作戦会議(蛟編)

「第一〇階層への攻略は明日から開始する」

「うん!」

「はい!」

「承知!」


 話も纏まったので、具体的な作戦会議を行うことにした。


みずちまでの道中では、警戒する程の危険なモンスターは存在しない」


 ヒナタとメイが真剣な表情で俺のレクチャーを聞く中。


「リク殿、少しよろしいですか?」

「どうした?」

「リク殿は何故そこまで詳しいのですか?」


 そういえば、リクがセカンドキャラであることをヒロアキには説明していなかった。


「ハッ!? べ、別にリク殿を疑っていると言う訳ではなく……むしろ、私はリク殿に全幅の信頼を寄せており……いや、私の寄せるのは信頼だけでなく……全てを! この身も! 心も! リク殿に――」

「ヒロ、落ち着け」


 少しの間を空けたことにヒロアキは別のことを想像したのか、慌てて言葉を捲し立てる。


「俺が先の展開に詳しいのは、俺――つまり、リクはセカンドキャラだからだ」

「な、何と……!? 元団長と同じでしたか」

「まぁ、そうなるな」

「もしや、リク殿も有名なキャラクターだったのですかな?」

「んー……どうだろうな? 仮に俺が有名なプレイヤーだったとしても、それを証明することは出来ない。ついでに言えば、『百花繚乱』の団長のメインキャラクターが『ソラ』と言うのは詐称だ」

「な、何と……!?」


 俺の言葉にヒロアキが驚愕する。


 ヒロアキの反応が一般的な反応であるなら……多くのプレイヤーは"偽物タック=ソラ"と認識していることになる。


「しかし、俺は『百花繚乱』の団長が詐称をしていることを証明出来ない。まぁ、向こうもメインキャラクターがソラであることを明確に証明出来ないけどな」

「むむ……私は騙されていたのですな……面目ない」

「つまり、何が言いたいかと言えば……俺のメインキャラクターが誰であれ、それを証明出来ない以上は何を言っても無意味と言うことだ。故に、何も言わない」

「私はリク殿のメインキャラクターが仮に『炎帝のソラ』と言われても信じますぞ!」


 ――!


 ヒロアキの言葉に俺の心臓が跳ね上がる。


「ハハッ。ありがとう。いずれ、俺のメインキャラクターが誰なのか証明出来たら、教えるよ」

「でも、証明ってどうするの?」


 メイが会話に割って入る。


「第五一階層に到達すれば、かつての仲間とも会えるだろう。そうしたら、そいつの言葉が証明になるだろ?」

「その人はリクさんに気付くでしょうか?」

「以前の俺を知っている仲間なら……仲間内でしか知らないネタは沢山あるからな」

「なるほど! 第五一階層に到達する楽しみが、また一つ増えましたね!」

「別にそんな証拠はなくても、うちは信じるから今言ってもいいんだけどね! そのメインキャラクターをうちが知っている可能性は少ないけどね」


 俺の言葉にヒナタとメイが楽しそうに笑う。


 俺の正体――『天下布武』の団長ソラであることを告げるか……。


 信じてはくれるかも知れない……。しかし、多くのプレイヤーが"タック=ソラ"と信じている今、それを告げるのは大きな軋轢を産むことになるだろう。


 それに、ヒナタもメイも……多分ヒロアキも、今の俺を信じてくれている。


 それなら、俺の正体を明かしたところで何のメリットも生まれない。


 故に俺は――


「ハハッ。楽しみは第五一階層までお預けだな」


 正体をはぐらかすのであった。


「さてと、本題に戻ろうか」


 俺は逸れた筋道を本題へと戻す。


「えっと……どこからだ? 道中のモンスターか。注意するのは毒攻撃くらいだ。それも、ヒナタがいれば問題はない」

「はい! 頑張ります!」

「厳しくなるのは階層主である蛟との戦闘だな」


 俺はその後、以前話した蛟の特徴を説明。そして、いよいよ本格的な作戦会議へと移る。


「蛟討伐でキーとなるのはヒナタの生存だ」

「は、はい! 頑張ります!」

「そして、そのヒナタを生存させるキーとなるのがヒロだ」

「大役、果たしてみせます!」


 今回のキーパーソンである二人は真剣な表情で力強く頷く。


「二匹の眷属は倒しても意味がない。ヒロはキツイと思うが、ヘイトコントロールを切らさず、耐え続けてくれ」

「承知!」

「ヒナタの役割は、ヒロアキのHP管理。そして、俺とメイの状態管理だ」

「はい! 頑張ります!」

「そして、メイ」

「うん」

「俺たちの役割は一秒でも早く蛟を討伐することだ。HPが減ったら、すぐに後退し自己回復」

「わかった」

「俺とメイが同時に瀕死になったら、負け確定だ」

「うぅ……頑張るよ!」

「最初は俺の動きを観察して敵の予備動作を勉強してくれ」

「オッケー! うちも早めに攻撃に参加するから!」

「期待している」


 タンクはアタッカーとヒーラーを信じて耐え抜く。ヒーラーはタンクを信じて、回復に集中する。そして、アタッカーは仲間の補助を受けて攻撃する。


 互いの信頼度が試されるのが、パーティープレイだ。


 ヒナタとメイは信頼出来る仲間だ。ヒロアキも、恐らく信頼出来る仲間になるだろう。


「それじゃ、出発だ!」


 俺たちは第十階層目指して、出発するのであった。

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