今後の予定
「ごちそうさまでしたー!」
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
昼食を終えた俺たちは基地の中で一時の安らぎを楽しんでいた。
「いや、でも、すっごいね! 基地!!」
「うんうん。最初は荷台と聞いていたので、少し不安でしたけど、凄く快適です」
「しかも、この基地は移動も出来るんでしょ? まるでキャンピングカーだね!」
「まぁ、馬車としての運用はまだ先だけどな」
基地としての完成度は高いが、荷台――馬車としての完成度は低い。タイヤもスプリングも申し訳程度の出来なので、いざ走行すると相当な不快感を味わうことになるだろう。
「町の中では取り出せないのが残念ですね」
「それが、この世界のルールだからな」
「でも、今度からはここで寝れるんでしょ? 寝袋での野宿生活も楽しかったけど……正直、身体は完全に休まらなかったよね」
「幸いなことに、俺もメイも盗賊だ。《アラート》のスキルが使えるから、安全に休めるな」
《盗賊の心得》が3へと成長した時に習得したスキル――《アラート》。このスキルは指定した範囲内にパーティーメンバー以外が足を踏み入れると、警告音を響かせるスキルだ。
野営には必須のスキルで、盗賊系統のプレイヤーの募集需要を高めてくれるスキルでもあった。
「基地も手に入れたし、これからどうするの? 第十階層の階層主に挑んじゃう?」
メイがワクワクとした様子で尋ねてくる。
「そういえば、第十階層の階層主ってどんなモンスターなのですか?」
「第十階層の主は――
俺はヒナタの質問に答える。
「蛟ですか……? どんなモンスターなのですか?」
「端的に言えば、巨大な蛇だな」
「へ、蛇ですか……」
蛇と言う単語に、ヒナタは身体を震わせる。
「それで、そいつは強いの?」
対してメイは強気な姿勢を崩さない。
「強いな」
俺は蛟を思い出し、一言で答える。
「ミノタウロスより?」
「段違いに強いな」
「そんなに?」
ヒナタの質問に俺は首を縦に振った。
仮に俺――リクが、ヒナタとメイと出会わず、この世界にソロで挑んでいたとしたら、最初の難関はこの蛟になっていただろう。
「まずはソロで倒すのならば、最低で30日以上の準備期間が必要になる」
「そうなの?」
「蛟は強烈な毒を吐くのだが……その毒は命中しなくても、霧となり毒に侵される」
「回避不能ってこと?」
「上の階層に行けば装備品で対策も取れるが、現状だと対策不可能だ」
「むむむ……と言う事は、毒消し草を用意しないとダメだね」
「蛟の毒は強烈で、この町や六階層の村で販売している毒消し草では治療が出来ない」
皮肉なことに蛟から受けた毒を治すアイテムは、蛟を倒した先にある第十一階層以降でないと販売していない。
「え? それじゃ、どうするの?」
「対策は二つある。一つは第十階層で採取出来る満月花で治療する」
「なんだ! 簡単な方法があるじゃん」
「しかし、満月の日の0:00〜1:00しか採取が出来ず、採取量も僅かだ」
「ダメじゃん」
「だから、ソロだと満月花の必要数を揃えるのに準備期間が最低でも30日は必要になる」
「うへ……もう一つの対策は?」
「魔法だ」
「魔法?」
「《僧侶の心得》が5に成長すれば習得出来る、《リフレッシュ》があれば、治療可能だ」
「お! ヒナの《僧侶の心得》っていくつだっけ?」
二つ目の解決策に光明を見出したメイは明るい表情を浮かべ、ヒナタに尋ねる。
「私の《僧侶の心得》は5ですよ」
「わぉ! 凄い! バッチリじゃん!!」
クラススキルである“〇〇の心得”は5までは比較的容易に上がり、そこから先へ上がりづらく……10に達成するとカンストとなる。
「えへへ。私もお役立ち出来るのですね」
明確な、しかも本職であるヒーラーとしての役割に、ヒナタは嬉しそうに微笑む。
「そうだな。対蛟において僧侶は絶対的に必要な存在だ」
「うぅ……プレッシャーを感じますが、頑張ります!!」
ヒナタは拳を強く握りしめる。
「まぁ、幸いなことに俺たちのパーティーには僧侶――ヒナタがいる」
「うんうん! これなら第十階層の突破も簡単そうだね!」
「ヒーラーって……私の存在って何だろう……って悩んでいましたが……ようやくなのです!」
明るい表情で喜びあうメイとヒナタ。
「喜ぶのはまだ早い」
「あ、分かった!」
「は、はい……油断はよくないですよね!」
「アレでしょ? また、連携の練習とか必要なんでしょ?」
メイは、言われなくてもわかってるよ!と言わんばかりに、どや顔を決める。
「作戦会議は必要だが、ミノタウロスのときの様な練習は不要だな」
「へ? そうなの?」
「但し……」
「「但し……?」」
「新しい仲間――タンクが必要不可欠だ」
俺はプレイヤースキルでは補えることが出来ない、大きな課題を告げたのであった。
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