vs蛟①
ヒロアキが仲間に加入してから二日後。
連携訓練を兼ね、遭遇した敵を殲滅しながら第九階層を踏破。
足場が泥濘んだ湿地帯で構成されている第一〇階層へと辿り着いた。
「もぉー! 何で前回はあんなにも出なかった月影がポロッと落ちるのよ!」
「物欲センサーだろ?」
「嬉しいけど、嬉しくない! この気持ち分かる!」
「ゲーマーなら、誰しもが理解出来る感情かもな」
俺は行き場のない感情を爆発されるメイに苦笑する。
「さてと、気持ちを切り替えるぞ」
「はーい」
「この階層は湿地帯で、大小様々な水溜りも多い。
各自、まずはこの足場での移動に慣れてくれ」
鬱蒼と生い茂った膝丈までの草と、少し
「うへ……歩きづらいね」
メイがその場で足踏みをして、舌を出す。
「泥濘んだ地面もですが……この草も邪魔ですよね」
ヒナタは膝丈まで伸びている草を手で払う。
「慣れるしかないですな」
ヒロアキは周囲を見回して覚悟を決める。
「慣れ以外にも、対応方法があることにはあるが……」
「え? あるの! 先に言ってよ!」
「方法は二つだな。一つは、地面を焼き払う」
「え?」
「すると、地面は焦土と化して歩きやすくなる」
「かなりの力業だね……」
伝えた対応方法にメイが乾いた笑いを漏らす。
「このやり方は一番ポピュラーな方法だぞ」
「え? そうなの」
「火属性は一番人気の属性だからな」
この世界には、アタッカー、タンク、ヒーラー、バッファー、デバッファー、スカウト(斥候)と様々な役割があるが、プレイヤー人口が一番多い役割はアタッカーだ。
そして、アタッカーの中で一番多い属性が火属性。故に、火属性のプレイヤー人口はこの世界で最も多い。
「なるほど。でも、うちらのパーティーには火属性いないから無理じゃん!」
「一応、こんな感じでアイテムによる代用も出来るが……現実的ではないな」
俺はゴブリンがドロップする火炎壺を取り出して、地面に放り投げる。燃え盛る炎が鬱蒼とした草を燃え尽くし、炎が鎮火すると泥濘んだ地面は焦土と化していた。
「火炎壺は拾ったのいっぱいあるけど……無限にある訳じゃないもんね」
メイはため息を吐いた。
「二つ目の方法は、火属性プレイヤーがいないパーティーの急場しのぎ的な対応だ。効果も焦土化よりもイマイチだ」
「それで、どういう方法なの? うちらでも簡単に出来るの?」
「喜べ、メイでも簡単に出来る」
「それで、方法は!」
「――草を刈る」
急かすメイに俺は答えを告げた。
「は?」
「だから、草を刈るんだよ。メイの武器は鎌だろ? 草刈りには最適だろ?」
「鎌は鎌でも、鎖鎌だよ!」
「ちなみに、この方法は……実践しているプレイヤーは動画でしか見たことはないが……風属性が最適らしい」
「そうなの?」
俺のメインキャラクターは火属性だ。焦土化作戦が可能だったので、二つ目の対応方法はあくまで聞きかじりだった。
「見てろよ? ――《ウィンドカッター》!」
放たれた風の刃が纏めて草を刈り取った。
これで絡みつく草の問題は解消され、刈り取った草が泥濘んだ地面を覆うので、多少は歩きやすくなる。
「どうだ?」
俺は刈り取った草で出来た道を歩くメイに声を掛け、その後俺も自身の作った道の歩き心地を確かめる。
普通の地面と比べると歩きづらいが……改善はされているかな?
「何もしないよりは歩き易いかな!」
「うんうん! かなり快適ですよ!」
「リク殿の築いた道……ッ!」
ヒロアキの反応はよく分からないが、メイとヒナタは草の道に満足している様子だ。
「道は適時俺が造るか……」
「よろしくね!」
「よろしくお願いします!」
「疲労が溜まったのなら、リク殿を抱える所存!」
「抱えられる程、疲労はしねーよ」
俺はヒロアキの言葉に苦笑を浮かべるのであった。
◆
第一〇階層の攻略を開始してから三日目。
目の前には視界の閉ざされた濃い霧の壁が立ち込めていた。
「この霧の先が
「うちはリクの動きを最初に見て……そこからは攻撃に集中すればいいんだよね?」
「私はヒーラーの役目を全うします!」
「この命に賭けて、ヒナタ氏を護る盾になる所存!」
全員が各々の役割を復唱する。
「一つ、言い忘れがあった」
「なに?」
「何でしょうか?」
「お聞かせ願います」
「蛟の突進だが、攻撃範囲がかなり広い」
「うん」
「だから、俺とメイ、ヒロアキとヒナタが直線上に重ならないように、位置取りを注意してくれ」
「ゔ……頑張るけど、ヒナたちの位置を確認する余裕あるかな……ちょっと不安だよ」
「そうだな……突進のモーションに入ったら合図をするから、俺とメイは左側に回避。ヒロアキとヒナタは右側に回避してくれ。それなら、重なり合う事態は避けれるだろう」
ソラの頃に挑んだ時に失敗した経験が、前衛、後衛共に同じ方向に回避し……結局重なってしまったことだった。
「了解!」
「はい!」
「承知!」
仲間たちが力強く返事をする。
「それじゃ、行くとするか!」
俺は目の前に広がる霧の奥へと足を踏み入れるのであった。
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