パーティーへのお誘い
ヒナタからの突然の誘いに、俺は暫し考え込んでしまう。
「や、やっぱり……ダメでしょうか……」
黙り込んだ俺を見てヒナタは落胆する。
オンラインゲームのパーティーには二種類ある。
一つは、野良パーティー。
これは、主に冒険者ギルドに掲載されている募集掲示を通じてパーティーを結成する、一度きりの臨時パーティーだ。
もう一つは、固定パーティー。
これは、理由は様々だがふとした出合いのきっかけに意気投合したり、元々の知り合い同士が末永く組み続けるパーティーだ。
今回のケースのようなパーティーの誘いは、恐らく後者だ。
リクは当面ソロ活動を続ける予定だった。ある程度の階層まで行ったら、野良パーティーに紛れ込んでソラでは味わえなかった一期一会の出会いを楽しむつもりだったが……。
「いや、そういう訳では無いが……少し待ってくれ」
俺は落胆するヒナタに思考する猶予の時間が欲しいと伝える。
「は、はい! 突然こんなこと言われたら驚きますよね!」
ヒナタは満面の笑顔を浮かべる。
固定パーティーを組んだ場合のメリットとデメリットを頭に浮かべる。
デメリットは足並みを揃えること。固定パーティーを組んだら俺だけが突出して、先に進むことは出来ない。仲間――初心者であるヒナタと足並みを揃える必要がある。
それは、リクの成長を大きく阻害することを意味していた。
メリットは……何だ? ヒナタは恐らくヒーラーになるから、今後ヒーラーの仲間には困らない。ヒーラーはパーティー募集で人気の役割だ。とは言え……リクは回避主体のキャラクターにする予定だ。リクに回復の需要はあるのか?
様々なメリットとデメリット――主にデメリットが頭の中を駆け巡る。
――!?
俺は一つの真理に辿り着いてしまった。
オンラインゲームでパーティーを組むメリット――否! 理由は何だ?
共に楽しむ為だろ?
そもそも、IGOとは何だ?
VRMMO――ゲームだ。
ゲームは何の為にする?
楽しむ為だ!
俺は効率だけを考えていたことに気が付いた。
ソラは効率を追求し、常にこの世界のトッププレイヤーであることを求めてプレイした。
これも一つの楽しみ方だとは思う。
しかし、俺は初めてプレイしたオンラインゲーム。VRMMOではない、普通のMMOだったゲームをプレイしていた頃を思い出す。
効率もセオリーも何もない。仲の良いフレンドと一緒に馬鹿みたい騒ぎながらゲームの世界を楽しむ。効率もセオリーも求めないが故に得られる達成感。ゲームをゲームとして楽しめていた日々がそこにはあった。
効率を求めるプレイはソラだけで十分だ。
せっかく新たに作成したもう一人の俺――リクが効率を求めてプレイしても、行き着く先はハズレ属性である風属性となったソラだ。
リクは自由に――非効率を楽しむのも悪くない。
俺はヒナタの誘いに対する答えを見出した。
「わかった。パーティーを組もう」
「ほ、本当ですか!」
「あぁ。しかし、その前に確認したいことが一つある」
「何ですか?」
ヒナタは笑顔のまま首を傾げる。
「わたし"たち"と言ったよな? すでにパーティーを組んでいるプレイヤーがいるのか?」
これで実はわたし"たち"の該当者が数十人いて、実は旅団の誘いだった……とかだと、目も当てれない。
「あ!? はい! 一人います!」
「その人は今回の誘い――俺とパーティーを組むことに異論はないのか?」
「それは大丈夫だと思いますよ!」
ヒナタは自信満々に答える。
初心者がここまで断言出来ると言うことは、リアルの知り合いか?
まさか、彼氏とかじゃないよな?
恋人同士、或いは夫婦でIGOを楽しむプレイヤーは少なからず存在する。しかし、ゲームの世界に恋愛事情を持ち込むと往々にして悲惨な未来へと繋がる。
これは、断るべきか?
流石に恋人同士で組んでいる固定パーティーに参加するのは、非効率とかは別にして楽しくない。
「その人は、今回は一緒じゃないのか?」
「はい。えーっと……そのプレイヤーは何て言えばいいのか……今はお風呂に入っていまして……」
ヒナタは声を詰まらせながらボソボソと答える。
「お風呂……?」
やはり彼氏か?
今回の誘いは断ろう。と、決意したその時。
「はい……えっと……実はそのプレイヤーと言うのが……わ、私の妹でして……」
「い、妹?」
「はい。だ、ダメですか?」
ヒナタは捨て犬のような潤んだ瞳で俺を見る。
「いや、ダメと言う訳ではないが……」
姉妹や兄弟でIGOをプレイしているプレイヤーも少なからず存在している。肉親の場合は恋人同士と違って大きな地雷要素にはならない。
「本当ですか! よかった……あ!? そうだ! もう少しで妹――メイもログインすると思うので紹介しますね!」
こうしてリクはログイン一日目にして固定パーティーを組むことになったのであった。
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