交渉
「爺さまは、この世界をPKが横行する世界に変えたいか?」
「PKはこの世界が許したルールの一つじゃ。とは言えじゃ、一方的なPKは好かんのぉ」
「俺も同じ考えだ。だから、過去にクリーンアップキャンペーンを実行した」
「そうじゃったな。アレはアレで一つのイベントとして楽しかったのぉ」
タムラは昔を懐かしむように目を細める。
「今回の戦争を受ける理由は――クリーンアップキャンペーンと一緒だ。この世界の秩序を守るためだな」
「ふむ……それはアレか? 【黄昏】に【黒天】のバカタレ共が参加していることを言うておるのか? しかし、今回の盟主は【黄昏】じゃ。あそこの大将はアホじゃが、PKの横行を許すほど愚かではなかったと記憶しておるが?」
「爺さまの言う通り、【黄昏】の団長――ゼノンはアホだが、同時に曲がったことを嫌うタイプのプレイヤーだな」
「うむ。【黒天】のバカタレ共と組んだのは感心せんが、主導権は変わらず【黄昏】が握っていると、聞いておる」
「表向きはそうかも知れないが……裏で実権を握っているのが、【黒天】だとしたら、どうする?」
タムラとの交渉を成功させるなら、知り得た真実を包み隠さず話すべきだろう。真実を伝えて……尚、断られたなら、【寿】の協力は諦めるつもりだ。
「ふむ。儂は陰謀論や誹謗中傷の類の噂は好かん。そこまで言うなら、証拠はあるのじゃろうな? 小僧の推測……とか、愚かなことを言うなら、今すぐに立ち去るのじゃ」
タムラの表情が険しくなる。
「証拠か……納得してくれるが分からないが、俺は知り得たすべての真実を話す。その話を聞いて、爺さまが判断してくれ」
「つまらぬと感じたら……その時点で、話は終いじゃぞ?」
「了解。まず、共通認識の確認だ。今じゃなく、俺たちの知っている【黄昏】の実質的な管理者は誰だ?」
「眼鏡の嬢ちゃんじゃろ? 名前は確か……」
「スノーホワイト」
「じゃったな。しかし、眼鏡の嬢ちゃんは小僧と同じく行方不明と聞いておるぞ?」
「スノーホワイトは俺と同じくセカンドキャラでインしている時に、あの災害――外部遮断に巻き込まれた」
「ほぉ……そんな噂は耳にしたのぉ」
「そして、そのスノーホワイトのセカンドキャラが――彼女。今の名前はクロだ」
俺はクロへと手を差し伸べた。
「――!? な、なんと……それは誠なのか?」
「タムラ様、ご無沙汰しております。今はこのような姿ですが、私は【黄昏】のスノーホワイトです」
今まで無言を貫いていたクロが初めて言葉を発する。
「むむむ?」
「私がスノーホワイトであることの証拠を示せ……と、言われても何を示せばいいのか分かりません。ただ……信じて下さいとしか言えない自分の無力さが歯がゆいですが……私は【黄昏】のスノーホワイトです」
「むむ……小僧がこのような回りくどいことをするとは思えぬが……この猫の嬢ちゃんがスノーホワイトと言われて、すぐに信じる訳には……むむ……困ったのぉ……」
「――! そうだ! ヨシダさん! ヨシダさんはいらっしゃいますか?」
「ヨシダさんとは……サヨちゃんのことか?」
「はい。ヨシダさんとはある共通の趣味をきっかけで、親しくさせて貰っていました。ヨシダさんであれば、私がスノーホワイトであると分かってくれるかも知れません」
「ふむ……そうじゃな。ちと、待っておれ」
タムラはシステムコンソールを操作する。クロの指定したヨシダさんにメールを送っているのだろう。
3分ほど待つと、和服姿の小綺麗な年配の女性が姿を表した。
「あら? あら? 団長? 急ぎの用とは何ですか?」
「お、すまんの。サヨちゃんに聞きたいことがあってのぉ」
「はいはい。何ですか?」
「この猫の嬢ちゃんが、【黄昏】の眼鏡の嬢ちゃんらしいのじゃ」
「あらまぁ! 本当に? スノーちゃん可愛らしくなったわね」
「サヨお婆ちゃん……お久しぶりです」
「サヨちゃんや、この猫の嬢ちゃんが……本当に【黄昏】の眼鏡の嬢ちゃんなのか、確認してくれんかのぉ?」
タムラに確認を頼まれたヨシダは柔和な笑みを浮かべると、ポンッと手を付いた。
「そうですねぇ……スノーちゃん、貴女の大切な子供の名前を教えて下さいな」
「はい。コテツ、ムサシ、イオリです」
「じゃあ、次に私の大切な子供たちの名前は?」
「日向ぼっこが大好きなミケと好奇心旺盛なタマです。タマが昨年脱走したときは、本当にビックリしましたね」
クロはヨシダの質問に淀みなく答える。
「あらあら。団長、彼女はスノーちゃんです。私が保証しますよ。スノーちゃんおかえり。また会えて嬉しいわ」
「サヨお婆ちゃん……私も……嬉しいです」
ヨシダはクロに近付き、優しく抱きしめた。
「と言う訳で、彼女が【黄昏】のスノーホワイトだ。このことを認識した上で、今から俺の話を聞いてくれ」
そして、俺はタムラに……ここに集まった【寿】のメンバーに、クロの仲間への想いと、先程クロを襲った悲劇を話した。
「な、な、なんとも
「団長。私は団長が止めてもスノーちゃんを助けますね」
「ほんに酷い話じゃ……猫の嬢ちゃん大変じゃったのぉ……」
「うぅ……うぅ……可愛そうに……ほんに可愛そうに……」
「やはり、奴らは癌じゃな」
周囲に集まっていた【寿】のメンバーがクロに同情する。
「【天下布武】の団長として、【寿】の団長――タムラに改めて依頼する。俺たちと同盟を組んでくれないだろうか?」
俺は姿勢を正し、改めて同盟の締結を依頼。
「カッ! ほんに食えん憎たらしい小僧じゃ。こんな空気の中で断れる訳がなかろうて! 締結……! 今宵、儂ら【寿】は【天下布武】と同盟を締結する! 皆も良いな?」
「「「当然じゃ!」」」
こうして、老いて益々盛んなプロフェッショナル集団――【寿】との同盟締結に成功したのであった。
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