凱旋
クロの立てた作戦を決行するために、俺たちは【天下布武】の旅団ホームへと移動した。
「メンバーを招集します。皆さまは、この部屋でお待ち下さい」
マイはそう言い残すと、執務室に俺を含めた【天下布武】に入団していないメンバーを残して、立ち去った。
「うわぁ……凄い……うちら、【天下布武】の執務室にいるんだー」
「この部屋を舞台にしたお話もたくさんありましたね」
「簡素ですが、気品を感じる部屋ですな」
「ボクが【天下布武】の執務室にいるのも、少し信じられないにゃ」
「あ! いつものクロちゃんだ!」
「うんうん! やっぱりクロちゃんはそっちの方が素敵ですよ」
「だよね! だよね! キリッとしたクロちゃんもカッコ良かったけど、うちは今のクロちゃんの方が好きだなー」
「にゃはは……さすがにみんなの前以外は恥ずかしいにゃ」
「わぉ! それってうちらが特別な関係ってことだよね!」
「にゃはは……そうにゃ。ボクにとって、メイねぇ、ヒナねぇ、ヒロにぃ……リクにぃは特別な存在にゃ」
「もー! クロちゃん大好き!」
メイとヒナタが勢いよくクロに抱き着いた。
そんな仲間たちの仲睦まじい様子を眺めていると、マイからメールが届いた。
『1時間後。訓練所にお願いします』
1時間後か……。思ったよりも早いな。
【天下布武】は【黄昏】と比べると、かなり小規模な旅団ではあるが、100人以上が在籍している。全員がこの旅団ホーム……いや、この階層にすらいないだろう。冒険している者、買い物している者、装備を強化している者……など、団員は各自自由に過ごしている。
まぁ、緊急事態だ。多少強引な招集でも文句は出ないだろう。
「作戦の決行は、1時間後だ」
簡潔に伝えた内容に、先程まで笑顔だったクロの顔が真剣な表情へと移り変わる。
「了解しました」
「あー! また、怖いクロちゃんに戻った!」
「にゃはは……メイねぇ勘弁してほしいにゃ」
詰め寄るメイにクロは苦笑するのであった。
◆
1時間後。
俺たちはマイの指示を受け、訓練所に設置された壇上の幕の裏で待機していた。
「皆さま、突然の召集にお応えいただき、ありがとうございます。差し迫った危機的状況の中、重大な報告がございます」
マイの落ち着いたよく通る声が訓練所に響き渡る。
マイの真剣な表情と声音に、いつもは騒がしい【天下布武】のメンバーが静聴を続ける。
「本日! 我ら【天下布武】に! 真のリーダー――ソラさんが帰還されました!」
「お? あの噂は本当だったのか?」
「やっと帰ってきたか」
「真打ち登場ってか」
「噂だと、セカンドキャラだろ?」
「『風の英雄』とか名乗って、中層でイキってたと噂のソラか!」
「この短期間で王城に到達するとか……相変わらずの廃人かよ」
「『風の英雄』コールか? 『風の英雄』コールをすればいいのか?」
「『風の英雄』ってことは風属性なのか? ドM じゃねーか!」
「なら、『ドM』コールのほうがいいのか?」
「おいおい! 我らがリーダーソラだぞ? 絶対にぶち切れるだろ?」
「まだレベルは60って噂だ……今なら余裕で勝てるだろ?」
「――! ま、待て! マイを見ろ!」
「あ、あの目は……危険だな」
「……これ以上の悪ノリは控えるか」
先ほどまでの静聴は幻だったのだろうか? 一部の団員が騒ぎ出す。
「ん? 何かうちのイメージしていた【天下布武】と少し違うかも?」
「『炎帝のソラ』様は絶対的な団長なはずです」
小説やアニメの中の俺――『炎帝のソラ』は絶対的な団長なのか……。残念ながら現実は少し異なる。
「どんなイメージを抱いていたのか知らないが、現実はこんなもんだ」
プロフェッショナル集団なんて言われているが、実際は我の強い廃人の集まりだ。中にはまともな人格者も数人いるが、全員に共通していることはIGOを――この世界を心から楽しんでいるということだけだった。
「お静かに願います。それでは――ソラさんお願います」
マイは後方――俺が待機している幕へと視線を移した。俺は幕を捲りあげ、壇上へと進んだ。
「まずは、久しぶりだな。そして、長い間留守にしていてすまなかった」
俺は第一声として謝罪し、頭を下げた。
「お! アレがソラさん?」
「若くなってないか?」
「噂の『風の英雄』登場ってか」
「なーんか、ソラってよりソラの弟って感じだな」
「本物なんだよな?」
「マイさんがアレだけ信頼してるから本物じゃねーか?」
団員たちが騒ぎ出す。
「えっと、とりあえず話を続けていいか?」
「皆さま、静粛に!」
マイが手にした槍の柄を地面に叩き付けると、あたりが静まり返った。
「今の俺の名前はリク。一部のメンバーは知ってるみたいだが、風属性のトリックスターでレベルは60だ。戦力としては【天下布武】の中でも最弱だと思うが、出来る限りの貢献はする。改めて、よろしく頼む」
「せーの……!」
「「「ソラさん、おかえりー!」」」
「ソラの強さを当てにしたことは一度もねーから、安心しろ!」
「今後はか弱い団長を守るプレイをすればいいのか?」
「大将らしく後ろでドーンと構えてな!」
「ソラ……もといリクが出来る貢献か……。これは別の作戦会議が必要だな」
「風属性になったソラさんの強さを一度確認したいですね」
「俺らが守ってやるから安心しな!」
お祭りのように騒ぎ出す【天下布武】の仲間たち。
このバカ騒ぎ懐かしいな。
俺は帰るべき家に帰還したことを実感したのであった。
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