第四〇階層攻略②

 「拙僧せっそうが最後であったか。お待たせして申し訳ない。イセと申す。お見知りおきを」


 奇抜な見た目とは裏腹にイセは丁寧な口調で頭を下げる。


 強烈なプレイヤーの登場に一同が唖然としていると……


「ハッハッハ! ご安心召されよ! こう見えても拙僧は僧侶経由のモンクゆえ、回復はお任せくだされ」


 違う……唖然としていた理由はそこじゃない……。とは言え、ヒロアキがせっかく誘ってくれたフレンドだ。礼節を欠いては、ヒロアキのメンツを潰してしまう。


「はじめまして。ヒロの仲間のリクだ。今日はよろしく頼む」


 俺は平然を装ってイセに挨拶をする。


「ほぉ……貴殿がヒロたんが全てを捧げし愛しの――」

「イセ殿……ッ!」

「ハッハッハ! ヒロたん、すまん、すまん。ようやっとお会いできたリクたんに心が昂ぶってしまったようだ」


 楽しそうに戯れ合うヒロアキとイセ。俺のSAN値はごりごり削られるが、二人の仲は良好のようだ。


 俺に続いて仲間たちも自己紹介を済ませた後、打ち合わせをするために近くの飲食店に入った。


「改めて第四〇階層攻略の誘いを受けてくれたことを感謝する」

「いいってことよ! 私とアケミもそろそろ第四〇階層を攻略しようと思っていたからな」

「拙僧も同じですな」

「そう言ってもらえると助かる。ところで、ここにいる全員は第四〇階層――スイッチダンジョンの仕掛けは理解している……と、思っていいかな?」


 集まった仲間の顔を見回すと、全員が首肯する。


「ならば、スイッチダンジョンの説明は不要だな。知ってのとおり、第四〇階層を攻略するにはパーティーを2つに分ける必要がある。そのことについて話し合いを進めてもいいか?」


 俺の言葉に全員が首肯する。


「役割が被らないようにパーティーを振り分けるのが定石だが、連携の面も考慮して……組み慣れているメイ、ヒナタ、カナメさん、アケミさんのパーティーと、ヒロ、イセさん、クロ、俺のパーティーに分けるのが手っ取り早いと思うが、どうかな?」


 役割、戦力的に見ても完璧な振り分けだと思う。


「おっけー! うちは問題ないよ」

「私もリクさんの案に賛成です」

「了解にゃ」

「成長した私の姿をリク殿にお披露目ですな」

「ヒロたんとリクたんのコラボレーションをこの目で確認できるとは……僥倖ですな」


 メイ、ヒナタ、クロ、ヒロアキ、イセの5人は俺の案に賛同してくれたが……


「んー……できれば私は噂のリクさんと組んでみたいなー」

「メイさんとヒナタさんがあれ程言うリクさんの実力を肌で感じてみたいですわ」


 カナメとアケミの二人は俺とパーティーを組みたいようだ。


「別に構わないが、そうなるとパーティー編成は……」

「むむ? 拙僧もヒロたん一推しのリクたんとはパーティーを組みたい所存」


 カナメとアケミの要望を聞き、パーティー編成を再考しているとイセも要望を出してきた。


「ん? そうなると……俺、カナメさん、アケミさん、イセさんの四人になるのか? カナメさんは騎士経由の竜騎士、イセさんは僧侶経由のモンクならば……バランスとしては悪くないのか?」


 アタッカー寄りのタンクに、アタッカー寄りのヒーラー。後は後衛の純アタッカーの魔導師に、アタッカー寄りの斥候か……。攻撃に特化したパーティー編成だが、第四〇階層なら問題ないだろう。


「そうなると、こっちはボク、メイねぇ、ヒナねぇ、ヒロにぃの四人だにゃ」

「タンクとヒーラーがバラけて、知識担当の俺とクロもバラけたから……バランスはいいのかもな」

「むむ……私もリク殿と同じパーティーを希望ですぞ!」

「ヒロたんはこの先もリクたんとこの先もずっと一緒では?」

「そうですぞ! 我が魂はリク殿に捧げた故!」

「ならば、今回は拙僧らにお譲り下され」

「むむ……リ、リク殿は大丈夫ですかな?」

「ん? 特に問題な」

「――!? か、畏まりましたぞ……このヒロアキ! ここは断腸の思いで身を引きますぞ!」


 他に異論も出なかったので、パーティー編成は決定。俺たちは第四〇階層へと向かうのであった。



  ◆



 第四〇階層はダンジョンタイプの階層だ。


 入口から進んですぐに二又の道に分かれる構造となっていた。


「ダンジョンタイプなのですね。久しぶりにユリちゃんに会えると思ったのに残念ですわ」

「私のコドラも出番はお預けかぁ」

「あ! ユリもお二人に会いたがっていたので、一度喚びますね! ――《召喚》!」


「ユリリィィィイイン!」


 五芒星の中からピンクのたてがみをなびかせるユニコーンが現れる。


「ブルルッ!」


 ユリコーンは現れるや否や、カナメとアケミの近くにいた俺を角で押し退け、


「ユリリ」


 カナメとアヤメに顔を擦りつけて甘える。


「あははっ! ユリ! 久しぶり!」

「ユリちゃん、くすぐったいですわ」

「ハッハッハ……痛いぞ、駄馬。ヒナタ、即座にかえせ」

「ユリ! コラッ! 止めなさい!」


 角で俺を牽制するユリコーンをヒナタが叱咤する。


「ユリリ……」

「ダメです! リクさんを……プレイヤーを攻撃したらダメだと何度も言いましたよね?」

「ユリ……」

「そんなカワイイ声を出してもダメです! これは約束ですからね!」

「ユ、ユリィ……ッ!」

「ちゃんと反省するんですよ? ――《帰還》!」

「ユリリィィィ……」


 ユリコーンは悲哀に満ちた雄叫びをあげながら、光の粒子となって霧散した。


「お、厳しくなったな」

「はい。ユリちゃんのためにも甘やかせません」

「にしし……ユリは前に同じパーティーを組んだ男性プレイヤーを妨害しまくったからね」

「そんなことがあったのか」

「あのときは大変でした……」


 ヒナタが当時を思い出したのか、表情を曇らせる。


「次に会うのは3日後だな。定時連絡は24時間でいいか?」

「了解にゃ」

「それじゃ、先に進むとするか!」


「「「おー!」」」


 俺たちは二組のパーティーに分かれ、二又に分かれた道を進むのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る