第三〇階層最奥へ

 新たなスキルの練習を終えた俺たちは第三〇階層の主――死神討伐を目指し、出発した。


「俺だけ御者が出来ないのは……何とも申し訳ないな」


 現在はクロが御者を務めるユリコーンの牽く馬車に揺られながら、何度目かになる愚痴を溢す。


「ユリちゃん、リクの言うことだけは絶対に聞かないから仕方ないよね」

「私がリク殿の代わりに御者を務めますぞ!」

「何度もお願いしているのですが……それだけは頑なに聞いてくれないんですよね……」


 俺の愚痴を仲間たちがフォローしてくれる。


「ユリコーンに関してはどうこう言っても解決しないからな……ツマラナイ愚痴をすまなかった」

「あはは! リクにもどうしようも出来ないことあるんだね」

「出来ないことの方が多いだろ? ヒナタのように仲間を回復させることは出来ないし、ヒロのように仲間の盾になることも出来ないし、クロのように仲間の装備品を鍛えることも出来ないからな」


 俺に出来ることは限られている。だからこそ仲間が必要なのだ。


「んん? うちの名前だけないよ!」

「ん? メイのように……何だ? ムードメーカーになることはできない……とか?」

「とか? って、何で疑問系なのさ!」

「俺とメイは同じ盗賊系だから、役割が被るのは仕方ないだろ」

「むぅ……」

「ま、まぁ……あ! そういえば、今から戦う死神ってどういう敵なのですかー?」


 気まずい空気を察知してヒナタが別の話題を振ってきた。


「死神は厄介な敵だが……このパーティーなら楽勝かな?」

「え? そうなのですか?」

「このパーティーと言うか、不死属性に絶対的なアドンバンテージを持つ巫女――ヒナタがいるからな」

「え? そうなのですか!?」

「死神の厄介なスキルにスケルトン召喚があるけど、《結界・破魔》があれば即浄化出来るからな」

「と言うことは、多重結界で《結界・快》をヒロさんを癒やしながら、《結界・破魔》でスケルトンを浄化すればいいのでしょうか?」

「大まかな作戦はそんな感じだな」


 俺はソラの頃に戦った死神の特性を思い出しながら、ヒナタの質問に答える。


「わぉ! ってことは、次はヒナが主役だね!」

「主役と言っても過言じゃないな。第三一階層の冒険者ギルドには巫女の募集が溢れているぞ」

「そうなのですか!?」

「死神のドロップ品は有用なレアが多いからな。死神狩りの募集はかなり多いと思うぞ」

「ドロップする素材も有用にゃ! 死神のドロップする素材から色々な闇属性の装備品を錬成することが出来るにゃ!」


 こちらの声が聞こえたのだろう。御者をしているクロが大きな声で会話に参加してきた。


「強化するのにも死神のドロップ品が必要だったよな?」

「そうにゃ! 死神マラソンは中階層の流行りにゃ!」


 闇属性の装備品は黒をベースとしており、デザイン的にも人気のある装備が多かったので、強化するための素材も高値で取引されていた。


「募集かぁ……そういえば、うちはこの世界だと野良パーティーに参加したことないなぁ」

「野良パーティーと言うのは、一期一会のパーティーでしたか?」

「そうだよ。野良パーティーはオンラインゲームの醍醐味だったけど、最初の印象が最悪だったからね」


 メイとヒナタは最初のパーティー募集で3回連続して直結厨と遭遇したトラウマを抱えていた。


「それを言うなら俺もリクになってからは野良パーティーの経験は0だぞ」


 俺――リクもキャラクターを作成した日にヒナタとメイの姉妹と固定パーティーを組んだ経緯から、野良パーティーは経験していなかった。


「ソラ様だった頃はどうなの?」

「ソラだった頃は……結構あるかな?」

「え? ソラ様が冒険者ギルドで募集とかしていたの!?」

「気分転換とか、旅団メンバーとスケジュールが合わない時は結構募集していたな」

「うわっ! 驚かれたりしなかったの!」

「んー……どうだろうな? 過剰な反応をするプレイヤーもいたが、どちらかと言えば顔見知りのフレンドですぐに募集が埋まったな」


 俺自身は一期一会の野良パーティーは結構好きだった。時々、地雷プレイヤーと言われるどうしようもないプレイヤーと当たる時もあったが、それも後の笑い話になると思えば、楽しむことが出来ていた。


「野良募集かぁ……」

「第三一階層に到達しても、死神から幽冥をドロップするまでは死神マラソンをするだろ?」

「うん」

「死神のリポップは3日に1回だから、空いた2日間は自由行動にして野良パーティーにでも参加するか?」

「え? それって別々に行動するってこと……?」

「んー……いきなり全員別行動は慣れないヒナタが可愛そうだから、メイとヒナタの二人で募集するとか?」

「――! つまり、私はリク殿とペアですな!」


 何故かヒロアキが凄い角度から会話に参加してきた。


「ヒロも野良パーティーの経験はないのか?」

「ハッハッハ! 無論、ありますな!」

「あるのかよ……。なら、タンクなら募集もあるだろうから一人でも大丈夫だろ」

「むむ……しかし、そう言われると……」

「別にヒロと一緒なのが嫌とは言っていない。二人でサクッと募集に入れれば問題ないが……」

「あ、そっか……」


 メイが俺の言いたい言葉を察する。


「風属性の俺は中々パーティーが組めないんだよ。一人なら、条件の緩い募集とかに参加出来る可能性はあるが……俺と一緒だと苦労するぞ?」

「むむ? 罵りなら不肖ヒロアキ! 全てを受け止める所存ですぞ!」

「罵られるの前提かよ……」


 俺は明後日の方向に張り切るヒロアキを見て苦笑する。


「正直言えば、この先のことを考えるとメイ、ヒナタ、ヒロの3人は野良パーティーを経験するのは、良いことだと思う」

「え? そうなの?」

「色んなスタイルのプレイヤーを知ることは、勉強になるからな」

「勉強かぁ……こんな世界に来ても勉強なのかぁ……」


 高校生と推測されるメイが久しぶりの勉強と言う言葉に頭を抱える。


「ハハッ……ゲーマーの俺が言うのも変な話だが、人生は常に勉強だぞ」

「そっか……リクはソラ様だから……ゲーマーなのか」

「まぁ、もう少し先の話だ。まずは、死神を討伐するか」

「はーい」


 ユリコーンの牽く馬車に揺られ、俺たちは死神の待ち構える最奥を目指すのであった。

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