あと、『天下布武』の小説も大好きです!」
小説……? そういえば、旅団メンバーの一人が何やら許可を求めてきて、面倒だからマイに丸投げしていたな。
「ははは……ありがとう。小説の『天下布武』は旅団メンバーが書いてるやつだな」
「『天下布武』は絶対に書籍化すると思います! あと、コミカライズとアニメ化も狙える大作です!!」
「そ、そうなんだ……」
俺はアイリスの異常な熱量に後退りする。
「あ、ごめんなさい……私ってば……憧れのソラ様が目の前にいたので、つい……」
「ははは……気にしなくていいよ。今日に関しては、アイリスさんは俺のパートナーだ。ソラでいいよ」
「そ、そんな……わ、私が……ソラ様を呼び捨てなんて……無理……無理です!」
「なら、せめて……様付けだけはやめてくれないか?」
「うぅ……分かりました……それでは、ソラさ……んとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「うん。アイリスさん、よろしく頼む」
プロゲーマーは俺が自ら選んだ職業とは言え……今回のような過剰な反応は本当に勘弁して欲しい。
勝手にイメージを抱き、失言をすれば炎上する。そうなるとスポンサー企業に叱責され、俺の収入は激減してしまう。
んー……俺が選んだ道とは言え……今度、正体を隠す仮面でもオークションで落札してくるか……。
「とりあえず、アイリスさんは普段はタンクってことでいいのかな?」
「はい! マイ様には遠く及びませんが……!」
「アイリスさんには慣れているタンクをお願いしてもいいかな?」
「はい! 誠心誠意頑張ります!」
アイリスがタンクなのはラッキーだった。一番の当たりはヒーラーだったが、タンクもヒーラー同様に行動は限られている。アイリスが死なないように立ち回ることは、可能だろう。
俺が部屋に備え付けてあった大剣を手に取ると、アイリスも慌てて槍と盾を手に取った。
「それじゃ、よろしく! 作戦は――命大事に!」
「はい! よろしくお願いします!」
俺はアイリスと共に山小屋を後にし、白銀に輝く雪原へと足を踏み出したのであった。
◆
その後、アイリスには俺の知りうる限りのタンクとしての知識を教えながら、チェックポイントを回り……最後にはイベントボスとして設定された赤い服を着たリッチを討伐した。
「報酬はこの指輪なのか?」
指輪はチェックポイントに設置されていたもので、装備しないとリッチにダメージを与えられないというキーアイテムだった。
付与された効果は『呪い無効』、『不死種特攻』に僅かなステータス向上。中階層までであれば……使えなくもないが、今の俺には不要の長物だった。
まぁ、コレクションアイテムだな。
「はぁー楽しかったです! ソラさんとパーティーが組める日が訪れるなんて……まるで夢のようでした」
「ははは……大袈裟だな。第五一階層まで来ればいつでもパーティーは組めるだろ」
「え!? 本当ですか!」
「頻繁にはしてないが、気分転換に冒険者ギルドで野良募集をすることはあるから、俺はそんなにレアキャラじゃないぞ?」
「えー! 本当ですか? じゃあ、私が第五一階層に到達したら、また一緒にパーティーを組んで下さい!」
「ハハッ! 楽しみにしてるよ」
表情をコロコロと変えるアイリスに、俺は笑顔で応えた。
「それじゃ、そろそろ帰ろうか」
「はい……。ほんとうに……夢のような時間でした」
「俺も斬新なプレイスタイルを試せてたから、楽しかったよ」
今回のイベントはアタッカー兼ヒーラーと、どこぞの
「今年は忘れられない最高のXmasでした! 本当にありがとうございました!」
「アイリスさんが第五一階層に到達する日を待ってるよ」
「あ! ソラさん! Happy Mery Xmas!」
「ハハッ……メリークリスマス」
雪明かりに照らされたアイリスの笑顔は輝いて見えたのであった。
―――――――――――――――――――――――
(あとがき)
メリークリスマス♪
トプセカ初のSSはいかがだったでしょうか? 新作を書いていたら、何故かトプセカの執筆スピードが上がったという謎現象に襲われ、戦闘シーンもガッツリ書いたのですが……1万字を超えてしまい……SS(ショートストーリー)じゃないな……wと、泣く泣くカットした事情もありました……w
読者様からの応援が何よりのモチベーションになっております。今後も本作、新作共に応援よろしくお願い致しますm(_ _)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます