スキル練習②

「ヒナタ、ヒロ、ありがとうな」

「いえいえ、私たちはいつもリクさんに助けられていますから!」

「リク殿に尽くすのは私の使命ゆえ!」


 《虚構フィクション》の発動練習に付き合ってくれた礼を告げると、ヒナタはパタパタと手を振り恥ずかしそう答え、ヒロアキは誇らしげに答えた。


「次はヒロの番だな」

「助かります」

「《カウンターアブソーブ》って熟練度がマックスになると30秒間だったけど、熟練度1だと効果があるのは何秒だ?」

「説明によれば5秒間ですな」

「5秒か……短いな。5秒経過したら自動で攻撃が発動されるから、そのつもりで位置取りした方がいいぞ」

「了解!」


 《カウンターアブソーブ》とは、一定時間に受けたダメージを増幅して相手に跳ね返すスキルだ。最初は5秒間だが、熟練度が5になれば30秒間ダメージをチャージすることが出来るし、30秒以内であれば任意で攻撃を仕掛けることも出来た。


「後は、ダメージを受けるチャージ期間が長ければ長いほど、跳ね返すダメージの倍率も上がるが……その間に回復魔法を受けたらチャージしたダメージが消失する。そこら辺はヒナタと要相談だな」


 跳ね返すダメージ量を増やしたくて、必要以上にダメージを受けた結果、そのまま消滅してしまうのは《カウンターアブソーブ》あるあるの一つだった。


「受けたダメージに比例すると言うことは、敵の攻撃は防がない方がいいのですかな?」

「反射するダメージを考えたらそうなるが……消滅したら元も子もないから、自分の中で基準を作っといた方がいいぞ」

「基準と言うと……?」

「7割までは無抵抗でダメージを受ける、5割未満になったら反撃する……みたいな基準だな」


 この基準値も様々で【天下布武】が誇る変態モンク――マックスは残りの体力が1割になるまでダメージを受けることを信条としており、回復役のメグはいつも嘆いていた。


「むむ? 7割まで無抵抗で5割未満になったら攻撃でよいのですか?」

「基準値だから、ヒロが好きに設定してもいいが……設定した基準値は必ずヒナタと共有だな。助言するなら、5割まで無抵抗、3割未満で攻撃。ここらへんが基準値の下限だな」


 1割まで無抵抗を貫く変態は一人だけでいい。


「わかりましたぞ! 5割まで無抵抗で、3割未満になったら攻撃ですな!」

「あくまで、それの値は下限の基準値な……」


 変な方向にやる気を見せるヒロアキに俺は苦笑を浮かべる。


「ヒロは《カウンターアブソーブ》の練習だから……対象は3体くらいでいいか?」


 《虚構フィクション》はタイミングがシビアなスキルだったので練習相手は1体に絞ったが、《カウンターアブソーブ》はある程度反射ダメージが大きい方が楽しくなるので、ヒロの耐久を考慮して3体を提示した。


「リク殿、よろしくお願いします!」


 俺は《索敵》を使用して周囲の状況を探る。


 発見と。


 3体で行動しているスケルトンナイトを発見した俺は、その場所へと仲間を誘導した。


「さて、アレがヒロの練習相手だ。ヒナタはヒロの体力と《カウンターアブソーブ》の効果時間――5秒を把握して適切な回復を心掛けてくれ」

「承知しました!」

「はい! 3割未満になるまでは回復魔法を我慢しますね!」


 俺の言葉に二人が頷く。


「準備が出来たら……」


 ――!?


 始めてくれ、と言葉を続けようとしたら、信じられない光景が視界に飛び込んできた。


「な、何をしている……」

「む? 準備ですな」


 俺は装備を外し上半身を露わにしたヒロアキへと声を掛ける。


「な、何の準備だ?」

「ハッハッハ! お見苦しい姿を……失礼する!」


 謝罪の言葉とは裏腹に最高の笑顔を浮かべたヒロアキは脱衣の手を止めず、最終的にはふんどし一丁の姿へと変貌した。


「もう一度聞くぞ? 何をしている?」

「《カウンターアブソーブ》の準備ですな」

「すまない……俺には今のヒロの格好と《カウンターアブソーブ》の準備と言う言葉が結び付かないのだが?」

「私の基準値は5割未満まで無抵抗、3割未満で攻撃となります」

「らしいな……」

「先程のリク殿の練習に付き合った結果、スケルトンナイトが相手となると装備をしていては、どれだけ邁進しても5秒間で体力が3割未満にはならないと悟った故、こうして装備を外した所存ですな」

「いや……違う……そうじゃない……」


 俺は最高の笑顔を浮かべるヒロアキを見て頭を抱える。


「まぁ、見てて下され! ――《タウント》!」


 ふんどし一丁で槍と盾を持った変態ヒロアキが3体のスケルトンナイトの前に飛び出し、盾を打ち鳴らす。


「さぁ! さぁ! 来なさい! 私は逃げも隠れもしませんぞ!」


 ヒロアキは愉悦に満ちた笑みを浮かべながら、両手を広げ無防備な姿をさらけ出す。


 カタカタカタッ


「ぬ? ――《カウンターアブソーブ》!」


 カタカタカタッ


「ハァハァ……イイ! 悪くないですぞ!」


 カタカタカタッ


「ァァン!? 悪くない! 悪くないですぞー!」


 カタカタカタッ


「ング……もっと! ……もっとですぞ!」


 俺は何を見せられているのだろうか……。


 悪夢のような5秒間が過ぎ去ると……


「む? ――ハッ!」


 ヒロアキが手にした槍を突き出すと、一体のスケルトンナイトが木っ端微塵に砕け散った。


「ヒナタ! ヒールだ!」

「は、はい! ――《ヒール》!」


 目の前の悪夢に呆然としていたヒナタが俺の言葉で我に返り、傷付いたヒロアキを慌てて回復する。


「ハッハッハ! ワンモア! むむ? 《カウンターアブソーブ》はCTが長いですな」


 CT――クールタイムとはスキルが使用出来るまでの冷却期間の略称だ。


「ヒナタ! 残りの敵を殲滅するぞ!」

「は、はい! ――《結界・破魔》!」


 巫女は不死属性に強く、スケルトンナイトは不死属性だ。


 ヒナタの展開した結界に触れたスケルトンナイトの骨が少しずつ崩れ落ちる。


 ――《バックスタブ》!


 俺は結界により弱ったスケルトンナイトにトドメの一撃を放った。


 その後、残り一体となったスケルトンナイトも処理した俺はヒロアキへと向き直る。


「ヒロ」

「何ですかな?」

「今後、脱衣は禁止な」

「――な!?」


 絶望感に包まれたヒロアキを無視し、俺は更なる練習相手を探すことにした。


 6時間後。


 その後も《虚構フィクション》と《カウンターアブソーブ》の練習を重ね、《虚構フィクション》の成功率は何とか70%を超える程度には上達したのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る