次なる一手

「爺さま方、またな。本番は期待してるぜ」

「ハッ! 参加するからには、儂らは本気じゃ! 低レベルの小僧の代わりに、勝利へ導いてくれようぞ!」

「ハッハッハ……まじで期待してるよ」


 同盟締結に成功した、俺たちは【寿】の旅団ホームを後にした。


「何とか上手くいったな」

「さすがはソラさんです」

「勝利へと大きく前進しましたね」


 俺たちは交渉に成功したこともあり、足取り軽く会話を弾ませる。


「さてと、戦争は謂わばレイドコンテンツだ。この世界を代表する二大参謀なら……勝利するために一番大切なことは何か分かってるよな?」


 俺は、二大参謀――マイとクロに視線を投げかけ口角を上げる。


「「準備ですね」」


 2人は声を揃えて同じ答えを出した。


 レイドコンテンツは事前準備――作戦、人員、物資で勝敗の行方がほぼ決まる。


「それで、二大参謀の考える次なる一手は何かな?」


 俺の問いかけに、マイは何かを言い辛そうにチラチラとクロを見ると、クロが意を決して答える。


「【寿】が加わったことにより、戦力は互角になったと考えてもいいと思います。勝率を高めるために、更に仲間を増やすのも手ですが……私は相手方の切り崩しを提案します」


 クロの答えにマイは驚いたように目を見開く。


「いいのか……?」

「はい。覚悟は出来ています」

「スノーホワイト! 本当にいいのですか!」

「……はい」

「【黄昏】側の切り崩しに成功すれば、勝利は確実になりますが……その後に起こりうる問題を――」

「分かってます! 私だってこのような策は取りたくありませんが、必ず勝つ為には必要な策です」


 クロは真剣な表情でマイと向き合う。


 【黄昏】側の切り崩し。どのように切り崩すのかにもよるが……俺の想像する一番効果的な方法を用いれば、相手は疑心暗鬼に陥り……戦争が終わった後に【黄昏】へ大きな爪痕を残すだろう。


 俺の考える方法とクロの考えている方法は違うかも知れない。しかし、同じなら――せめて、俺の口から提案したほうが、精神的なダメージは少ないだろう。


「クロ、良かったら切り崩しに関して……俺も一つ思い付いた策がある。俺から提案してもいいか?」

「リクにぃ……ありがとうにゃ……でも、これは……これは……私の決めた覚悟です。私の口からみんなに説明します」


 クロは俺の思惑に気付いたのだろう。目に涙を浮かべながらも、俺からの提案を拒絶したのであった。


「そうか……。なら、一旦家に帰ろうか」


 こうして、俺たちは再び家にへと戻るのであった。



  ◆



「ただいま」

「お! 戻ったか!」

「リク、おかえりー」

「ソラさん、おかえりー!」


 家に戻ると、ツルギやメイたち新旧の仲間が全員で迎えてくれる。


「結論から言うと、【寿】との同盟に成功した」

「お! マジかよ! あの、偏屈な爺さんたちをよく説得できたな!」

「わぁお! 戦力大幅アップだねぇ!」

「Foooo! 俺は説教される前に退散するぜ! Yeah!」

「すごーい! さすがはソラさん! で、賄賂に何を渡したの??」

「これで戦力は互角か」


 同盟締結の朗報に【天下布武】の仲間たちが湧き上がる。


「誠意を持って話した結果だな」

「ソラの誠意……?」

「話し合いと言う名の殴り合いで物理的に説得したとかぁ?」

「Foooo! 前に、ふんどしをプレゼントしたらぶちキレてたぜぇぇぇええ!」

「誠意と言う名の黄金のお菓子かな?」

「誠意か……」


 このアホたちに危機感を持て……と、言っても無駄だろうな。俺が不在のとき、マイの胃が大丈夫だったのか心配になる。


「説得の経緯はどうでもいいとして、次なる作戦を伝える」

「ほぉ……イイね!」

「わぉ! 見た目は違うけど、その雰囲気はやっぱりソラさんだねぇ」

「Foooo! Yeah!」

「【天下布武】のソラは健在だね」

「次なる作戦か……」

「私たちも手伝えることがあったら言ってね!」

「はい! お手伝いします!」

「リク殿のご命令とあらば、すべてを捧げる所存!」


 士気が高まる仲間たちを前に、俺は視線をクロへと移す。


「作戦の詳細は……クロ、任せたぞ」

「はい! 次なる作戦の目的は――【黄昏】側の戦力切り崩しとなります」

「ほぉ……切り崩しね。冷血眼鏡の本領発揮ってか!」

「ツルギさん、失礼ですよぉ!」

「カッカッカッ! 大丈夫だ! そんな細かいこと気にするタマじゃねーよ」

「もぉ」

「話を続けてもよろしいですか?」

「お、おう」


 クロの氷のような視線に射抜かれて、ツルギが押し黙る。


「具体的な策として、私がスノーホワイトであることを宣言します!」

「クロちゃんがスノーホワイトさんって言っても、みんな信じるかな?」

「そうですね。メイねぇの言う通りです。しかし、多少なりとも疑心暗鬼にさせることは出来ると考えます。また、真実味を持たせるために……リクにぃがソラであることも合わせて公表していいでしょうか?」

「構わない」


 俺は最初の目標である第五一階層に到達した。


 これからは、ソラの時代に貯めていた装備品も駆使して、ノンストップで駆け上がる予定だ。今更、正体を隠す必要はない。


 また、【天下布武】の団長に戻るのだ。隠し通すことは不可能だろう。


「リクにぃ、ありがとうございます。併せて、【黄昏】側へのネガティブキャンペーンを実行します。具体的には――【黒天】の存在を中心に、責め立てます。これらの2つの活動により、【黄昏】からの離脱者……そして、【メサイヤ】と【セラフ】の寝返り工作を計ります」


 一般的なプレイヤーはPK旅団を忌避している。今回どうやって【黒天】が【黄昏】の懐に潜り込んだのかは謎だが……そこを徹底的に突けば、多くのプレイヤーがこちらに流れ込んでくる可能性は高い。


「ひゅー! エゲツねー作戦だな」

「戦争が始まる前に終わっちゃうかもねぇ」

「冷血め……スノーホワイト恐るべしだね」

「後は、ソラさんが復活したことを大々的に喧伝し、こちらのポジティブキャンペーンも実行しましょう!」


 最後にマイがクロの作戦に補足を付けた。


「まぁ、作戦はこんな感じだ。とりあえず、俺とクロの復活を公表するため……【天下布武】の旅団ホームに帰ろうか」

「「「おー!」」」


 戦争の準備が本格的に始まったのであった。

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