試し切り(メイver)
元気よく馬車から飛び出したメイは、漆黒の鎖鎌――冥王の分銅部分を振り回し、舌舐めずりする。
「へへっ、ど、れ、に、し、よ、う、か、なぁ♪ っと!」
遠心力を利用して投擲された分銅は寸分違わず、ゴブリンの眉間に吸い込まれ、
「ブギャッ!?」
分銅を受けたゴブリンはその重すぎる一撃で地に倒れた。
「わぉ! ワンキル♪ んん? リク、このゴブリンって本当に強いの?」
「ゴブリンが弱いのではなく、その鎖鎌が強すぎるだけだろ?」
「へへっ、なるほど」
メイは嬉しそうに褒められた鎖鎌に視線を落とす。
「よし! 試し切りは終わったか? 次は俺の番――」
「んな訳ないじゃん! まだまだだよー!」
早く試し切りがしたい……。
「お次は……いっくよー! ――《
メイの放った漆黒の闇を纏った分銅は、ゴブリンの胴体を締め付ける。
「ん? スキルを使ったのにワンキルじゃないのか?」
先程はスキルを用いない分銅の一撃でゴブリンを葬ったのに、スキルを用いて倒せない……?
「《冥王》は攻撃スキルじゃないにゃ」
「ほぉ、継続ダメージ? もしくは、デバフか?」
「正解は、吸収にゃ」
「吸収? 体力回復のスキルか」
「違うにゃ。吸収するのはステータスにゃ」
「は?」
「『一定時間、対象のステータスを奪い、己のステータスに加算する』が《冥王》の効果にゃ」
「つまり、バフとデバフを両立させたスキルってことか」
「恐ろしいスキルにゃ」
どのくらいのステータスを吸収するのかは不明だが……バフとデバフを両立させる時点で使い勝手抜群のスキルだ。
「わぉ! なんか身体が軽いよ!」
闇のオーラに包まれたメイが目を輝かせ、
「へへっ、せっかくだから使ってみようかな」
手に手裏剣を取り出すと、
「ニンニンニン♪」
無造作に投擲したとしか思えない手裏剣は、見事に生き残った2匹のゴブリンの眉間に突き刺さった。
「あれ? もう終わり?」
「終わりだな。次は――」
「まだー! 『
「あいよ……さっさと終わらせて交代しろよ」
「あー! さっき偉そうに言ってた先達者の義務はー!」
「ん? 今の俺はどちらかと言えば新人寄りだろ」
「うっわ! 出た! いつものリクだよ!」
「へいへい……東側に7匹のゴブリンがいるな。サクッと倒してこい」
「《索敵》ならうちも使えるもんね!」
メイは軽やかな足取りで東へと疾走。後を追いかけると、すでに7匹のゴブリンと戦闘していた。
「ソラさん……」
「ん? アレが新人なら……俺も新人だろ?」
俺はマイが小言を言う前に皮肉を口にする。
「メイさんのファーストキャラは誰ですか?」
「メイのファーストキャラはメイだよ」
「ソラさんやスノーホワイトのように……」
「いや、メイはこの世界に来て1年未満のプレイヤーだよ」
自分の尻尾を飲み込んだ蛇をモチーフにした武器を投擲し、風の纏った鎖鎌で楽しそうにゴブリンを蹂躪するメイを眺め、俺は思わず苦笑する。
「いっけー! ――《
メイの放った投擲武器がゴブリンたちの頭上を旋回すると、複数のゴブリンから光が立ち昇り、空中で旋回する『永劫回帰』が吸収。光を吸収した『永劫回帰』は俺たちの頭上に飛来すると、光を降り注ぎ始めた。
「なんだこれ?」
「《永劫回帰》の効果は、『複数の対象から吸収した生命力と魔力を味方に分け与える』にゃ」
「範囲攻撃と範囲回復の両立?」
「そうなるにゃ」
「便利なスキルだな」
アタッカー一筋のメイが範囲回復を使いこなすには、練習が必要だろう。無闇矢鱈に使用しても、空打ちになる恐れるもある。
便利なスキルだけど、使いこなすのはもう少し先だろうな。
「ニンニンニン♪ ――《火遁の術》!」
湧き上がった火柱がゴブリンを包み込む。
「わぉ! 威力やば!」
超一級品の装備品を身に纏ったメイの放った忍術の威力は魔法使い系顔負けの威力だ。
「んじゃ、ラストいっくよー!」
メイは風と言うには余りにも強い――言うなれば、暴風を纏った分銅を投擲。
「――!? うそー! 頑張って! 生きてよ!」
メイの悲痛の叫び声が響き渡る。
《
しかし、発動の前準備にゴブリンは耐えられなかったようだ。
「《
「うぅ……使ってみたかったよぉ」
「これから先、使う機会は無限にあるだろ」
「んー、だね!」
「新たな武器の威力もさることながら……手裏剣を多用し始めたな。《投擲の極意》を試したかったのか?」
今回のメイの試し切りで目立ったのは手裏剣の多用だ。手裏剣は上忍にクラスアップする前から使えた。しかし、メイは手裏剣をあまり使っていなかったのだが……。
「うーん、それもあるけど……防具とアクセサリーの試し切り?」
「ん? その防具は……?」
「この防具は風魔シリーズだよ。セット効果で、忍術と投擲を強化してくれるの。アクセサリーもクロちゃんが選んでくれたけど、投擲の効果を強化してくれるの」
「なるほど。手裏剣の威力があそこまで高かったのも納得だ」
「うん! 手裏剣は消耗品だから勿体なくて、あんまり使わなかったけど……今度からは使おうかな」
「あれだけの威力なら、使わないと勿体ないな」
「鎖鎌も忍術も使いたいから、大変だよ」
「攻撃のバリエーションが増えるのはいいことだ」
「まだ、リクほど器用には立ち回れないけどね」
「まだ……か」
いつまで『まだ』の状態が続くのか……。メイの成長力に驚かされ続けるのであった。
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